第159話 追加注文
レイが別室に移動してから幾つかの測定を行った。単純な射撃精度の確認やホログラムを用いたモンスターとの模擬戦闘。整備性、耐久性の確認。生身での射撃と強化服を着ての射撃。
また専用の
測定は日を
「ありがとうございました」
測定を終えたレイにモリタが労いの言葉を投げかける。レイは首を鳴らしながら眠そうに答えた。
「ああ。報酬分は働かないとな」
レイが強化服の出力を落とし、電源を切る。そしていつでも脱げるようにロックを外しておく。
「
「その辺に置いておいても構いません」
「分かった。他にした方がいいことはあるか?」
「幾つか提案したいことがあります。ですがお疲れでしょう。ここにシャワー室もあります、そちらで一度汗を流した後に何か食べながら、という風に考えています。しかし今が良いというなら、今、話させていただきます」
レイは僅かに考え、すぐに結論を下す。
「今でもいいか?」
「分かりました」
面倒なことは早めに終わらせる。後に回していたら色々と考えてしまい無駄に疲弊してしまう。こういうことは手っ取り早く片付けておくのが正解だ。レイの言葉を聞いたモリタが通信端末をテーブルの上に置いて起動する。するとホログラムが浮かび上がり、説明を始める。
「今回の依頼ですが、テイカーの意見を聞いての微調整や最終調整や数値を計った上で直すべき箇所を探し出す……といった目的が主です。私達も今回の開発には莫大な資金を投入しましたから、不具合があって売れない。又は回収となると会社が傾きかねません。外部補助駆動や建設機械類の設計主任。他部署でも選りすぐりの技術者を数名。わざわざ他の部門に回す資金を減らしてまで作ったのです。入念な準備と改善に加え、失敗した際のバックアップも用意。もはや不具合など見つからない、ほぼ完成形に近い形になってから初めて、あなたたちテイカーに依頼を出しました。そして何かしらの欠陥を抱えているようであれば直すつもりでしたが、その必要は……数値を見ても話を聞いても特に無いようです。今すぐにでも発売していいでしょう」
「……」
「さて。ここからが本題なのですが、今回使用した試作品、すでに完成品も作っています」
「……そうなのか」
完成品を作っているのだったら、わざわざレイに依頼をする必要は無かったのではないかとも思う。しかし会社が傾くほどの資金を投入していると、そう言っているのだ。
最後まで入念な準備と確認がしたかったのだろう。
「はい。というのも。レイさんの前に幾人かのテイカーにも同様の測定を行いました。結果は同等か僅かに上。ほぼ変わりません。職業柄、『誤差』という単語はあまり好きではありませんが、レイさんの前に測定を行った幾人かのテイカーの数値を見比べてみてもほぼ誤差の範囲内でした。個々人の力量によるものです」
「……」
「そして我々はそれらの情報を取得、集積することで誤差をさらに縮め、射撃の際に真上だけに銃口が跳ねるよう均等な反動が来るよう調整しました。他には整備性、安全性、耐久性を強化を行い。完成品を作り出しました。ただ、あくまでも定義上は試作品段階のものですが……。まあ変わりません。取り合えず、『レイさんの前に測定を行ったテイカーの結果からすでに完成品を作っていた』と思っていただければ大丈夫です」
モリタがホログラムを操作すると散弾銃や突撃銃が浮かび上がる。そしてモリタは立ち上がり、レイが先ほど使ってテーブルの上に置いてあった突撃銃を手に取る。
「そしてレイさんが使っていたこの突撃銃が完成品になります」
「え、そうなのか」
驚愕はしないものの。レイは素直に声に出した。
確かに、欠点という欠点は見当たらず、今にでも売り出せる武器だとは思っていた。しかし今モリタが持っているものが完成品ならばレイがそう考えたのはある意味で当たり前のこと。
レイは僅かに納得しながら幾つかの質問をする。
「そんな
レイ以外にも適任はいたはずだ。しかしレイが最初、というのは自分でもあまり納得ができなかった。するとモリタは頭を掻いて苦笑い浮かべながら呟く。
「はは……。お恥ずかしながら、すでに資金があまりなく、テスターにお金を割くことができなかったのです」
「ああ、そういうことか」
