第8話 残された彼女と、神々と

1週間がたち、アイリーンはやっと外に転がり出れた。寝ているうちに、うとうととしているうちに、加護がとれたのだ。

 周りは黒ずみばかりだった。黒焦げの一面。

 どれが遺体で、どれが樹々の残骸化、区別もつかなかった。

「クレド様!!」と、アイリーンが思わず発狂しそうになって叫んだ。

 だが、その声も虚しく虚空に響き、返事は帰って来なかった。

 ひどく、のどが渇いた。

 一日ほどさ迷い歩き、アイリーンは、やっとのことで小さな湖を森の中に見つけた。

 街道に戻ることも考えた。だが、人に会うのが怖くて、行く気にはなれなかったし、二人の賢者さまを失ってまで、たった一人で生き残る自信もなかった。この、首都近くの町は、フレズノの町を出たことのないアイリーンには未知の地だったし、生き延びられるはずもなかった。

 湖で水を飲み、ゲホゲホ言いながら、アイリーンは水面を見つめた。

(いっそのこと、死んでしまおうか・・・)と、いけない考えがアイリーンの脳裏に浮かんだ。

(だけど、私にそんな勇気もない。あるはずもない)と、アイリーンは考え、絶望でかがみこみ、真っ青になった。

 クレド賢者は言った、「君だけでも生き延びてな」と。そして、「天国で会うことがもしあったら、その時は結婚しないか。いや、会ってくれるだけでもいい」と。

 その言葉で我に返ったとき、ふと、後ろに人がいるのに気が付いた。

 そこには、背の高いすらっとした、古風ないでたちをした女性が立っていた。

「だ、誰・・・??」と、アイリーンが、恐怖のあまり声を裏返って言う。

「なに、怖がることはない、アイリーン・ラッセル殿」と、その女性が、厳しい目のまま言った。

「あなたは誰です??」と、アイリ―ン。

「私は、二人の賢者の行く末を知っており、二人から命を受け、貴女の様子見に来た、女神アテナ神です」と、その女性が言った。

「女神様・・・・!?!神様、なんですか・・・??」と、アイリーン。

「そう、まさにその通り」と、アテナ神が微笑む。

「天国に行く前に、クレド賢者と、アレクシス賢者から、一つ気がかりがある、と直に頼まれましてね、アイリーン殿。あなたがちゃんと生き延びているか、見てきてほしい、と」と、アテナ神が言った。

「あなた方のご事情はだいたい知っています。そこで、わたくしから、あなた方にお願いがあるのです。竜人になりませんか」と、アテナ神が言った。

「は・・・??」と、アイリーン。

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