EP2ー1 金髪縦ロールの訪問

鉄が打ち付け、火花が散った。

サムライ・ソードが左腕のブレードを巧みに剣先を変え、最小限の動きで敵の攻撃を防ぐ。


《クソッ、クソッ……なんで当たらねぇ!》


通信機越しから聞こえてくる敵の悪態に顔を顰めた。

パフォーマンスはここら辺で十分だろう、そう判断した俺は敵の隙を突き、蹴りを入れて怯ませる。

ブレードを振るい両腕を斬り飛ばし、流体金属が血飛沫のように舞う。


『勝負あり! 勝者、サムライ・ソード!』


司会の叫びに観客が湧く様子を、相変わらず無改造のフェイタルのモノアイ越しから見る。

あれから数年が経ち、これレイダーバトルを続けてきたが未だに戦う意味を見つけられていなかった。

それでも力ばかりは身につき、今ではここら一帯では負けなしの選手になっていた。。

あれから、人の生き死に関わったことはない。


無論、人殺しをしたい訳じゃない。できることなら関わらないことのが一番だ。

でも残念ながらここは、それが叶うような場所じゃない。

だからまたあのような状況になった時、ちゃんと後悔しない選択をするために、もっと強くならなければならない。


機体を格納庫まで歩かせ、ハンガーに掛けると胸部装甲が開き、俺はコックピットから出る。

コックピットの中は狭くて熱が篭りやすいため、パイロットスーツをはだけさせると肌が外の外気に触れ蒸気が上がる。


「ご苦労だったな」


しばらく涼んでいると、聞き慣れた老人の声がし目を向けるとカゲロウがそこに立っていた。

ここ数年間で俺とコイツの関係は、そこまで変化はない。

強いて言うなら、正式なマネージャー契約を結んだぐらいだろう。

つい最近、隣地区のトップランカーのマッド・スターという選手を倒してから、軌道に乗り収入も安定してきてた。

その噂を聞いてか、変な野郎がしつこく変な契約をさせようと付き纏ってくるようになったからだ。

なんかナンパがウザいから弟を彼氏とか言ってる女みたいだな。

そう考えると、何だかへこむな。


「カゲロウ、どうかしたか」

「お前に客だ」

「客?」

「ああ、応接間で待っている。シャワーを浴びてこい」

「いや、面倒だ。このまま行く」


俺は側に置いていたジャケットを羽織り、格納庫を後にし応接間へと向かった。

長い廊下をしばらく歩いていると、モダンな木製の扉が見えた。

一応、礼儀としてこんこんとノックすると、扉の奥から「どうぞ」と聞き慣れない声が聞こえた。


「女?」


女の声、それもかなり若い。

こんなアングラな場所に一体何用だと言うのだ。

悩んでも仕方ないので、俺はそのまま扉を開けて中に入る。


部屋の中では、イワンコフがどこか気まずそうに目を泳がせ、そわそわとしていた。

いい歳こいたデカブツがやっても、ただただ気持ち悪いので是非ともやめてほしい。


「アンタが俺を呼んだのか」

「あら、随分なご挨拶ですわね」


そう言って先ほどの声の主、金髪縦ロールの少女はふふんと笑った。

年は俺と変わらないぐらいだろうか、ワインレッドのドレスに薔薇を模した髪飾りで着飾り、側には執事服の男を控えさせている。

どこかどうみても令嬢とかそこいらだろう。


「何を見てらしてるの? ささ、お掛けになって」


促され俺はソファに腰を下ろし、隣にカゲロウが座る。


「で、何のようだ」

「まあまあ、そんなに焦らないでくださいまし。まずは自己紹介を」


少女は立ち上がり、ドレスを摘んで軽く会釈しながら言う。


「私の名は、エクシア・ローゼン。ローゼンに連なるものにして、チーム【ミストルテイン】をマネジメントしているものですわ」


様になっている彼女の自己紹介を終え、しばらく固まったまま静寂が辺りを支配した。

呆然と眺めてみると、徐々に彼女の顔から困惑の色が出てくる。

するとカゲロウが俺に変わって返答する。


「すまない。コイツは世間体に詳しくない。気分を害したのなら謝罪しよう」

「ああ! そうでしたか、申し訳ございません。こちらの調査不足でした」

「……急かすようですまないが、用件を早く言ってくれ」


カゲロウに言われ、エクシアは「そうでしたわ」とポンと手を叩いた。

そして再びソファーに座ると、目を細めながら告げた。


「サムライ・ソード……いえ、ソラさん。あなたをスカウトしに来ました」



ローゼン財閥。この街のいくつもの事業を広げている。

特にレイダー開発事業に力を入れ、なんでも本来違法であるはずのレイダーバトルが娯楽として許されているのはローゼン財閥が裏で手を引いているとか。

そしてそのローゼン財団がお抱えのレイダーバトルチームこそが、チーム・ミストルテイン。

実力だけでなく、容貌、人格なども優れないとチームの門すら叩けないほど狭き門だと聞く。

わかりやすい話、レイダーバトル版のアイドルのようなものだ。


「……なるほど、事情はわかった。だけどなんで俺なんだ?」


実力はともかくとして、顔も性格もいいとは言えない。

とてもではないが、財閥の令嬢様のお眼鏡に掛かるほどの物はないはずだ。


「理由は勿論、一目惚れしたからですわ」


瞬間、俺の思考は停止した。











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