Raiders〜転生した世界は随分と荒廃していた
とりマヨつくね
異世界は随分と荒廃していた
EP0 プロローグ
人一人分程度しかない狭いコックピットの中で、俺の身体は恐怖とは違う震えを感じていた。
鎮静剤を打った。コンディションも完璧だ。
別に怖いわけじゃない、これは本当だ。どちらかというと、これは古いことわざで武者震いというやつなんだろう。
それとコイツに乗れていることが、俺を興奮させているのだろう。
全高四メートル前後の人型機動兵器、レイダー。
コイツに乗っている時だけが、俺が確かにここにいると思える。
「おい、ソラ。時間だ、アリーナに上がれ」
「分かった」
「今回の相手は、あのマッド・スターだ。ちょっとでも油断したら死ぬぞ」
「そんなこととっくのとうに知ってるさ。サムライ・ソード、出るぞ!」
膝に置いていたヘルメットを被るとメインシステムが起動する。
機体と接続され、ヘルメットに投影される。
機体を立ち上がらせると、格納庫からアリーナへと繋がる道を一歩一歩踏み締めてゆく。
アリーナに出ると、これほどにないほどの観客がアリーナを埋め尽くし、凄まじい熱狂が渦巻いていた。
先の戦争の終結により、民間に払い下げられたアウター同士による賭け試合。
それこそがレイダーバトル。偽りの戦場。
『さぁさぁ、お待たせしました! 本日最後のの対戦カードはこの二人!」
司会がパチンと指を鳴らすと、上空にホログラムが広がり髭面の大男が映し出される。
『赤コーナー、今まで負けなし! 全てを真っ向から叩き潰す! 玉座は誰にも渡さん、このアリーナの王者は俺だ! 【マッド・スター】!』
うおおおおおおお! とより一層会場が盛り上がる。
その冷めやらぬ興奮の中、司会は続けざまに宣言するように叫ぶ。
「続いて青コーナー! 突如剣一本で姿を現したかと思えば、古兵を次々薙ぎ払うお前は誰だ!? そう、彼こそあの『カゲロウ』の最初にして唯一の弟子! 【サムライ・ソード】!」
先ほどのマッド・スターの時とは打って変わって、多くのブーイングが向けられる。
これは単純に人気の差だ。
あちらが何年も戦い続けているヒーローとするならば、俺なんてぽっと出の小悪党が良いところだろう。
現にオッズは九割以上がマッド・スターに集中しており、最早賭けとして成立してるかすら怪しい。
俺は軽く舌を打ち、相棒のサムライ・ソードは左腕を突き出す。
相手の<マッド・スター>も、両腕のスパイクシールドを打ち付け、戦闘体制に入る。
『両者やる気充分! それではカウントダウン、レディ!』
ホログラムの形が変化し、カウントダウンが始まる。
━━━━3。
操縦桿を強く握り、アイセンサーがより強い光を放つ。
━━━━2。
左腕に装備されている肉厚の片刃のブレードが展開する。
━━━━1。
そうだ、今は目の前にいるコイツをただ叩き潰す。
それだけで充分だ。
『GO!』
ホログラムが弾け、脚部に備え付けられたローラーが高速で回転し風を切り裂き距離を一瞬で詰める。
そして─────サムライ・ソードのブレードが相手の頭部を切り飛ばした
瞬間、今まで耳障りだった歓声は消え失せる。
宙を舞うマッド・スター……? だったか、なんだかの首を右手で掴み、観客に見えるように掲げた。
「な、なななななんとぉ!? 我らがチャンピオンを一撃でノックアウトぉ!? 勝者、サムライ・ソード! 新たな王者の君臨ダァ!」
ようやく我に返った司会が叫ぶと、再びアリーナを震わした。
賭けに負けた者の阿鼻叫喚、勝ったものの歓喜の声、または新しいヒーローにエールを送る声。
まったく現金な奴らだ。
だが所詮は一試合、一々気にしていられない。
次は勝てるかどうかわからないし、下手をすれば明日には死んでいるかもしれない。
何で死ぬかはわからない。
通り魔に刺されるかもしれないし、殺し屋に殺されるかもしれない、もしかしたらテロに巻き込まれる可能性だってある。
非日常が日常になってしまうかのような狂った世界、それが転生した俺が生きる世界だ。
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