序章 哀しい前世の宿命
第2話 アイリーン・ラッセルのおはなし
序章 哀しい前世の宿命
ガーレフ皇国の海沿いの街・フレズノの町の教会に、アイリーン・ラッセルという一人の見習いシスターがいた。
フレズノの街・・・に限らず、当時は、ガーレフ皇国の皇帝の指示で、国の男性はほぼ半数が戦争に駆り出されており、国内はその戦争資金で疲弊していた。
残された女子供で、貧しい暮らしをしていた。リマノーラと、泥臭い戦争をしていたのだ。
戦争が始まったちょうど開戦の年、ちょうどアイリーンは、15でシスター見習い学校を卒業し、16から教会に配属されてから5年目であった。
「いやねえ、戦争ばかりしているこの国、いつか滅びるわよ」と、同僚のシスターたちはいつも口々に言っていた。
皇帝の独断で、国はいつも苦労していた。大臣たちも賛同していたらしい。
「シスター様、どうぞ教会の門をお開けください。もう飢えるだけです。子供が死んでしまいます」と、毎日のように、このフレズノの街の教会に、困った人々が押し寄せた。
アイリーンは下っ端だったので、どうすることもできなかったが、先輩の指示にしたがって、せわしなく働いていた。
教会にも、ある程度の備蓄食料はあったが、それも底をつくのは目に見えていた。
そんなある日、教会に、一人、ぶらりと旅の人が訪れた。
名をクレド・ロースソーンと言った。400歳ぐらいの賢者だった。
「自分はメルバーンから、要請を受けて来ました。リマノーラと皇国、両方に、賢者が派遣され、戦争をやめるため説得に回っています。この町の教会で、一休みさせてもらえませんか」と、クレド賢者は言った。
「どうぞどうぞ、賢者さま。わたくしめどもも、長引く戦争に困っております。皇帝が悪いのです、王族が悪いのです。大臣たちも悪いのです。どうか、このガーレフ皇国の王族を止めてください」と、シスター長たちがこぞって言った。
「なるほど・・・実は、仲間5人とともに、2週間ほど前、皇帝陛下に謁見を申し出ようとしてですね、追い返されましてね。賢者と言う身分を名乗ってもです。5人はとりあえず別の地区に向かわせ、住民に避難するよう指示をしています。私も、遠路はるばる、このフレズノの町に、危険を知らせに来ました。まずは、食糧は持っておりますので、一晩宿を取らせていただけないでしょうか、もうくたくたで」と、賢者は言った。
「かしこまりました、賢者さま、おはいりください」と、シスター長が言った。
そして、半ばすすけたコートを着たクレド・ロースソーン賢者は、このフレズノの町の教会で、少しの間暮らすことになった。その世話係が、下っ端のアイリーンだった。
「クレド賢者さま、」と、アイリーンが言った。
「わたくしめはアイリーン・ラッセルと申す一人のシスターでございます。なんでもお申し付けください」と、アイリーンがお辞儀をして言った。
「ふうん、君がアイリーンちゃん。君、なかなか綺麗だね」と、クレドが愛想よく言った。
「それはどうも」と言って、内気なアイリーンは頬を染めて言った。
「君、今日時間ある??」と、クレドが言った。時刻、午後5時だ。
「ええ、今日はとにかく、賢者さまのお世話は、わたくしめの仕事ですから」と、アイリーン。
「なら、俺の話を聞いてくれよ」と、クレドが少し考え込んで言った。
「あのな、君、家族いるなら、もうこんな……と言っては失礼だが、この教会での任務は捨てて、逃げた方がいいぞ。ご家族と。悪いこと言わないから」と、クレドが言った。
「え・・・??」と、アイリーン。
「あのな、神々から情報が入ったんだ、来月には、科学技術大国のリマノーラに、新たな兵器が生まれる、ってな・・・神々でも、それ以上のことは分からないらしい。君にだから言った。だから、悪いこと言わない、すぐに逃げろ」と、クレド賢者が言った。
「そんなことを言われましても」と、アイリーンが手を胸にあてて言った。
「私はこの身を、主・イエス=キリストに捧げ、弱き者の人のために動くと誓ってシスターになったのです。この教会の者みんなです。それなら、町の人を逃がして、そののち私たちシスターも逃げましょう」と、アイリーンがえっへんとした風で言った。
「それは御大層な」と、クレド賢者がくすっと笑って言った。
「すまない、つい笑ってしまった」
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