【コミカライズ企画進行中】主人公様の妹に愛されているけど、しっかりヤンデレ。
Sakura@コミカライズ企画進行中
第1章 正体不明なストーカー
第1話 朝の一幕
恐らく、俺は運が悪いのだろう。しかも壊滅的に。
隣家に住む少年は、それはそれはイケメンで。陽キャを素で行くモテモテ野郎。それを取り巻くハーレム構成員。幼い頃から俺はそれを隣で見続けていた。
家が近いからという理由だけで嫌々友人をやらされてきた。
所謂親友ポジションというのだろうが、返品を願いたい。
運動神経抜群。容姿端麗。成績優秀。コミュ力お化け。才という才を全て持って産まれてきた男の親友など、我ながら惨めになるだけだ。
これでそのイケメン野郎の性格が腐っているならまだやりようもあった。テキトーに理由をつけて距離を置けばいいだけなのだから。が。ソイツは性格までも光属性。俺が関わりを断とうものなら、善意をフル活動させて引き留めてくるだろう。
俺は昔っから比較されてきた。運動も、成績も、容姿も。
そしてその度に「あ、うん」だとか「あはは」だとか微妙な反応が返って来る。親友だからという理由だけで勝手に期待されて、勝手に失望される。
この待遇の理不尽さ。運が悪いとしか言いようがない。
「……んあ?」
恙無く始業式を終え、およそ一か月が経った頃。
満開だった桜もその花弁を散らし、新緑を芽生えさせていた時の話だった。
俺が登校すると、靴箱に長方形の物体が突っ込まれていた。
「?!?!」
しっかり二度見。俺はシュババっと周囲に視線を送った後、ひっそりとその長方形のブツを取り出す。厚みはない、だがズッシリと重たい錯覚を受ける。
手のひら程度のサイズ感。柄は蛍光色のピンク。
紛うことなきラブレター。俺の心臓がドクンっと跳ねた。
俺に、ラブレターだって? いやいやいやありえない。だが現実として俺の手には便箋がある。思わず喜びで飛び跳ねそうになった。顔がにやけそうになる。
それもそのはず。俺は生まれてこのかた告白されたことがない。
ラブレターなんて勿論受け取ったことはない。イケメン様に渡してだの、イケメン様と関係を仲介してだのといった依頼は無数に請け負ってきたが。かーっぺ。
「だ、誰が俺にッ」
掠れた声で俺は呟く。正直、誰でもいい。
いや、誰でもいいってのはクズ男的な発言ではなくて、俺を見てくれて俺に好意を寄せてくれるなんて女子は天使なのだから誰でも嬉しい、という意味だ。
苦節十何年。思い返せば、恋愛イベントの中心は全てアイツだった。
「よっす真司。朝からご機嫌だな」
「げッ!? 日向!?」
急に声を掛けられたことに俺の肩がびくりと跳ねた。
慌ててラブレターを背中に隠しながらちらりと視線を送る。
そこには渦中の人物――
陽光に反射するのは明るめの茶髪。にっと笑った顏は漫画の主人公。
背は俺と同じくらいだが、足が長い影響かスタイルがすこぶる良く見える。
「げ、とは失礼な。……なんでそんな嫌そうな顔してんだよ」
「し、してねえよ。むしろ世界がハッピー! 俺嬉しい!」
「……それはそれで心配なんだが。大丈夫か?」
あかん、感情が顔に出ていたらしい。
最初に断じておくが、俺は日向という男を嫌悪していない。強いて言うなら苦手、といったところ。コイツと触れ合えば触れ合う程、自分が惨めに思えるから。とはいえ、その負の感情を日向にぶつけるのは些か子供じみていることも理解していた。
俺が嫌だと思ったのは、日向の性格にあった。自分がモテモテなのを自覚しているかは定かでないが、彼は人の情事に首を突っ込みたがる。ことさら恋愛になると熱量が尋常ではない。更に質が悪いのは、日向が相談を受けると不思議と成功する可能性が高いのだ。まさに恋のキューピットであり、コミュ力お化けは伊達ではない。
しかし、俺は目立つことが嫌いだ。特に日向関係で。
このラブレターの差出人も俺と同じで悪目立ちを嫌う可能性がある。俺の価値観と相手のことを慮り、この恋文を露呈する訳にはいかないとの結論を出した。
「つーか、なんか隠してね?」
「隠してないから。ヨガに目覚めたんだ」
「親友の口からヨガなんて言葉が出るとは思わなかった。……むむ、怪しいなぁ。あ、もしかしたらラブレターとか貰ったんじゃね!?」
大正解過ぎる。日向の推測は大当たりだ。しかしバレたくない。
にじり寄ってくる日向からどう逃げようか脳みそをフル回転させた。
だが妙案は浮かばず。こうなれば力づくで逃げ出そうとしたとき、
「ひーくん待ってよ~! はやいって!」
「っとわりぃわりぃ梨花! 真司が小躍りしてたから気になっちまって!」
「なぁにそれ。あ、真司君もおはよう~! あ、そういえば――」
小走りで駆けよってきたのは日向の幼馴染、
桜木だの、一ノ瀬だの、苗字まで陽キャなのはずるいと思います俺。
とにもかくにも、彼女は一ノ瀬日向のハーレム要員である。
日向と梨花は幼馴染の関係にある。正確には俺も、だが。
幼い頃は三人でよく遊んだものだが、中学生あたりから梨花は日向といることを好むようになった。俺も理由は何となく察したのでそっと見守ることにしたのだ。
肩辺りまで伸びた濡羽色の髪。ほんわかとした心象を受ける喋り方は男子に大人気。言わずもがな美少女。そんな梨花は俺への挨拶もそこそこに、日向と喋り始めた。ぽつねんとひとりになった俺だが、日向からの追及はこれで止まった。
俺はまだ気になっている表情の日向を無視し足を動かした。
スマホでまだホームルームまで時間があることを確認。この隙に手紙の内容を読まないと。日向の追及を逃れられるチャンスが今日中に何度あるか分からない。
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