後日談 刺激的な一夜
「なはは、その、本当に悪かったって」
「……いえ、理性では受け入れたんです。理性では」
今日は、アルトとデートの前日。
オレは絶縁状態だった
「ですが……、一言くらい私に報告があっても良かったんじゃないですかね」
「ご、ごめんよユリィ」
アルトが何故か重傷を負った日から、時折デートに誘ってくれるようになった。
そこにどんな因果があるかは知らないが、わがままは言ってみるモノだ。
しかしデートの回数が増えたのは嬉しいが、その準備もしておかねばならない。
オレは元々、男とのデート用の服なんか用意してなかった。最近やっと数着買ったが、同じ服を着回すのもそろそろ限界だ。
新しい私服を購入せねば。とはいえオレのセンスで選ぶと、白が基調の服ばっかになる。
誰かの意見が欲しい。キャピキャピギャルの、ファッションセンスが欲しい。
こんな時、バーディは糞程も役に立たない。ルートは誘ってみたが、にべもなく断られてしまった。最近、距離を置かれている気がする。
そんなこんなで、オレはほぼ絶縁状態だったユリィに頭を下げ、宥めすかし、一緒に買い物に出かけたのだった。
彼女も大事な友人だ、いつまでも絶縁状態はイヤだったし。
この買い物も、ユリィと関係を修復する意味合いもあったりする。
「分かってたんですよ。アルト様が私を見てなかったことくらい。でもそれはアルト様が女性に疎い、朴念仁だからと思っていました」
「まぁ、朴念仁ではあるだろうが」
「いつか女性に興味を示したら、私も正面から想いを告げるつもりだったんです。お慕い申しておりましたと」
「……そっか」
「それを……、それを! 媚薬を盛って一晩過ごし、強引に意識させるとか。フィオさんはズルいです」
「ごめんな」
「もー良いです、フィオさんとアルト様がくっついたのはただの事故ですから。その代わり私が事故を起こしても、フィオさんは納得してくれるんですよね?」
「あー……。アルトの口からお願いされたら、納得すると思う。だけどオレはやだぞ。ユリィがアルトに迫ってたら、妨害はさせてもらう」
「ええ。その妨害をはねのけて、私はお妾さんの座を獲得します」
「はぁ、諦めが悪いというか、ユリィらしいというか」
久しぶりに話してみたが、ユリィは欠片も諦めていない様子だ。
これは気が抜けん、
……こっそり見張ろうかな?
「それで、今日はどこに行くのです?」
「そーだな、服買って、そんで……。あ、エッチな店とか行ってみるか?」
「そ、そういうお店にはいきません。お酒もあまり好きではないですし……」
「違う、酒場じゃなくてエッチなモノを売ってるお店。結構面白いんだぜ」
オレはユリィに、アダルトショップへ寄り道しようと提案してみた。
今日で、ユリィとギクシャクするのは終わりにしたい。下ネタで腹を割って、以前の関係を取り戻すとしよう。
下世話な話は、人間関係を潤滑にするのだ。
「え、エッチなモノ? それって一体、うごごご……」
「あの魔本の生成にも、資料が必要なんじゃないか? まだこそこそ描いてんだろ?」
「う、うう」
くるくると目を回し、ユリィは葛藤している。可愛い。
「その、男同士で使う道具とかも売ってるのでしょうか?」
「売ってるんじゃね? 知らんけど」
「で、では少しだけ……」
「よっしゃ」
こうしてオレは、エログッズでユリィにセクハラする権利を勝ち取ったのだった。
やったぜ。
「ほら。これ、見ろよ。アルトのデカさは丁度こんくらいだ」
「は、はわわわ!」
店に入ったオレはとりあえず、男の象徴を模した張り子をユリィにグリグリ押し当ててみた。
開幕のセクハラとしては、これくらいがちょうどいいだろう。
「こ、こ、こんなサイズなんですか?」
「おう、割とデカいぞアイツ。初めての時は正直、痛かったな……」
「アルト様のアルト様が、まさかアルト様までご立派とは」
ユリィは興奮しながらも、しげしげとチン●を掴み凝視した。
彼女のファンが見たらどんな顔になるかな。
「因みにルートは……こんくらい」
「コレよりおっきいんですか!?」
「戦闘態勢は見たことないから推定だけどな。平常時はアルトよか大きいぞルート」
「へ、へぇーっ! へぇぇー!」
ユリィはかなり興奮気味だった。
なんだ、下ネタ苦手かと思ったら案外食いつくじゃん。
「……因みにバーディはこんなもん」
「あら、可愛い」
