第19話 再会っ!

 ────もにゅん。




「フィオさん、よくぞご無事でした!」 


 聖女は喜びの声を上げ、たわわに実った胸部をオレの顔に押し当てた。


 ────ないすおっぱい! 


「……ぐすっ。フィオさんの背中がポッキリで、気が気じゃ無かったんですよぉ……。よく無事でした、フィオさーん!」


 アルトとなんかいろいろあった翌日の、昼過ぎ。オレ達は無事に、王都に辿り着いた仲間達と感動の再会を果たした。


 そして感極まって目を赤く腫らしたユリィに抱き締められ、百合百合していた。


 ────おっぱい万歳! 


「おいルート、見ろよフィオのあの顔。全力で仲間の乳を堪能してやがるぞあのゲスロリ」

「……僕の心配を返して欲しいもんだ」


 ごちゃごちゃと、このオレのラッキーイベントを妬む男連中の声が心地よい。


 揺れる。波打つ。ユリィの乳袋で隠れているオレの顔には幸せが詰まっていた。この感触、もう2度と失いたくない。


「おいユリィ。フィオをあんまり喜ばせる必要は無いぜ。そろそろ離してやれ」

「え、あ、そうですか?」


 ところがバーディの一声で、サービスタイム終了! とでも言わんばかりにユリィは離れていってしまった。


 せっかくの幸せご褒美タイムに水を差すなんて。ぐぬぬ、そんなにオレの幸せが憎いかバーディ。


「余計なこと言うなクソ野郎バーディ! 今はオレのおっぱいタイムだろうが!」

「知るか、一人だけ良い思いしやがって、俺だって揉みてぇんだよカス! ゴブリンに一瞬でやられたクソザコナメクジの癖に」

「アホか、俺は回復術師だぞ! むしろオレを護りやがれ、前衛の仕事しろコラ」

「奇襲に対応するので手一杯だったんだよ! 俺んとこまで逃げて来られなかった癖に」

「「あぁん!?」」

「け、喧嘩は良くないですよ!?」

「ああ、放っといて良いよユリィ。この2人は、いつもこんな感じだ」


 バーディとの再会は、煽りあいから始まった。うん、コイツとはこう言う距離感で良いのだ。


「で、ユリィも心配してくれたみたいで、ありがとな」

「いえ。……フィオさんも、大事な友達ですから」

「お、おうそっか。たはは、照れるな」


 オレは、ユリィが向けてくれた暖かな笑顔に癒された。本当、この娘は性格良いんだよなぁ。アルトさえ絡まなければ。


 勇者パーティ女性陣の古下着だと偽って、中古の女性下着を街中で売りさばいたレイとかいうド畜生もいたからなぁ。


 この娘ユリィの爪の垢を煎じて飲んで欲しいものだ。


「ところでユリィ。お前はオレに抱き付いてくれてるけどさ、愛しのアルト様のとこに行かなくて良いの?」

「良いんですよ。私が心配してたのは、フィオさんなんですから」

「ユ、ユリィ!」


 ユリィの言葉に、オレは思わず感極まって泣きそうになってしまった。


 本当に、なんて良い娘なんだ。4人娘の中で、アルトより負傷した仲間を優先できるなんてユリィくらいじゃないか。


 アルトのヤツ、さっさとユリィを選んておけば幸せになってたんじゃねぇかな。マジで。


 ……オレが抜け駆けしちまった今の状況は、かなり心が痛い。うん、アルトがユリィとも浮気していることを祈ろう。いや、その場合浮気相手はオレになるのか。


 オレが、恋人が浮気しています様にと謎の祈りを捧げていると、馬鹿バーディがまた話し掛けてきた。



「おいフィオ、良いこと教えてやるよ」

「バーディ。なんだ言ってみな」


 このタイミングで何の話だ? 


「四人娘がさっきジャンケンして、勝ったヤツだけがアルトに抱き付きに行けるとか言う賭けを聞いたな。そこに居るユリィは最後の最後で負けて、凄く悔しがってたぜ」

「クソ! バーディてめぇ、よくもそんな聞きたくなかった情報を!」


 言われてみてアルトに視線を移すと、リンだけがアルトに抱きついていて、遠巻きにレイとマーミャが無表情でその様を凝視している図があった。


 なんだあの絵面。


「ユリィ、でもアレだよな。ユリィがジャンケン勝ってたとしても、オレの所にも来てくれてたよな。勿論、アルトの後で良いからさ」

「……」

「何で目を合わせてくれないんだユリィ?」

「……フィオさん! よくぞご無事で!」


 ────もにゅん。



 再び、幸せな感触が顔面を直撃した。マシュマロが、ましゅまろが……。



「ユリィの奴、逃げたな」

「あ、でもフィオの顔がまたいやらしくなってる。上手く誤魔化したね、ユリィ」




 ────おほー。












「さて。再会を喜ぶのはここまでにしよう。皆、集まってほしい」


 ユリィのけしからん弾力に目を白黒させつつ鼻を膨らませて深呼吸していると、リンを肩に乗せたままアルトが集合をかけた。そろそろ、真面目な話をする時間らしい。


「おいリン。そろそろ降りな。アルトも重たいだろう」

「……いや。アルト、もうちょっとこのまま」

「俺は構わん。では話を始めよう」


 ────チッ。


 四方から舌打ちが聞こえてきた。うん、うん。この空気。やっと皆に再会できたことを実感するなぁ。


 表情をこわばらせたまま、三人娘は居間の長いソファに腰を落とす。


 腹立つ表情でニヨニヨしているリンと、彼女を肩に乗せたアルトは、ソファ沿いの窓側の居間の壁にもたれかかっている。オレとバーディとルートの三人はその近くの、オレ達の指定席である小さな円形テーブルを囲む3つの椅子に座った。


