神の決意



「…………」


 誰もいない、小さな公園。

 遊具がぽつぽつ点在するだけのそこに街灯はなく、暗闇に満ちていて数メートル先が見えるかどうか。


 真っ暗な場所。

 だがよく目を凝らすと、地面が桜の花びらで埋め尽くされているのが分かる。

 

 その上に、誰かが立っていた。


「…………」


 その黒い人影は暗闇の中で藍色の瞳を輝かせると、胸の上にそっと両手を這わせた。


 次の瞬間、その胸から鮮烈な炎が噴き上がった。

 赤く、眩い閃光を放ちながら、とぐろを巻いて燃え盛る業火。


 その炎光に照らされた顔は、恐ろしいほど整った、幼い少女のものだった。


 桃色の髪を靡かせながら、少女は静かに口を開く。


「λύω στον ήλιο.και θαυμάζω αιώνια λάμψη」

 

 それは呪文だった。

 かつて誰かを救うために、何よりも尊いと信じた何かたちを護るために願い、愛し、創った、祈りの言葉。


 だが、それは今やたった一人の少年に対し向けられている。


「…………っ」


 少女は身体を覆っていた炎を右手に集約させると、まるでリンゴを握り潰すかのように勢いよく手を閉ざした。

 炎は瞬く間に霧散し、辺りは再び暗闇と静寂に閉ざされる。


 都心のど真ん中に近いというのに、なぜか周囲は車のエンジン音一つすら聞こえてこないほど静かだった。


「…………」


 少女はしばらく佇んだまま右手を眺めていたが、やがて出口に向けてゆっくりと歩き出した。




 彼女の名前はコヨミ。




 世界で最初の神。


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