「それ、絶対に本人に言ってやるなよ。まぁ平均チョイ下ってとこだ、他二人がデカすぎるだけだ」
「フィオさんは男のチ●コに詳しいんですね!」
「そんなに褒めるなよ」
まぁサイズの平均は前世の知識だから、この世界の平均かどうかは知らんけど。
「ねぇフィオさん、これは何ですか? 二つ●ンコがくっついてますよ!?」
「あー、女性同士用の双頭ディ●ドだな。こっちにもあるのか……」
「これは? これは!?」
「おいおい、あんまり騒ぐなユリィ。こういう店には静かに、それがマナーだ」
「あ、そうですね」
オレは興奮しているユリィを宥めつつ、店内を回った。
「……? 何ですかこの変な壺?」
「おお、それは……。うん、一人用だな」
この世界でも、オナ●は赤と白の縞々のようだ。
ユリィは疑問符を浮かべ、そのTEN●Aもどきを見て訝しんでいた。オナ●は知らないらしい。
「これで店内は一周しましたかね」
「良い魔本のネタになったか? そろそろ服、買いにいこーぜ」
「はい、分かりました。……こっそり出ましょうか、この店に居るところを知り合いには見られたくないです」
「まぁ、ユリィのイメージではないな」
────ピタリ。
ユリィに声をかけ、店の外に出ようとしたその瞬間。
オレは入り口から見覚えのある顔が入ってきたのを見て、ユリィの腕を引っ張った。
不思議そうにきょとんとしているユリィに、シーっと指を口元に当てた後、オレは店に入って来たある男を指さした。
「……な! アル……」
そこにいたのは、見覚えのあるイケメン。
どうやらチン●がでかいと噂のアルト様が、オレを虐めるためのエログッズを物色しに来店なさったようだ。
「静かに。この距離だ、探知されたら一発でバレる。奴が出て行くまで、ここを動かん方が良い」
「ア、アルト様が、こんな下品なお店に?」
「ああ、アイツ、結構エロいんだよ」
この店、アルトと一緒に来たことあるしなぁ。そうか、デート前にアイツがこういう店に来てもおかしくなかったのか。
盲点だったぜ。
「なんか、スッゴイ真剣な顔で商品探してますね」
「ああ、ラッキーだ。こっちに欠片も意識が向いていない、上手くやり過ごせそうだ」
「……何を見てるんですかね?」
「ん? 確かにな、何見てるんだろ」
言われてみれば、気になるな。
アルトのやつ、明日ここで買ったエログッズを持ってくるかもしれん。
バレぬようにこっそり、覗き見てみよう。あれは……?
「猫耳?」
「猫耳ですね」
凄く真剣な表情で、猫耳を握りしめる恋人がそこに居た。
「……オレに付けて欲しいのかな。猫耳」
「そうか、アルト様は猫耳フェチ。ふふふ、良いことを知りました……」
「そんな素振りなかったんだがなぁ。でも、あの顔はマジのフェチっぽいな」
意図せず知ってしまった、恋人の性癖。
うーん、そんくらい言ってくれたら付けるのに。恥ずかしかったのかな?
「お、籠に入れたな。買う気だアイツ」
「むぅ。フィオさんに先に使われたら効果が……」
さっきから寝取る気マンマンのこの
「次に手に持ったのは、瓶ですか?」
「あー、使ったことあるわアレ。ネトネトの液体なんだよ、瓶の中身」
「……あ、ふーん」
何かを察したユリィの顔。おや、ユリィって意外と知識あるのかね?
「仲睦まじいようでよろしいですね、ネトネトのフィオさん」
「急に毒吐くの止めてくれよムッツリィ」
「誰がムッツリですか」
お前以外に誰がいる。
「……レジに向かうな」
「買ったのは二つだけですか」
アルトは猫耳とローションをかごに入れ、そのまま会計に向かった。
ふぅ、特に変なものは買わないようだ。猫耳くらいか、特殊なモンは。
そう、安心しかけたその時。
「店主、会計を頼む。それと、例のモノは出来ているか?」
「ああ、英雄さんいらっしゃい。いい出来に仕上がっているよ」
「中身を改めても?」
「好きにしな」
アルトが、店主と怪しい会話をしている。例のモノってなんだ? 妙な商品に手を出すつもりじゃねーよなアイツ。
「……何でしょうか、アレ。服?」
「に、しては布が少ないぜ。下着……?」
店主の許可を得たアルトは、ゆっくりと、その例のモノとやらを広げた。
紐と僅かな黒い皮で出来た、大事なところが隠せない、むしろ局部が強調された卑猥な下着がそこにはあった。しかも、オレが着る用のサイズで。
……エ、エロ下着?
