第11話

 ずっと考えていた。


 俺にとってマリという存在は何なのかを。

 この静まることのない感情は何なのかを。


 結論から言えばアキちゃんが言った通りなのだろう。


 俺はこんな事になってなおマリの事を愛している。


 そして愛しているからこそ、湧き上がる憎しみと怒りが尽きることがない。


 愛の反対は無関心なんて良く合われるが、改めてそう思う。

 もしマリの事をもう愛していなければ、ここまで憎むこともなかったのだろう。


 だから、俺が前に進むためにはこの感情にケリをつけないと行けない。


 だからこそ俺は気持ちを確かめる意味でも計画を実行した。



 そして、そのためにまず表面上はマリと再構築するという形を取った。


 ただそれは、覚悟していたつもりだったけど想像以上にきつかった。


 何気ない日常。顔を見るだけで辛い。

 マリの手料理を受け付けることが出来ずに吐いてしまう。


 触れられる事にも嫌悪感が湧き。


 話をしようにも、マリの事が理解できなくなっていた俺は何を話して良いのか分からなくなっていた。


 そんな中でマリは必死に俺に寄り添おうとしてくれた。


 でも、そんな態度でさえ俺にとっては今更と感じてしまう。

 もう、何もかもが遅いと。


 アキちゃんと似た顔なのに、マリを見るとあの時の映像がフラッシュバックし吐きそうになる。


「愛してる」の言葉が映像と重なり薄っぺらいチープな音へと変わる。


 マリと過ごす時間は俺にとってはストレス以外の何ものでもなかった。


 そんな、俺にとっては忌々しく腹立たしい疫病神のような存在なのに……。



 俺はそんな内心を悟られないように表面上はマリと上手くやっていった。


 マリも順調に関係は修復していると感じているだろう。


 周りから見てもきっと大丈夫。

 そう思われるようになった頃。


「マリ、こらから一週間出張に行くことになった」


 俺は要点だけを伝える。


「分かったわ。仕事上手くいくと良いわね」


 マリが少しぎこちなく笑う。

 未だにお互いに触れ合う事は出来ないけど、少しづつ以前のようなやり取りが出来るようにはなっていた。


「ああ、ありがとう。家を空けちゃうけど宜しく頼むよ」


「えっ、ええ、もちろんよ任せておおて」


 やはりたどたどしく答えるマリ。

 最近マリの様子がおかしい事には気付いている。


 こそこそと何かをしているようだ。


「えっと最終日は帰って来るの遅くなるのかしら」


 いままでとは違い帰宅時間を気にする。


「そうだな。夜の七時頃には家に着けると思う」


「そう、なら良かった」


 どこか安心したようなマリ。

 

「どうかした?」


「いえ、なんでも無いの、何でも」


 慌てるように手を振り、何かを誤魔化すような感じがする。


 当然俺はそんなマリに対し何も知らないフリをして、一週間の出張に行った。




 そして一週間後。


 奇しくも一年前と一日ずれてはいるが結婚記念日に帰宅する。

 

 帰りはサプライズ的なものはせずにちゃんと今から帰るとメッセージを送っておいた。


 部屋に入りリビングまで向かうとテーブルには豪勢なオードブルが並べらていた。


 それと同時にマリの声が「おかえり」と告げる。


「ただいま」と返し、目の前の料理に驚いたように振る舞う。


「どう、驚いたでしょう。今日は結婚記念日だから少し奮発してみたの」


 どうやら今年はちゃんと覚えていたらしい。


 マリの手料理は未だに受け付けないので、どうやら特注品のオードブルやらピザやらを注文してくれていたようだ。


「ご飯まだよね。後片付けなんかはやっておくから着替えてきて食べましょう」


 マリはスーツ姿の俺に着替えるよう促し、食事の準備を始める。


 言われるままに俺は着替えを済ませ席につく。


 マリは準備していたワインを開け、俺のグラスに注いでくれる。


 乾杯して食事を始めると、マリは一週間の出来事を色々話してくれた。


 俺はそれを最近しっかり馴染んだ仮初の笑い顔で聞き流す。


 一通り食事を食べ終わった頃。


 マリは声でドラムロールを再現すると、「じゃーん」と言って俺にプレゼントを手渡して来る。


「開けて良いのか?」


 俺が尋ねると嬉しそうに頷くマリ。


 包装を解き、箱の中を開くと高級そうな腕時計が入っていた。


「……ありがとうマリ。実は俺からもプレゼントがあるんだ」


 俺は笑顔でUSBメモリを手渡す。


「なにこれ?」


「うーん。ビデオレターってやつかな」


「えっなに、そんな手の込んだの用意してくれていたの」


 嬉しそうにメモリを受け取ると自分のパソコンを持ち出しメモリをスロットに差す。


「えっと、七つあるけどどれから見ていけば良いの?」


「ああ、順番通り一から見ていけば問題ない」


 俺にそう言われて動画を再生するマリ。


 すると先程までの笑顔が崩れ、泣きそうな顔で俺を見た。


「ねえ、何なのこれ?」


「だから、俺からのメッセージだよ……(一年越しのね)」


 俺は笑ってそう答えた。




――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価とコメントをしていただいた方には感謝を。


次でいよいよ最後になりますが

面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

 



 

 

 

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