第7話 二人の死

やっとのことで立ち上がり、アイリーンのそばにいく。

「五芒星追儺儀式」と、頭から血を流し、アレクシスが言った。

「ありとあらゆる災い、我に近付かざるべし。我いずこにおれど、聖なる天使に守護されたればなり」

 と、クレドが唱え、「光の天使の加護!」と言ったのだった。

 この時点で、二人は残り魔力ゼロになった。

「さあて、俺らはあとは、死ぬのを待ちましょうかね」と、アレクシスが、遠くに逃げ去った馬の方を見やって言った。

「そうっすね、アレクシスさん。巻き込んですみませんでした」と、クレド。

「いや、いいんですよ、クレドさん。あんたの見込んだ女性なら、俺はこういうエンドも悪くない」と言ってる最中に、またしも爆撃の音が聞こえて来た。耳をつんざくような音だ。

 その時、爆撃の音で、アイリーンが、失神から目を覚ました。その時には、木の巨大なうろのなかで、シールド魔法のようなものが入口にかかっており、アイリーンが、手を叩いてその壁をやぶろうとしたが、出られなかった。

「アイリーン、最期に聞いてくれないか」と、クレドが、アイリーンの傍によって言った。

「俺な、最初は、亡くなった妹の代わりに、助けたいと思って、君を助けた。だがな、一緒に旅するうちに、君という人に、恋するようになった。アイリーン、その加護からは、1週間でられない。その間、水を飲まなくても、食べ物がなくても、死にはしない。そういう加護だ」と、クレドが説明した。

「賢者さま、そんな!死ぬなら、私も一緒に!!」と、アイリーンが扉を叩いて言った。

「わたくしめも・・・・わたくしも、あなたに惚れていました、クレド様」と、アイリーンが、出られないのを悟って、涙ながらに言った。

「そう、それはありがとう。君だけでも生き延びてな。大丈夫、一週間後には、爆撃機は去っているし、その時には、皇国の皇帝も、戦争を放棄し、降伏してるだろう。いいか、君だけでも生き伸びるんだ。いいな??」と、腕に怪我を負っているクレドが言った。

「でも・・・!!」と言って、アイリーンはうつむいた。

「いいかい、小娘ちゃん」と、アレクシスが言った。

「俺らは賢者、君より大人な判断ができる。これでも、400年は生きてるんだ、俺もクレドさんも、な。どうせ3人死ぬなら、君だけでも逃がす、それが俺らの判断」

「アイリーン、天国で会うことがもしあったら、その時は結婚しないか。いや、会ってくれるだけでもいい」と、クレドが言った。

「賢者様・・・」と、アイリーン。

「結婚してくれる??」と、クレド賢者が微笑んで言った。

 アイリーンが、こくんと頷く。

「うん、なら俺もそれでいいよ。俺とアレクシスさんのしたことも、あながち間違いではない」と言って、出血多量で意識が半ば薄れかけていたクレド賢者は、木のうろの横に腰かけて、後ろのアイリーンに、語りかけていた。

「君と会えてよかった・・と言ったら??」と、最後まで、遠くから爆撃の音が聞こえる中、クレドが尋ねた。

「賢者様、私だって・・・」と言いかけたところで、ついに爆撃機の爆弾が、3人のところに振って来た。ちょうど、遠くから、街道から山道に、20名以上の人たちが逃げ込んできたところだった。爆撃機は、その人たちを追ってきたのだった。

 アイリーンは、目の前で、すごいつんざくような音を聞いた。加護のおかげで、鼓膜はやぶれはしなかった。

 目をつむっていたのだったが、開けてみると、そこには何もなかった。一面焼け野原だった。アイリーンのいた巨木だけは立っていた。だが、それも魔法の加護で姿を隠されていた。だから、敵には、ただの焼け野原に見えただろう。

 アイリーンは、短い期間だったとはいえ、愛した人の散り際も見れず、終わったのだった。

 それから、悪夢の一週間が過ぎた。

 逃げ惑う人々がたくさん来た。街道から、まだ山道の方が安全だろうと判断した人々の群れ。そのたびに、空襲が降ってきて、みんな死んでいった。

 3日目あたりから、あたりはしーんとなった。爆撃機も去り、静寂と平穏が戻って来た。

(私のせいで、賢者様が、二人も亡くなった・・・・)と、アイリーンは半ば絶望の中、木のうろの中で閉じ込められて過ごした。

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