「……は、はわわわわ」
「ア、アルト様、そういう趣味なんですか!? あんな変態チックな下着が良いんですか!」
「ちょ、待って、あんなの着せられるの? かなり抵抗あるんだが!?」
まさかの爆弾投下に、動揺が隠せない。羞恥系プレイが好きなのは知っていたが、そこまで堕ちたかアルト……っ!?
アルトは、その『危ない下着』を食い入るように見つめ、満足そうに籠へ加えた。やっぱり買うんかい!
「……痴女さん、今度から普段の下着はアレになるかもしれませんね」
「止めて!? アルトの奴、本当にそういうプレイ要求してきそうだからやめて!?」
あんなの着て、日常生活なんてできるか! 万が一誰かに見られたら人生詰むわ!
「これで、会計を頼む」
「あいよ。英雄さん、オススメの品があるんだがついでにどうだい? 安くするよ」
「オススメ?」
「オクスリさ。ちょっと大量に仕入れすぎてね、在庫が余ってるの。性格変わる飴玉とか」
「性格が変わる、ね。悪いが俺には必要ない、今のままのフィオが好きなんだ」
「それは、怠慢だよ英雄さん」
「何だと?」
……あー、前にルートに飲ませたヤツか。なりきりプレイ用のアダルトグッズだな。
にしても、そのままのオレが好き、かぁ。くふふ、嬉しいこと言ってくれるなぁ、アルトってば。
「男より女性の方が、性行為の負担は大きいんだ。ならば少しでも飽きさせないよう、多彩なプレイを取りそろえておくべきとは思わないかい?」
「むむむ」
「相手に嫌がられたなら、捨てればいいさ。僅かな刺激が良いエッセンスになる。お遊びとしてどうだい?」
「む……、ならそうだな、高潔な騎士の性格になる飴玉が欲しい」
「毎度あり。ソレ、人気商品なんだよ。いい趣味してるねぇ」
お前、やっぱりそういうの好きなんだなオイ!
「……騎士? 何でまた……?」
「畜生、くっころだ! アイツ、俺にくっころさせる気だ!」
「……くっころ?」
「うう、上手にくっころ出来るかなぁ。自信ないぞオレ」
隠れSのアルトの事だ。くっころか、それに準じたプレイを要求してくるに違いない。
ただ、くっころは相手がノリノリだと逆に萎える。それでいて本気で嫌がると、アルトを傷つけてしまう。
程々に嫌がらないといけない、繊細なプレイなのだ。
「それと、英雄さん。騎士の飴を買った方にはコレもお勧めしてるんですがね?」
「む?」
オイ止めろ店主、これ以上変なものを売りつけるな。被害を受けるのはオレなんだぞ。
「この感度を数千倍にする媚薬なんて、一緒にどうでしょう」
「お、おお! 買った!」
ちょっと待てえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?
「か、かか、感度数千倍って! アルトはバババ馬鹿じゃねーの!?」
「フィ、フィ、フィオさん。感度数千倍って、数千倍ってつまり……?」
「つまりアイツは、オレに卑猥な下着と猫耳付けてヌルヌルの状態でくっころさせた挙げ句、媚薬を盛ってアヘアヘにするつもりなんだ!」
「な、なんですってー!?」
明日の夜の様子が、鮮明に浮かぶ。
エロ下着を着て縛られ、騎士みたいな台詞を吐きながらビクンビクンさせられる自身の姿。
「……ど、どうしよう」
「なんでちょっと嬉しそうにしてるんですかフィオさん?」
「し、してねーよ!?」
とは言え、愛する相手の求めなら仕方ない。
この日はユリィと二人で顔を真っ赤にして帰り、ドギマギ悶々とした夜を過ごしたのだった。
────翌日。
予想通り、アルトはデートに謎の鞄を持ってきた。
「待たせたか?」
「だ、大丈夫っす……」
間違いなく入ってる。昨日アルトが買ったブツの数々が、あの鞄の中に入っている。
少なくとも猫耳の端っこが、鞄の隙間から覗いている!
