Q.超人気アイドルのボクにえっちな展開は起こり得るのか?
復讐神コウ
凪掛澄華が完璧で究極なアイドルになるまでの軌跡、所謂プロローグその1
「————♪ ——♪」
此処は都内某所のライブ会場。全アイドルが目指すべき頂とも言われる会場のステージに煌びやかな衣装を纏った少年が歌っていた。
少年がワンフレーズを歌へと乗せるたびに会場のファンのボルテージが最高潮に達し続ける。
最後の一節を歌い切った少年はすぐさまМCの役割を
「——みんなー!」
『オォォォオオォォ!!!』
たった一声、たった一言で会場の総てを魅了し、支配する姿は
会場の熱気は止むことが無く、次はどんなことをするのかとファンは少年の一挙手一投足心待ちにしていた。
「ライブ盛り上がってるー!?」
『オォオオォオオォオオオオォ!!!』
「ボクもサイッコーに楽しんでるー!」
『オォオオォオオォオオオオォ!!!』
少年が話す度に会場全体を震わすほどの歓声を上げるファンの姿に思わずといった様子で少年は楽しげに話す。
「しかーし! 次で最後の曲だ!」
『えええええええぇぇぇぇぇ!?』
「もうボクカバー曲も含めて150曲は歌ったよ!? たとえ
『イェェェェイ!!!』
「いや『イェェェェイ!!!』じゃなくて!?」
短いファンとの茶番劇をした少年はやれやれと大袈裟に肩を竦めながら、裏方にいる音響担当に数瞬目線を合わせる。その視線を受けた音響担当の男は慣れた手つきで少年のご希望通りの操作をする。
するとすぐさま聞こえてくる音楽に会場の空気が一変する。否、少年が意図的に変えたの方が正しい。
「————さあさあ大トリを飾るのはこの曲だ! ボクのデビュー曲にして最大のヒット曲! 『Starting Sound ~はじまりの
『オオオォオォオォォォォオオオオォオオォオオォオオ!!!』
最早悲鳴のような声でファンが騒ぎ立てる。まるでこれを待っていたんだと、言葉が聞こえんばかりに一度落ち着いたボルテージが再度最高潮へと返り咲く。
「——♪ ————♪」
男性らしからぬソプラノボイスで歌い始めたかと思えば、荒々しくも優しさを感じる重低音ボイスで歌う少年にファンはまるで別人が歌っているかと錯覚する。
振り付けのダンスも一切無駄のないしなやかな動きでファンサもしっかりとこなす少年にファンは虜になる。
男の子とも女の子とも取れるあどけない顔立ちから放たれる色気に興奮冷めやらぬ最前列席にいたファンは少年という名の沼へと堕ちる。
歌唱スキル、ダンススキル、ビジュアル。どこを取っても一級品な少年は、まさに【王様】だった。
後にこのライブを見たファンの一人が語る。
————
そんな少年──凪掛澄華のアイドルになる前の人生は、はっきり言ってしまえば退屈以外の何物でもなかった。
澄華の家族である父は寡黙な性格で、殊に仕事の話に至ってはどんな仕事をしているのかすら澄華に教えない程だった。
しかし、父は何故かとんでもなくお金を保有しており、不自由なく暮らしていた。
逆に澄華の母は父とはまるで正反対な性格で明るく社交的な人間でとても若々しく、美人な母だった。
その所為か、澄華が中学生となった時に入学式で姉弟だと間違われるくらい母の容姿は子供らしい。
父母の両極端な性格とかなり裕福な家庭で生まれ育った幼少期の澄華の心情は非常に辟易していた。
そんなある日、澄華に転機が訪れた。そう、それがアイドルだった。
小学生に入りたての頃、澄華はテレビに映っているアイドルという存在に夢中になり、その職業に心を奪われた。
「ママ。ボク、アイドルになりたい」
澄華の母はその言葉に驚愕し、何故か泣きそうな顔をした。澄華が見た母の顔は様々な感情が入り混じった複雑な表情だった。
澄華が聞けば、母は昔アイドルをやっていたらしい。しかし、一人、また一人とメンバーが次々にライバル事務所に電撃移籍し、残ったメンバーが母一人になってしまったことでアイドルグループが自然消滅してしまったそうだ。
そう辛く語る母の顔を見て、初めて澄華は退屈が裏返りそうな予感がした。
「じゃあボクがママの夢、叶えてあげるよ」
気付けば澄華は母に宣言した。その時の母の安心したような顔を澄華は生涯忘れることはないだろう。その顔は誰が見てもヒロインだった。
それ以降、母は付きっきりで澄華のアイドルになる為の特訓を手伝った。
アイドルに必要なノウハウは母の経験や知識の元、母は我が子を鍛え上げていった。
常人がやれば三日もせずに投げ出す地獄のトレーニングを受けながらも澄華は嫌な顔など一つもせず喜色満面の笑みだった。
何故ならただただ楽しいからだ。澄華にとってこの厳しいの一言では済まされないトレーニングは自分のアイドルとしての経験値を貯めている段階という認識だったからだ。
初めて自分がのめり込める趣味というものを見つけた子供というのはとても頑固とよく聞くが、澄華のそれは狂気の沙汰だった。
ただし、澄華も疑問に思ったことがあった。
「ママ。どうしてボクはキックボクシングをしてるの?」
澄華の疑問は最もだ。そんな問いに母は言った。
「いい、澄華? 澄華が目指しているアイドルっていうのはね、少しでも気を抜けば死が待っているの」
「『し』? 『し』って死ぬってこと?」
「命が無くなるって訳ではないからそんな震えなくて大丈夫だからね!?」
母曰く、アイドル業界、ひいては芸能界という場所は戦場なので何時でも物理で制圧出来るようにしとくのが一流のアイドルとの事らしい。
「だから澄華にはこれからありとあらゆる武道の修練を積んでもらうから頑張ってね!」
「うん、分かった」
母に言いくるめられた澄華は小学校を卒業までの間にいくつもの武道を身につけた。
これを知った父は、顔には出さなかったが息子と話し合わなかった事と母を好き勝手さした事を後悔した。昔からこういう癖があることを分かっていたのにそれを咎めなかった自身に失望する。
中学に入り、漸く念願のアイドルデビューを果たした澄華は僅か三ヶ月ぽっちでKOIの称号を勝ち取った。あまりにも呆気ない母の悲願の達成に母と、なんと父も笑いあった。
そこから澄華の中学生活は怒涛の三年間だ。まともに中学に通うことも出来ずにテレビやライブに引っ張りだこだった。
そして今日、中学三年生にして全アイドルの頂とされる会場のライブ公演を果たした。
「──♪ ────♪ ──あぁ! 楽しかった!」
『ウォオォォオオオォォォオ!!!』
最後まで歌いきった澄華の表情は全てを出し切ってもなお、興奮止まない勢いがあった。ファンもそれに呼応して喝采を上げる。
「ありがとう、みんなー! ありがとうドーム! ありがとう、ありがとうー!」
澄華が手を大きく振りながら感謝の言葉を伝える。
会場全体を照らしていた照明がゆっくりと暗転を始め、澄華の姿が影へと染まっていく。
これにて、澄華のドーム公演は終演した。
会場にいるファンは澄華へと惜しみない拍手を捧げる。
今日この日、凪掛澄華は
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