妖(あやかし)の国の死を唄うもの(セイレーン) ~人と妖怪が仲良く暮らす世界を目指して妨害勢力やら妖怪王の残党やら滅びの魔女やらと戦う話~
八葉
第1話 車内の再会
夜にだけ輝く街がある。
煌びやかなネオンサインに彩られたそこは夜気に煙草の煙が交じり合いアルコールの匂いが漂う街。
そんなある盛り場の一角に
『バー・
そう表示されたスタンド式の照明看板が置かれた先には地下への階段があり、その先の両開きのドアを潜れば店内だ。
フロアはかなりの広さである。
店の造りに特別な所はない。
カウンター席があり、テーブル席の並ぶ一般的なバーだ。
薄暗い店内にはジャズが流れカウンターには蝶ネクタイの陰鬱な初老の痩せたバーテンダーがいる。
そして、店内に
スーツ姿の者もいればカジュアルな格好の者もいる
全員男だ。共通しているのは雰囲気。
罪の気配をさせ、闇の匂いをさせている。
全員がある裏社会の組織の構成員なのだ。
更に言えば大半の者は人ですらない。
人に化けた、人ならざるもの。
入口の戸が開き、1人の男が入ってくる。
身長190以上はあるだろう。大柄な男だ。
肩幅も広い。
黒髪で野性的な凄みのある男だった。
胸元の開いた黒のシャツに黒のズボン……服装は黒ずくめ。
怪我をしているのか首に包帯を巻いている。
その男が入ってきた途端、店内の男たちは立ち上がって直立の姿勢を取った。
「総長!
「お疲れ様です! 総長!!」
声を張り上げて挨拶する男たちをチラリと一瞥して、返事はせず店内に黒ずくめの大男が入ってくる。
既に酒が入っているのか足元が若干おぼつかない。
カウンターでバーテンダーから酒を1瓶受け取る大男。
「オレは寝るからよ。起きるまで誰も入るな、誰も入れるな」
低い声で言い残すと黒ずくめの大男は店の奥のドアからややフラつく足取りでスタッフエリアに消えていった。
ドアが閉まり重たい足音が遠ざかっていくと男たちが囁きあう。
「迫力が違うぜ……流石は『妖怪王』様だ」
「ああ、あれが半世紀前に大陸中を地獄に変えたゼクウ様だぞ」
やや興奮した様子で言葉を交わす男たち。
それから1時間ほどして、店の前の道路に黒い大型の蒸気自動車が停まった。
運転席の男が下りてきて後部座席のドアを開ける。
降りてきたのはまたも大柄な男だった。身長は190近い。
淡い灰色のスーツに濃い灰色のロングコートを着ている。
目つきの鋭いいかつい顔の男だ。
灰色のスーツの男が店内に足を踏み入れると中の男たちはまたも直立不動になった。
「副総長お疲れ様です!!」
「お疲れ様です!
斬因と呼ばれた男はコートを脱いでカウンター席に座る。
「
「はっ! 眠るので誰も入るなと。奥においでですが……」
バーテンダーからのグラスを受け取り、それを一息に呷る斬因。
「そうか、じゃあそのままにしておけ」
「押忍」
空になったグラスに2杯目を注ぐバーテンダー。
琥珀色の液体が満ちたグラスが斬因の冷たい笑みを映していた。
─────────────────────
ウィリアム・バーンズという男がいる。
灰色の髪で外見は30歳前後……涼やかな目元の顔立ちの整った男だ。
身長は18台半ば。引き締まった体格で肩幅はやや広め。
作家であり冒険家。
主に旅行記冒険記を多く執筆し世界中に多くのファンがいる。
旅と調理を愛し釣りを趣味にしている。
軍属だった経験もあり、特に長剣の扱いに長ける。
20代後半のある時期に事件に巻き込まれて人を超えた存在、
魔人は強大な身体能力と魔力を持ち不老の存在。
その為彼はその時から肉体的には歳を取っていない。
性格は紳士的で心優しい。……ただたまに変なテンションになる。
持ち前の冒険心と知名度から世界中に出かけていっては行く先々で様々なトラブルに巻き込まれる男。
エトワール・ロードリアスという少女がいる。
少女……とは言ってもそれは外見上の話で実際は数百年の時を生きる魔女だ。
古い知識と技術を継承するロードリアス家の末裔。
外見は少し外ハネのあるブロンドにややツリ目の大きな瞳の美少女。
身長は150台半ば。外見年齢は10代後半。
ウィリアムの個人秘書を務め公私共にパートナーである。
頭が良く大抵の事はこなせる。