「なら行こうか、フィオ」
「う、うん」
オレは緊張しながらアルトに手を引かれ、王都の道をデートにでかけた。……さて、オレは今夜生きて帰れるのだろうか。
その日のデートは身が入らなかった。何をしてもスゲー顔が赤かった気がする、風邪かと心配されてしまったくらいだ。
風邪程度、すぐ治せるっつーの。
「フィオ。今夜、宿を取ってあるんだ」
「……お、おーけー」
……そして、遂に夜が来てしまった。
「今日は少し趣向を変えてみたいんだが、構わないだろうか?」
「お、おう。良いぞ、覚悟してる!」
「覚悟? そうか、よく分からんがありがとう。イヤなら言ってくれ」
オレは当然のように逢い引き宿に連れ込まれた。始まるようだ、エロエロヌルヌルのアヘアヘタイムが。
「その、何だ。まずはこの猫耳を付けてみて欲しいんだが……どうだろう?」
「へ、へへ。そのくらい、どうってことないぜ」
まずはジャブのつもりか、アルトは猫耳をオレに手渡してきた。
オレは特に抵抗せず、ピョコンと頭から猫耳を生やしてやる。
ついでにニャーと鳴いてみた。
「……」
「魅入るな魅入るな」
その途端、アルトの目つき野獣の如く鋭くなった。
ホント好きなんだなー、猫耳。オレにはよく分からんけど。
確かに可愛いが、コレに欲情するもんかね。
「そ、それとだなフィオ。着て欲しい下着があってだな」
「……あー。はいはい」
続けてヤツが取り出したのは、昨日見た例のエロ下着。
正直、かなり抵抗がある。でも、アルトのヤツ結構な大金払ってたしなぁ。
「い、一回だけな? 何度も着るのは恥ずかしいから、今日だけな?」
「お、おお! ありがとうフィオ」
妥協案として、とりあえず一回だけと強調。間違っても、普段からコレを身に着けろなんて羞恥プレイはお断りだ。
猫耳エロ下着を身に着けている現状だけで、羞恥心は限界ギリギリである。
「そ、それで最後にだな……」
「お、おう」
ごそごそと、アルトは紙に包まれた飴玉を取り出した。見覚えのある、性格の変わる飴玉。
姫騎士気質になったオレが、くっころされる時間のようだ。
「これは、性格が変わる飴玉らしくてな。今回は誇り高い騎士のような性格になる飴だ」
「……そうか」
「その、あくまでもプレイの一環というか、マンネリ対策というかだな。それで、この飴玉を使って……」
真剣な顔でアルトは飴玉をつまみ、そして────
「フィオ。生まれ変わった俺を見てくれ!」
アルトは自分で飴玉を食ったのだった。
お前が使うんかい!!
「ふふ。どうだ、この誇り高い騎士に生まれ変わったこの俺は」
「……うん。普段よりちょっとハキハキ喋ってるな、アルト。でもゴメン、あんまり大差ない……」
自分の性格を変える為かよ、それ買った理由は。アルトのヤツ、騎士になりたい願望でもあったのだろうか?
「更に、この感度が数千倍になる媚薬を使って……」
……遂に来たか。今日1番の爆弾、
怖い反面、少し興味もある。
感度数千倍という言葉だけでは、ピンと来ないしな。痛覚とかその辺も数千倍になるんだろうか? 快感だけなのだろうか?
まぁ、じきに分かるだろう────
「フィオ。新たな境地に達した俺を見てくれ!」
ところがアルトは、自分でその媚薬を飲んだのだった。
お前が使うんかい!!
「な、何がしたいんだアルト」
「いつも、フィオが先に気を失うからな。たまには俺の方が先に失神する程盛り上がってみたかった」
「……あっそ」
どうすんだコレ。いつもよりキリッとしてるアルトが、服の擦れで興奮して頬を染めビクビクと小刻みに痙攣している。
どうすんだコレ。
「……てーい」
「んほぉぉぉぉ!? フィオ、何をする!?」
取りあえず、突っ突こう。
「てーい、てーい。せいやっ!」
「んほぉぉぉぉぉ! そんにゃぁぁぁあ!? ら、らめぇぇぇぇぇええええ!!!」
オレがアルトを突くのに合わせアルトは甲高い声を上げ、顔をアヘらせながらビクンビクンと体をよじっている。
オレが真顔のまま、しばらくアルトをツンツンしていたら、アヘ顔の恋人はそのままラメェと鳴いて失神してしまった。
「……誰得だよ!!?」
アルトは時々、何をしたいのか分からない。
後日。
オレが『普通、あの薬は女性側に使うんじゃないのか?』と突っ込みを入れたせいで、結局アルトにアヘらされる羽目になったのは別のお話。
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