第35話 アラミスの過去
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ジャック。ジャック・ザハロフ。それが、そいつの名前だった。
幼いころから、将来魔法剣士になることを夢、というか目標にしていたレオンは、いつも学校で剣術でどうしても叶わない同級生を意識していた。ジャック・ザハロフ、そいつにだけは勝てなかった。他の生徒は、年上であろうと、なんなくあっさりと倒せるのに、だ!
上級生をいつものように倒した後、レオンはジャックから、おれんちにこないか、と誘われた。
ジャックは、多少態度に荒っぽいところはあったものの、根はいい人のようで、決していじめなどしない人だった。だから、下級生からも慕われていた。
「おうよ、ならお邪魔する、ジャック!!」と、若干、ジャックに1度も勝てなかったことを苦々しく思いながら、レオンはその日、学校帰り、ジャックの家に行ったのだった。
レオン・・・アラミスの前世の名・・・少年は、小国地帯のとある国に住んでいた。近々、伯母のいるプレトリア共和国に移り住む予定だ、とは母親からなんとなく聞かされていた。
ジャックの家は、比較的裕福な規格の住宅街にあった。アパートの3階が、ジャックたち家族の家だった。
「あらぁ、ジャックのお友達??珍しいわねえ、あの子にも友達が!!」と、出迎えた母親が物珍しそうに言った。
「どうも。お邪魔します」といって、レオンはジャックの家に招き入れられた。
なんとなく気まずさを覚えながら、レオンは、居間で、ジャックと二人、母親がいれてくるお茶を待って静かに座っていた。
この国では、近い将来、内紛が起きると話題だった。なので、その前に、レオンたち一家は、中立国・プレトリアに逃げる算段だった。
ジャックの家は、裕福とはいえ、そこまでの資金のある家ではなかったらしい、この国に残る決意をしていたようだった。それは、学校でジャックが他の生徒と話してるのを聞いて、うすうすレオンは知っていた。
「よう、ジャック、お前本当に強いな」と、11歳のレオンは言った。
「お前もなかなかじゃないか」と、ジャックがにやりと笑って言った。
「俺はお前に一度も勝ったことがない。その剣術、どこで習った?」
「死んだ父親から、死ぬ前に伝授されたのさ」と、ジャックがどことなく落ち込んだ風に言った。
「俺の親父はギルドで働いていたから」と、ジャック。
「・・・そうか・・・」レオンには、両親は健在だった。
「お前、いいやつだよな」と、ふいにレオンがジャックに言った。その言葉のあと、ジャックの母親が紅茶をいれて持ってきてくれた。
「ゆっくりしていってちょうだい、レオン君」と、ジャックの母が言った。
その日から、ジャックはレオンの親友になった。話も合った。なにかとまじめで、それでいてジョークもうまいジャックに、レオンは魅惑された。
13歳になって、中等部に進み、進路を決めるとき、二人はどちらも魔法ギルド入りを将来に見据えて、戦闘系の魔法使いのコースを選んだのだった。そして、13歳の夏、レオンはプレトリアに引っ越した。
「お前と友達になれてよかった」と、レオンがジャックと手をつないで言った。
「プレトリアでも、授業さぼんなよ!俺を追い越してみな」と、ジャックが冗談めかして言った。
「おうよ、またいつか会おうな、ジャック!なに、狭いこの世界、再会するときもあるだろう」と言って、レオンはその国を後にした。
それから月日が経った・・・レオンはレオンで、転校先の学校でもうまくやり、プレトリアの魔法剣士のギルドの一つに入った。魔法も使えたが、剣術に頼る部分を得意とする人の分野として、「魔法剣士」というジャンルがある。
ジャックがどうなったかはあ、レオンには分からなかった。ちょうどレオンが19になったとき、もといた国が、政府軍VS反政府軍で揺れていたり、あちこちで政府への批判で争いが起きている、と人づてには聞いた。
ジャックや、残してきた旧友たちのことが心配であったが、レオンには、ギルドの一人として日々の任務をただまっとうする以外になかった。
そんなある日だった。レオンが25の時。ギルドでも中堅に差し掛かるころだった。後輩からも頼りにされていた。
レオンの所属するギルドの編成1チームが、1名を残して全滅したとの知らせが入った。
なんでも、「カザンラク解放軍」を名乗る魔法使いの集団たった10名に、30名がやられたとのことだった。
「カザンラク」。レオンが13までいた国の名前だった。プレトリアの斜め下の隣国だ。
嫌な予感もしたが、レオンはそのギルドでもナンバー1の剣士だったので、躊躇することなく、その解放軍と名乗る10名の魔法使い集団の討伐に向かった。プレトリアのとある村を襲い、プレトリアの領土の一部を奪おうとしているのだった。
それもいろいろと、政治的に難しい交渉の材料にするためらしい。プレトリアの背後には、メルバーンの国が常にある。
「レオン、頼んだぜ・・・・オレが万が一の時でもな!」と、第二軍のリーダーの先輩から肩を叩かれて、レオンはそう言われた。なんと言葉を返せばいいか分からなかった。
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