第四章 「殉死」
第26話 ゼルフィーネの前世、語られる
第四章 「殉死」
結局、石像にひびが入っている、というリアンノンたちからの報告は、アテナ神からの返事を見やるに、大して神々の興味はひいていないようだった。ただ単に、「今後の報告を待つ」という返事が来ただけだったのだ。
スマローコフは、「神々には我々の想いは届かないらしい」と言い、ヅラは、「なにかおかしい・・・」と言ってふさぎ込み、リアンノンは、「このままで本当に大丈夫かしら」と、4人の巫女たちと話し合っていたのだった。
「私は500年前にこの国に来たけれど、前の巫女さんの時代でも、こんなことあったの??」と、ゼルフィーネ。
「いいえ、ゼルフィーネ、石像にひびが入るなんて、異例のことよ」と、リゼティーナ。
「イヤな予感がするわ」と、セレス。
そんなある日、ゼルフィーネに仕事の依頼が来た。ガーレフ皇国の方角の近くにあるハートフォードシャ―の町・ギアナに、黒色のお化けのような化け物がでるという。魔物の災厄防ぎの、朱雀の加護を持つゼルフィーネに、なんとか結界をはってほしい、との依頼だった。もちろん、巫女一人では危険なので、7勇士のうちの人が同伴する。
「黒色の化け物??」と、ゼルフィーネは、話を聞いて首をかしげた。
「何のことかしら?悪に堕ちた魔法使いが、自分の仕業とばれないように細工してるとか」
そのとき、手を顎に置いて思考していたシルウェステルが、顔を上げて言った。
「食屍鬼(グール)かもしれない」と言った。
「グール??それなに??」と、バーナード。
「俺は知ってるぜ!弟が、100年ほど前に倒した、ってオレ日記に書いたもの。覚えてるぜ!」と、アラミス。
「形状がよく似てる。被害情報からも、グールの特徴と一致する」と、シルウェステル。
「グールって何するの?」と、ゼルフィーネ。
「簡単に言うと、人の影を喰らうんだ。そうすると、その人の魂まで吸収して、グールはドンドン強く、そして巨大になる。また、グールの叫び声を、残響波と呼ぶんだが、それを聞くと、たいていの人は身動きが取れなくなる。魂の悲しみの叫びだからな。負の部分の叫びだから、人々は動けなくなる」と、シルウェステル。
「ゼルフィーネさんには、俺が同伴するよ」と、シルウェステルが言った。
「俺がグールを倒した後、ゼルフィーネさんに結界を張ってもらえばいい。巫女の結界にはグールを退ける力は確かにある」と、シルウェステル。
「手伝おうか、弟よ??」と、アラミス。
「兄さんは、リアンから光の加護かけてもらってないだろ。グールにやられちまうよ。行くなら、リアンに加護をかけてもらってからな!」と、シルウェステル。
「――っと、そうか!分かった、ならリアンノンちゃんに頼んでみる!」と、アラミスが手帳にメモした。
「出発は今日の夕刻。それまでに頼むぞ」と、シルウェステル。
(兄と弟、ね・・・・)と、ゼルフィーネは、アラミスとシルウェステルを見て思ったのだった。
「ん??どした、ゼルフィーネ?」と、シルウェステル。ゼルフィーネが、シルウェステルたちを見て、遠い目をしていたのだ。アラミスはその時には、リアンノンのいる神殿に向かっていた。
「あ、いや、その、私の前世のコト思い出しちゃってね!なんでもないの」と、ゼルフィーネが笑顔を取り繕う。
「そういやあ、俺はゼルフィーネの前世のこと、よく詳しく聞いてないな」と、シルウェステル。
走って行く兄を見ながら、「まあ、兄も同じだろうが」と付け加えた。
「私はね、年の離れた兄と、1歳年下の弟がいたの。3人兄妹」と、ゼルフィーネが語りだした。
「!?お、おう・・・」と、シルウェステルが聞き入る。
「私が12の時・・・ちょうど進路を決める時期ね、その時、19だった兄は、悪神シェムハザの影響による、広範囲の化け物討伐のためギルドの一人として行ったわ。毎月、私は手紙が送られてくるのを待ったわ。好きな兄だったの。大好きだったわ、優しくて。ところが、4か月後来たのは、兄の遺骨の一部と、ギルド長からの謝罪の手紙だった・・・。そこで私は、13歳からの中等部、医療魔術の道に進むことを決めたの。弟は、『兄さんの遺志を継ぐ』とか言って、家族総出で止めたけど、ギルドに入る魔法使いの道を選ぶ、とかわめいてたわ。――そして、結局そうなった」と言って、ゼルフィーネは言葉を切った。
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