2いっしょにあそぼ
はい、おともだちとくんで、ブロック遊びしましょう。
せんせいのかけ声でわあっと仲良しの子どうし集まる。
「てんしちゃんいっしょにー、」
「てんしちゃんいっしょにやろ!」
てんしちゃんに声をかけかけた子を退けるように、大きな声であくまくんがてんしちゃんに言った。
「あ、やっぱりてんしちゃんはあくまくんとだよね。またね。」
てんしちゃんはみんなで遊んだらいいんじゃないかな、と思ったけれども、声をかけてくれた子が逃げるように行ってしまったので、言いそびれてしまった。
「ね、てんしちゃん。」
あくまくんが八重歯を見せて笑いかける。
「いいよ。」
てんしちゃんも、ほほえんで答えた。
てんしちゃんとあくまくんは、キラキラネームの子供同士。
てんしちゃんは生まれつき知恵遅れで、知能補助機のまあるいわっかを頭の上につけることになったので、それをかわいらしく思った大の大人のてんしちゃんの親は、この子を‘てんし’ちゃんと名付けた。
あくまくんは生まれつき鋭い八重歯を持っていて、それをかわいらしく思った大の大人のあくまくんの親は、この子を‘あくま’くんと名付けた。
偶然、同い年同じ有名幼稚舎に通うこのキラキラネーム同士のふたりは、幼稚舎でも自然と目立ち、ともだちのみんなからもセットで見られるようになった。
それで、よく遊ぶようになったふたりだったけど、あくまくんは財閥企業の令息、好きなものはなんでも与えてくれる親のもと、気に入ったものはなんでも自分のものになると思っているので、いつもセットのはずのてんしちゃんが他の子と遊ぶなんて許せないのだ。
そうして、いつもてんしちゃんの後をついてまわっていた。
てんしちゃんは、お父さんが脳科学者ではあるものの、養護受け入れ制度でこの幼稚舎に入ったごく一般家庭的な子供だった。そしてやさしすぎる性格のきらいがあった。
なので、あくまくんがこうしてついてまわっても、幼なじみとして生温かくみていた。「てんしちゃん、なにつくってるの?」
「うさぎさん。」
「ふーん。ぼくはごうてい。てんしちゃんといっしょにすむのね。」
「ごうてい?」
「あ、ブロックたりなくなっちゃった。てんしちゃん、そのうさぎのブロックちょうだい。」
「え?うん、いいよ。」
あくまくんは、てんしちゃんのせっかく作ったうさぎのブロックをバラバラにして、自分の豪邸制作に使ってしまった。
でも、てんしちゃんはこんなあくまくんのわがままをいつも笑って許してくれる。
お絵かきの時間だってそう。
はい、みんな自由にお絵かきしましょう。せんせいが朗らかに言う。
「おえかきのじかんってきめられているんだから、じゆうなんていうのはおかしいのー。」
「?」
あくまくんが例によっててんしちゃんの隣を独り占めして、適当にぐちゃぐちゃ書き殴りながら言った。
知恵遅れのてんしちゃんは複雑なことを言われると、わっかの補助があってもよく意味が分からない。
やがてめちゃくちゃに描いていたあくまくんはクレヨンを1本使い切ってしまった。
「てんしちゃんのクレヨンちょーだい。」
「うん、いいよ。」
てんしちゃんもちょうどお花の色に使っていたクレヨンだったけど、ためらいなく、あくまくんに譲ってしまった。
あくまくんは、こうしていつも笑って言うことを聞いてくれる、従順女の子らしいてんしちゃんのことを自然と好きになっていた。 折り紙の時間こと。
みんな、おりがみしましょう。
優せんせいというやさしいやさしいせんせいが担当のときだった。
みんな、鶴を折っていた。
あくまくんは要領良く折ってしまい、てんしちゃんまだできないのー?とからかって、てんしちゃんがなかなか出来ずに顔を赤くする様子を見て楽しんでいた。
そのとき、優せんせいが見回りに来て、てんしちゃんの様子を見ると、一緒に折るのを手伝いながら、
「てんしちゃん、あせらないで、ゆっくりでもいいの、ひとつずつひとつずつ、やり方を覚えて、やっていけば、なんでもできるわ。」
そうてんしちゃんにほほえんで言った。
てんしちゃんは、優せんせいに、ほうっとみとれたようだった。
無事、てんしちゃんも折りあがると、優せんせいは、よくできたねー。とてんしちゃんに笑いかけ、また見回りに戻っていった。
「てんしちゃんやっと1羽できたのー?」
あくまくんは10羽くらい折り終わっていて、もう退屈といったふうにのびをしていたけれど、てんしちゃんは折りあがった1羽をなにか思うところありながら大切そうにてのひらに乗せて、「うん。」とほほえんだ。
将来の夢の発表会。
順々に立ってみんな元気にしょうぼうし!かんごしさん!などなど無邪気に言う中、あくまくんに当たったときは、
「ぼくはおとうさんのかいしゃのあとをつぐことになっています。なのでやくしょくでいうとかんりしょくになります。」
と、つらりと大人びていうので、みんなは意味がまだ分からず、ぽかーんとして聞いていた。
せんせいもちょっと面食らった様子で、慌てて、次、てんしちゃんは?と、てんしちゃんを次に当てた。てんしちゃんならふわふわしたことを言って雰囲気をなごませてくれるだろうとせんせいは思ったのだろう。
「わたしは、」
てんしちゃんはやわらかにほほえんで、
「ゆうせんせいみたいなやさしいせんせいになりたいです。」
と、やはりふわふわした夢を言った。
せんせいは、それはゆうせんせいが喜ぶわ。と、手を合わせてにっこりした。
他の子たちも、てんしちゃんならやさしいからなれそうと、無邪気な雰囲気にもどって言いあった。
でもひとり、あくまくんだけ、じとっと、てんしちゃんを観察するように、冷ややかに、みつめていた。
また、優せんせいが担当の折り紙の時間があった。
例のとおり、優せんせいはみんなをまわりながら、折り方を教えたりしてくれていた。
この日もあくまくんがさくさく折ってしまっているかと思いきや、この日は違った。まだひとつも折れていない。てんしちゃんよりも遅かった。
優せんせいはあくまくんのもとにまわってきたとき、やっぱりやさしく折り方を丁寧に教えてくれた。てんしちゃんも安心と憧れのこもった目でその様子を見守っていた。
そんな平和なときだった。
「いたいっ!」
と、あくまくんが悲鳴をあげた。
あくまくんが手をすべらせて、折り紙で指を切ったのだ。
みんなが驚く。優せんせいも驚く。優せんせいは急いであくまくんの指を止血した。
それからはもうあくまくん、ゆうせんせいのとおりにしたらって言いながら大泣きで、その日はあくまくんはお母さんが迎えに来て早退するやらで、大変な一日になった。あくまくんは帰るまで、ゆうせんせいのとおりにしたらって泣き止まなかった。
そのあとの日。
優せんせいは幼稚舎からいなくなった。
他のせんせいは言う。
「優せんせいは忙しくなって辞めることになりました。」
てんしちゃんとってもしょぼん。
あくまくんにこにこ。
そのそばで子供たちの間にひそひそ話がひろまる。
「あくまくんのおとうさんとおかあさんがとーってもおこって、ゆうせんせいをやめるようにしたんだって・・・。」
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