 これで、オレ達勇者パーティの作戦会議の準備が整った事になる。 


「皆が揃った今日、国王に今回の闘いの報告に行かねばならないだろう。だから、俺達が別れた後に何があったかの情報交換をしておきたい」

「了解、アルト」 


 アルトのその問いに答え立ち上がったのは、ルートだった。ルートはオレ達パーティーのサブリーダーみたいな立ち位置に居るから、彼が答えるが自然なのだ。


「僕たちには、逃げ出した後に殆どオーク達の追撃はなかった。逃げ込んだ山の中で結界を張って一晩過ごした後、再度僕らの滞在していた街に戻ったよ。オークの襲撃は既に終わっていて、魔物一人いなかった。幸いにも、街に大きな被害は出ていないようだったね。その後、念のため1日ほど町に滞在した後、占っても危険は無さそうだったから当初の約束通り王都に戻ってきた」

「成る程。ルート、ありがとう。では、こっちの報告だ」


 続いて、アルトがオレ達の旅を振り返る。


「では、別れた後、オークの追撃は苛烈を極めた。一日中追いかけまわされたな、撒くのが大変だった。その後、……。え、えっと」

「アルト? どうしたの?」


 ……あの野郎。何か思い出してやがるな、若干挙動不審になってんじゃねーよ。オレが無残に死んじゃうからそういうの本当にやめろ。


「いや、すまん。奴らを撒いた後は、特別報告することが思いつかなくてな。逃げ出した先で商人に道を聞き、まっすぐ王都へと戻ってきた」 

「そっか。アルトもお疲れ様」


 ふぅ。アルトの奴、約束を守ってくれたようで何よりだ。これでオレの命は保証されるだろう。


「それにしても、お金もないのに良く王都まで戻ってこれたね。大変だっただろうアルト」

「まぁ、俺の財布は有ったからな。宿泊も相部屋なら何とかなった」

「「「ほう、相部屋」」」


 アルト様の不用意な一言で、オレに仲間(約四名)の冷酷な視線が突き刺さる。思わず冷や汗が滝の様に噴き出した。


 ……あの馬鹿野郎おおお!! 何であっさり口滑らせた!? まさか、付き合ってること以外は喋ってもいいとか思ってるのかアイツ!? 仮にもオレを恋人と呼んだならしっかり守れバーカ! 


「フィオさーん。相部屋でお泊りですかぁ? フィオさんと、アルト様がぁ?」

「けけけけしからん! 二人きりで、一つ屋根の下だと!」

「おーい金髪ビッチ。テメェ、何そんな美味しい展開になってるの? まさかベッドも同じとか言わないよな? 殺すぞ?」

「……ふふ、調子に乗ると人は早く死ぬ。ふふ……」


 おお、もう。なんで優しいユリィも、アルトが絡むと豹変するかなぁ。



 ……焦るな。まだ慌てる時間じゃない。オオオオレには、秘密兵器がある。落ち着いて、自分の正当性を主張するんだ。


「ああ。オレとアルトは、不幸にも相部屋で寝ないといけなかった。その時、アルトと色々話もしたんだが」

「「「……で?」」」

「取引と行こうじゃないか。君達はアルトの好みのタイプ、知りたくないか?」


 秘技! 興味がありそうな話題を提供して、うやむやにするぜ大作戦! 


「随分、陳腐な言葉だが乗ってやろう。アルトは自分の事をあまり話してくれないからな……。それが本当に有益な情報であれば、今回だけは見逃してやるぞ金髪ビッチ」

「ウチ知りたい……。教えてフィオ」


 案の定、食いついてきた。アルトはこの手の話題はあまり乗ってこないのだ。だからこそ貴重な情報と言える。


「……ありがとよ。さて、流石に相部屋にはオレも身の危険を感じてだな、色々とアルトに文句言ったんだ。そしてこれは、その時の奴の返答なんだが」

「ふむ。聞こう」


 ……別に嘘じゃないし、良いよね。許せ。


「ここに居たのがルートならやばかった」











「フィオォォォォォ!! 図ったな、ド畜生ォォォォォォォ!!」


 罵声と共に、我らが男の娘ルートに目をぎらつかせた女性陣が殺到する。


 無言で敬礼を掲げるのは、オレとバーディ。きょとんとしているのは、全ての元凶アルト様


 長い旅を終えたオレ達勇者パーティのNo2は、再び命がけの逃走劇に身を投じる羽目になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る