狐寺ショートカット

メメ

第1話 門

 仕事帰り、駅からの道をいつもの様に歩く。

 この道は広大な敷地のお寺の門へと続いている。

 お寺は高い壁に囲まれていて、中は見えない。

 高くて白い壁に沿って、左右どちらへ行っても、家までの距離は似たようなもので、その日の気分で右へ行ったり左へ行ったり…


 だけど今日は、門の前で動けなくなった。


 タイミングが悪過ぎる…

 なんでこんな所で…


 冷や汗が止まらない。

 ギュッと目を閉じて大人しく待つ。


 山…


 この山を越えればーーーっ…


「フーーーッフーーーッ…」


 駅から大分歩いて来てしまった…


 コンビニ等のお店は近くに無い。


 お寺の大きな門は閉まっている。


 公園は、このお寺の向こう側、自宅の手前にある。


 駅へ戻るよりも公園を目指して進んだ方が、まだましな気がした。


「んーっ…イタイタイタイタイ…フーフーーーッ…」




 まずい…


 嫌な予感がする。

 今までの経験から、もたないかも…という思いが過る。


 このままでは絶望の沼にはまってしまう…


 ギュッと閉じた目を片方開けると、大きな門の横にある、小さな扉が目に入った。


 子供の頃、屈まなくては入れない様なこの扉から、勝手に忍び込んで遊んでいたのを思い出す。

 扉の鍵は壊れていたのか、何かコツでもあったのか、友達はいつもガチャガチャと揺すったりして開けていた。


 このお寺を通り抜ければ近道だけど…


 取り憑かれたように、無意識に伸びた手が扉にかかると、何の引っ掛かりもなくスーと開いた。

 扉には、壊れた鍵どころか何も付いていなかった。

 戸締まりを諦めたような適当な板が、蝶番で止められている。


 どうしよう…

 入ってもいいかな…

 いやー…

 ダメだろ…

 見つからないように…

 サーッと通り抜ければ…

 いやー…

 サーッと行ける気がしない…


 誰かにみつかったら…

 フゥーーーッ…


 その時は…

 説明すればいいではないか…

 緊急事態だと…

 背に腹は代えられない…

 というか腹が耐えられない。

 ううっ…


 南無三!




 扉をくぐると…


 昔と変わらない景色が迎えてくれた。


 そうだよ…


 すぐそこにあったよ…


 助かった!!


 間に合う!!!


 脇にひっそりとある建物に、手を合わせる。


 入口付近に配置してくださった、関係者の方々…

 ありがとうございます!!!

 感謝!!!

 お邪魔します!!!


 砂利の上をじゃりじゃりと、拝みながらすり足で行く。

 気を抜いたら負けだ。

 振動を最小限に、騙し騙しゆっくり急ぐ。


「ああ…ああ…あああ…あっ…」

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