第50話 焔の過去
「バーナードさん!おさえて!続きを聞きましょう」と、ヅラがバーナードを制する。ハインミュラーが頷いていたからだ。
《おや、神すら超える剣士さんのお出ましか》と、女性の声がした。
「あなたはアテナ神ですね??答えなさい」と、ヅラ。
《いかにも。我はアテナ神、その大地の巫女を石化することでシェムハザを封印し、世界を救った女神よ》と、アテナ神がいかにもおもしろそうに言う。
「過去形にしてほしくない」と、ヅラが言った。
《諦めが悪いな。あの少女はやけに素直でいいわけがよかったぞ、すぐに承諾した》と言ってアテナ神が静かに笑うので、ヅラはカチンと来て、抜刀しようと剣の柄に手をかけた。
「一人の無実な少女の命を道具にしているお前らに、裁きをくだす!!」と、ヅラが言った。
ヅラの目には怒りの炎が燃えていた。ちらちらと。
「卑怯者、出てこいアテナ神!!俺と勝負しろ!」と、ヅラが叫ぶ。
《――よかろう、最強の剣士よ!だが、神に勝てるかな・・・???》と、アテナ神が笑いながら言って、気づいたら、ヅラは人気のない黄龍の神殿の1階・・・つまり今までヅラやハインミュラーやバーナードがいたところ・・・にいた。
皆の姿はない。だが、石化したリアンノンとシルウェステルの像だけはある。
そこに、ヅラ・ラ・ラスコーニと、宙に浮かんであぐらをかいているアテナ神が対峙していた。
よく見ると、なんとアテナ神が、リアンノンのつけていたカロンの首輪を手にしていた。
「そのアクセサリー、なぜ貴様が持っている・・・リアンノンちゃんから奪ったのか」と、ヅラが聞く。
「死んでもらうためにね、石化の前に返してもらった。次の大地の巫女に引き渡すのに必要だからな」と、アテナ神。
「なぜ、貴様は、」と、ヅラはすぐに斬りかかりたい衝動にかられながら言った。
「なぜ貴様は弱き者を狙う。弱き者を礎にして、犠牲にして成り立つ平和しか考えられないのは神々失格だ」と、ヅラ。静かに抜刀し、構える。
「弱き者・・・・おんなこども・・・とはいえ、犠牲にならねばならぬ時もある。平和とは何かの犠牲の上に成り立つもの。というのが、世界アラシュアの神々の基本的な考え方だ、残念だったな。・・・とはいえ、犠牲を最小限にするため、賢者制度がある。どうだ、理屈は通ってるだろう」
そのアテナ神の態度に、ヅラはぶっつんと何かが切れた。
ヅラの脳裏に、前世の記憶・・・同じ炎の瞳・・・焔の記憶がよみがえったのだった。走馬灯のように。
(こんな時に俺をさいなむか・・・あの過去は)とヅラは思い、静かに目を閉じた。
*
フォーリーン家は、今や危機に直面していた。遠くの戦争に、長男のジェルヴェが出征し、妹のマトローナが心配し、近所の娘たちと同じように、毎日泣くのだった。
「いやぁねえ、こんな時に戦だなんて」と、娘たちは口々に言ったものだった。
「あなた、マトローナを元気づけてあげてください、夕食もろくに口にしないし」と、妻のエステル。
フォーリーン家の現当主・・・ヅラ・ラ・ラスコー二の前世・ジェームズ・フォーリーンは、新聞を置き、ため息をついて言った。
「この分では、戦争はだいぶ長引きそうだな。ジェルヴェは比較的安全な地域に送られたらしいし、分かった、ちょっとマトローナを励ましてくる」と言って、ジェームズは椅子から立ち上がった。
「マトローナよ、そう泣くな、兄上様が悲しむよ」と、ジェームズがマトローナの、戸が半開きになっている部屋に入り、泣いているマトローナを見つけて言った。
「悲しいのは分かる。だが、ジェルヴェはそんなことで喜んだりしないよ」と、ジェームズ。
「父さん・・・」と、マトローナ。マトローナは14歳だった。
フォーリーン家・・・というより、この村に異変が起きたのは、戦争が始まって半年後、さらに2~3カ月ほどたったころだった。
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