「はい。ので最初にも言いましたが、金銭面での理由と桧山製物のH-44を扱えるような物好き……いえ、深い関わりを持っている人ならば受けてくれると思いまして、また確認してみると懸賞首も討伐しているとのこと。この機会を逃すわけにはいかないと、はは。まあそういった理由です」
申し訳ない、とそんな風なことを呟きながらモリタが軽く頭を下げた。そしてモリタは頭をあげると本題を切り出す。
「ですので。まだ実践データが取り終わっていません」
当然と言えば当然。完成品が出来たからレイが呼ばれたのだ、完成品の実践データが無くとも何も問題が無い。そしてホログラムなどを用いて戦闘を行えるが、あくまでもそれは仮想現実によるもの。
やはり実践でのデータが欲しいのだろう。
「念には念と、と言いますか。失敗は許されないので、不安要素があるのならば消しておくのが当然でしょう?」
「そうか」
レイはそれだけしか答えない。一方でモリタは僅かに表情を変え、そしてすぐに商売臭い顔に戻す。
「レイさん。あなたに実践データを取って来てもらいたいのですが、どうでしょうか」
「……」
「当然。もともとこの実践データ回収の仕事は依頼内容には含まれていないので、こちらで新しく依頼を出させていただきます」
そこでモリタが「ただ」と言って続ける。
「先にも述べたように金銭面の問題から高額の報酬を支払うのは無理があるので、代わりにどうでしょう」
モリタが持っていた突撃銃を差し出す。
「突撃銃、散弾銃、狙撃銃の内から一艇。それを依頼の報酬にさせてもらっても良いでしょうか。拳銃もお付けしますよ」
高額の報酬を支払う代わりに完成品を一つ、レイに渡す。実践データ回収の依頼がどのくらいの相場なのか、レイは詳しくは知らないが――依頼するテイカーにもよるが――200万スタテルから600万スタテルが良いところだろう。対して、完成品の値段は上位モデルで1300万ほど。報酬としては埒外なほどに高くなっている。
ただ桧山製物からしてみれば自社の製品を渡すだけなので、金で支払うのよりも現物支給の方が損害が少ない。
そしてレイにしてみても、ちょうどGATO-1が壊れ、武器が無かったところだ。測定する中で性能については大体把握できているので、値段に見合った性能があるのも知っている。
両方にとって得する提案だ。というより、モリタはレイの――簡易型強化服も武器も無い状況――を把握しているため、装備を報酬にすれば食いつくと分かっていたのだろう。
だがレイも一つ、桧山製物の状況を鑑みて提案してみる。
「
少しぐらいの割り引きならば引き受けてくれる。そう判断しての提案だ。モリタは商売臭い笑みを浮かべたまま、答える。
「ええ。まあいいでしょう。どのくらい下げれるかは分かりませんが、引き受けてくれるのならば割り引き、いたしますよ」
「あとついでに新しく車両も買いたいんだが、そっちもお願いできないか」
中継都市に行くために買った車両は荒野仕様ではあるものの、遺跡探索に持ってけるほどではないので、頑丈な車両を買っておきたい。元あった車両はそのスペアとして倉庫に眠っておいてもらう。
また、こっちの提案はモリタの好意に甘えただけ。断られることを前提として話した。そのためどこ苦笑しながら、軽く言った。するとモリタも軽く返答をした。
「ええ。構いませんよ。こちらで買うのならば、少しくらいの割り引きは痛くありませんから。データ回収をしてくれるのであれば、その程度のご要望には応えられますよ」
さすがにこれ以上願うのは倫理的にも常識的にもどこか欠けている気がするので、レイは素直に依頼を引き受けた。
「分かった。じゃあ依頼を引き受ける。今からすぐに移動か?」
「いえ。少し休憩してからにしましょう。こちらも相応の準備が必要なので」
言い終わると、モリタが商売臭い笑みを強めた。レイはどこか嫌な予感を覚える。モリタは桧山製物の執行役員。それなりの修羅場を潜り抜け、商談や交渉を何千回と行ってきただろう。
「レイさん。完成品専用の外部パーツがあるので買いますか。割り引きにしておきますよ」
笑みを強めるモリタを見てレイは、相手の土俵に踏み込んでしまったと今更に気が付いた。
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