第17話 師匠はつらいよ

 初めてのダンジョン攻略を終えた俺たちは、村へと戻ってきた。


「師匠、明日はどうしますか?」


 教会へと続く分かれ道の前で、ミレインがそう訪ねてくる。

 うーん、正直まだ何をしようか決めかねているんだよな。ミレインはともかく、メルファにはまだまだ経験が必要だろうから、他のダンジョンに足を運ぶのは控えたい。

 となると、活動はだいぶ限られるな。


「あ、あの、よろしければ明日も町へ行ってみませんか?」


 おずおずと手を挙げながら提案をするミレイン。


「何か用があるのか?」

「いい感じのお店があったので、ちょっと覗いてみたくて」

「武器屋か?」

「いや、その……」


 何やら言いにくそうにしているミレイン。どうしたんだと疑問に思っていたら、メルファにズボンを引っ張られた。何か言いたげだったので腰を下ろし、耳を近づけてみると、


「察してあげなくちゃダメだよ」


 やんわりと注意されてしまった。

 年頃の女の子が町へ……そして言いにくそうにしているという状況から察するに――なるほど。男の俺にはあまり伝えたくない物を買おうというのだな。


「分かった。じゃあ、俺は畑の手入れをするか」

「えっ?」

「えっ?」


 な、なんだ?

 まだ何かあったか?

 

「し、師匠は来てくれないんですか?」

「いや、俺が行っても――むぐっ!?」


 突然、右足を誰かにつねられた。

 ……まあ、犯人はメルファって分かっているんだけどね。痛くはなかったけど彼女の突き刺すような視線の方がよほど心にダメージを与えるよ。俺、また何かやっちゃったのかな。


「明日もみんなでリゾムへ行く」


 あえて「みんな」という部分を強調するメルファ。

 うぅむ、どうもミレインは俺やメルファも一緒にリゾムへ行きたかったようだが……俺としても今回は長居できなかったし、ゆっくりと買い物もしたい。ミレインも行きたい店があるというならそれに付き合うのもいいだろう。


「じゃあ、みんなでリゾムへ行くか」

「やった!」


 途端に声が弾むミレイン。

 ここまで表情豊かだったかなぁ……アルゴたちのパーティーに所属していた時は「救世主らしく」と変に気負っていたのかもしれない。

 そう思うと、今の明るくて表情がコロコロ変わる姿こそ、本来の飾らないミレインってことなのかもしれないな。

 ――と、そうだ。

 

「ありがとう、メルファ」

「どうしてお礼?」


 俺が感謝の言葉を口にしたのが不思議だったのか、カクンと首を傾げるメルファ。


「君がいてくれなかったら危うくミレインを悲しませるところだった」

「……ミレインもあなたがそういう人だって分かっているから、きっとすぐに立ち直ったと思うけど」

「うっ……」


 何も言い返せなかった。

 やれやれ、これでは師匠とは呼べないな。

 年頃の女の子の気持ち、か……少しは理解を深めていかないと、そのうち愛想を尽かされてしまいそうだ。

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