妻が浮気して、そのくせ再構築を望んでくる。【完結済】

コアラvsラッコ

第1話

 妻のマリと結婚して三年。


 付き合いはもう二十年以上。

 いわゆる幼馴染というやつだった。


 付き合い出したのは高二の頃。

 俺から告白した。

 二人が初めて出会った思い出の公園で。


 小学生からの幼馴染で友人。

 そんな居心地の良い関係から勇気を出して歩み寄ってみた。


 そしてお互いに歩み寄った事で俺達は付き合う事が出来た。


 確かに燃え上がるような恋ではないかもしれない、お互いに少しづつ気持ちを積み重ねていった先の想い。

 そんな緩やかなで穏やかな関係でも、俺は間違いなくマリを好きになり、愛していた。


 告白を受け入れてくれた時はマリも同じ気持ちだと知って凄く嬉しくて、自然と涙がこぼれた。


 付き合い出してからは以前よりさらに一緒に居る時間は増え、恋人としてお互いの時間を共有していった。


 初めのデートは水族館で照れながら楽しんだ。

 付き合って初めての誕生日。プレゼントと一緒に初めてのキスを交わした。

 夏休み恋人として初めて見る彼女の水着姿にクラクラした。

 秋の修学旅行で一緒に巡ることができ、高校時代のかけがえの無い思い出を残した。

 そして初めて体を重ねたクリスマス。お互いぎこちなくてでも間違いなく一つに慣れた事に喜びを感じあった。


 三年になってからは受験勉強で忙しくなったけど、お互いに同じ大学を目指し支え合うことも出来た。

 だから目標にしていた大学にも無事に合格することが出来た。

 お互いがお互いの頑張りを分かっていたから、一緒に泣いて合格を祝った。

 

 大学に入ってからもやっぱり俺達の関係は変わること無くずっと一緒だった。

 お互いが、自分の隣はこの人しか居ないと信じ合えていた。


 だから大学卒業して直ぐに結婚した。


 お互い就職先は決まっていたが離れるなんて考えは微塵も無かった。

 流石に社会人一年目は仕事で一杯一杯で大変だったが、マリがいたから頑張れた。

 マリにとっても俺がそういう存在になれたらと願った。

 二年目に入り俺も少しは落ち着いた。

 マリも仕事に余裕ができ、将来は一戸建てが良いだの、子供は二人欲しいなんて明るい未来について笑って話していた。



 そして三年目の秋頃から…………マリの様子が最近おかしくなった。


 もともと残業の多い会社ではあったが、深夜帰宅になるほど長時間残業はあまり無かった。しかし最近それが多くなった。


 疲れて帰ってくるので当然夜の営みも減る。

 それはまだ疲れているからと理解できた。

 ただ今までは当たり前のようにしていた軽いキスや、スキンシップすら避けるようになった。


 なんだか胸の奥がざわついた。


 さらに嫌な予感を加速させたのは細かな行動の違い。

 たとえば今まではテーブルの上など無造作に置かれていたスマホをマリが手元から離さなくなった。

 仕事しか無かった週にも関わらず派手な下着が洗い物に出されていたり。

 今までは会社であったことや些細な愚痴なんかも話してくれたのに、今では会社での事を尋ねると機嫌が悪くなり口をきかなくなるなんてこともある。


 なにかがおかしかった。


 そして、その不信感がピークに達したのは。

 俺が一週間出張すると伝えると、露骨にマリの機嫌が良くなった時だ。

 

 何かある。そう疑わざるを得なかった。


 猜疑心に駆られた俺は部屋にある仕掛けをした。

 それは隠し撮り用のカメラ。

 自分でも狂っているかもしれないと思えた。


 でも確認せずにはいられなかった。


 マリが裏切っていないという事を、狭量な俺が疑心暗鬼に陥っているだけだという事を。


 そう信じて―――――




 出張から帰ってからの振替休日。


 マリは仕事。今日も遅くなるかもしれないので夕飯はいらないとの事だった。

 俺はそれだけで陰鬱な気分になりながら、恐る恐るパソコンを立ち上げた。

 録画していた記録映像を確認するために。

 手を震わせながら動画を再生する。

 予感がただの見当違いだと胸をなでおろしたくて。

 今日この日、結婚記念日を二人で一緒に祝いたくて。

 用意したマリへのプレゼントを渡した時、喜んだ顔が見たくて。

 


 けれど俺の願いは打ち砕かれた。


 映し出されたのは俺にとっては地獄絵図。


 誰よりも愛して信頼していたマリが、見知らぬ男に抱かれて乱れる姿。


 下品な声で「気持ちいい」と喘ぎ。

 粘液まみれの濃厚なキスを交わし俺以外の男に「愛している」と叫ぶ。


 男が耳元で何かを囁くと「貴方がイイの、貴方のほうが気持ちいい」と何かと比較させるような答えを言わせる。


 そんな寝室の映像には色情に狂った男女の交わりは一週間分毎日記録されていた。


 またリビングでの映像は、マリの手料理を振る舞われ、それを味わう男の姿も映し出された。まるで甘甘の新婚カップルのようで、裸エプロンなんてものも披露していた。


 知らない人間が見れば、この男の方が本当の旦那だと思うだろう。


 俺は用意していたプレゼントをゴミ箱に捨てるとみっともなく泣いた。

 それこそ声に出して。


 そして思った。

 俺の何が悪かったのかと。


 確かに俺は完璧な人間ではない。

 優秀さでいうならマリの方が上だろう。


 けれど、何よりも、誰よりもマリを愛している事だけには自信があった。


 でもこの映像を見れば、俺の想いはただのお仕着せと思われていたのかもしれない。


 一方通行の虚しい感情。


 マリはもしかしたら幼馴染の腐れ縁としての同情から俺と結婚したのではないかとさえ思えてきた。

 するとマリの喜んでいた顔が全て嘘に見えてくる。

 

 初めてマリの事が分からなくなった。

 マリの事が怖いと思ってしまった。


 もう自分の感情がコントロール出来ない。


 もし、今マリに会えば俺は何をするか分からない。


 激情のままマリを殺すことだってあり得る。

 絶望に身を任せ、当てつけでマリの前で自殺することすら頭をよぎる。


 ぐるぐるとネガティブな思考に頭を冒されながら、俺はなけなしの理性をもって何とか家から出た。


 


――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価をしていただいた方には感謝を。


初めて長編のコンテストに応募します。


読んで頂けたら嬉しいです。


《タイトル》

『ダンジョンエクスプロード 〜嵌められたJKは漆黒宰相とダンジョンで邂逅し成り上がる〜』


https://kakuyomu.jp/works/16817330664753090830



こちらも引き続き応援してくれると嬉しいです。

面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

  

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