その長寿と様々な世界の裏事情に通じているが故か物事を冷めた目で見がち。
だがウィリアムが絡むとよく感情的になる。
その際凶暴になる傾向あり。
特によく下半身の各部を狙ってキックを放つ。
柳生キリコという女がいる。
濃い藍色の髪で切れ長の瞳、左の目に泣きぼくろのある美人。
身長は170㎝。眼鏡を掛けている事が多い。
底知れないミステリアスな雰囲気を持つ女。
落ち着こうとしたり考えを纏めようとする時に飴を舐める癖がある。
本業は科学者であり生物工学を専門とする教授。
某企業で
その企業に纏わるトラブルに関連してウィリアムと遭遇。
彼の眼前で事故に巻き込まれて命を落とすが、その後
その際に
そして一連の事件の後でどこへともなく姿を消していた。
そんな3人が……。
今、汽車の座席で顔を突き合わせている。
座席に座っているウィリアムと並んで座るエトワール。
そして向かい合った席に座っているキリコ。
「……そんなに怖い顔をしないで」
ふふ、とキリコが目を細めて笑う。
「ああ、いや……」
言葉に詰まるウィリアム。
彼は別に怖い顔をしたつもりはないが、確かに表情は強張っていたかもしれない。
まったくの偶然だった。
旅先で乗った汽車。
2人は乗車券の番号の席に腰を下ろした。それだけだ。
そして……目の前には彼女がいた。
「あら……」
彼女はウィリアムを見てまるで友人に会った時のように微笑んだ。
「お久しぶりね」
「…………………………ええ。あなたも変わりはないか」
しばしの沈黙の後、彼はようやくそれだけを口に出した。
以前命を狙われた相手に相応しい台詞だとも思えないが、他に何も思いつかなかったのでしょうがない。
「お陰様で、とても元気よ」
穏やかに微笑んだままでキリコはそう答えた。
……ウィリアムは内心で悩んでいる。
自分たちは知人ではあるが友人ではない。
では敵か? と聞かれるとそこが悩ましい。
確かに以前トラブルにより敵対関係にはなった。
だがそれは互いの立場上……とでもいうべき対立であって感情的なものではない。
今なおその時のことを蒸し返したいかと言われればあまりそうは思えない。
ただ……彼女は極めて危険な女性だ。
彼女の持つ異能力は触れたものを黒く崩壊させて無に帰してしまうというもの。
その対象は生物でも無生物でもお構いなしだ。
「あなたも『
結局悩んだ結果、彼は無難な話題を口にした。
この汽車の行く先の話である。
北方大陸には約60程の国家が存在するが、それぞれの国主は将軍の代理として統治を任されているという形式になっているのだ。
将軍は代々
「人と会う約束があるの」
彼女は柔和な笑みを崩さぬまま端的にそれだけを口にした。
会話が途切れてしまったので、ウィリアムが新しい話題を掲示するべきかここで黙るべきか考えていると……。
突然、汽車が急停止した。
車内にいくつかの悲鳴が上がる。
荷物が棚から落ちる音も聞こえた。
「トラブルかしら?」
この状況でもキリコの様子は先ほどまで世間話をしていた時となんら変わりがない。
「何があった……?」
窓を開けて外を覗くウィリアム。
前方の線路脇のいくつかの家屋が倒壊してもうもうと煙が上がっている。
そして、そこに何かが……巨大な何かが……。
ゆっくりと立ち上がろうとしている。
それは青白い岩石のような表皮を持つ巨人とでもいうべきか、そういうものだ。
「まずいですねー。線路に来るかも」
「ああ……」
エトワールの言葉にウィリアムが眉をひそめて頷いた。
あのまま線路側に巨人が移動すればあっちにそのつもりが無くても線路は破壊され使用不能にされてしまうだろう。
「…………………」
無言で立ち上がろうとしたキリコの手を掴んでウィリアムが止める。
「あら……」
「あなたはダメだ! 座っていてくれ……」
ウィリアムが慌て気味にそう言うとキリコは素直にまた客席に腰を下ろした。
そして肩をすくめて苦笑する。
「私が行けば早いのに」
「それは最後の手段にしてくれ。そうしなくて済むようになんとか私がやってみるよ」
ため息をつきながら荷物の中から覆いに包まれた愛用の長剣を取り出すウィリアムであった。
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