第4話【幕間】ケンカの訳

【SIDE ファルル】


 もう。


 和樹ってば、何でわかってくれないのかしら。


 月の女神だった私の願いで、世界を助けに来てくれた和樹。


 勇者として魔族まぞくと戦ってくれたあの頃はあんなに話を聞いてくれて、優しくてカッコよかったのに。


 とかいって。


 今も優しくてカッコいいのは変わらないんだけどね、えへへ。


 だけど。


 今回はちょっとガンコ。わかってほしいの。わかってよ、和樹。夜瑠よるの未来にかかわることなんだから。私たちの大切な大切な宝物、夜瑠のことなんだよ。


はる……、ファルル。君の言ってることはわからなくはない。だけど僕らじゃなくって……夜瑠がグランディアに呼ばれるっていうのはやっぱり考えすぎじゃないのか?」


 そんな風にしかめっツラをしてるけど、知ってるんだから。


「でも、夜瑠はあの世界で勇者になった和樹と、月の女神だった私の子どもだよ? 何かの力を持っていてもおかしくないよ。普段は何も感じないけれど、ちゃんとした理由りゆうがあって、あの子が泣いたり怒ったりするときに……不思議な力を感じるって言ったでしょ? 和樹だってそう言ってたじゃない」

「そりゃ、そうだけど……」


 知ってるんだからね!

 

 ゲームしてる時やキャンプに行った時、呪文の唱え方とか教えてるの! しかも、召喚とか強い魔法ばっかり! 夜瑠が私の結界魔法を唱えられるようになってからにしてよね!


 ……でもね?


 心のどこかで、和樹だって心配だからじゃないの? 夜瑠が、自分みたいに呼ばれたらどうしようって。


「考えすぎかなって思う時もあるけど、私だって心配なんだよ」

「…………うん、それはわかってる」

「夜瑠の未来は夜瑠のものだし、自分の力でつかみ取らなきゃいけない幸せだってあるよ。でも、私たちが整えてあげれることだってあるはず。夜瑠が不幸せになるような、悲しい気持ちになるような選択肢は消しておきたいんだよ」


 あの子がグランディアに一人ぼっちで引き寄せられて、どうしたらいいかわからずに泣いている。


 そんな姿をほんの少しでも想像しただけで、涙が出る。胸が搔きむしられる。

 

 夜瑠のことはラナや精霊、グランディアの親しい人たちには伝えてあるけれど……まずは下地を敷いておきたい。


「うーん……」

「そのためにも、グランディアを見せておきたいの。この世界に比べたら、確かに危ないかもしれない。でも予備知識や経験があれば、みんなに紹介しておきたいの。夜瑠は優しくて賢い子。きっとみんなだって仲良くしてくれると思わない?」


 あの子はきっとグランディアの仲間たちに好かれると思うの。


 なのに、この話をするといつも和樹、むむむって顔をする。和樹のばかばか、分からず屋!

 

「……俺、やっぱり反対だな。あの世界を見せたい気持ちはわかるよ。グランディアは美しいところだ。神様と生き物、自然が手をとりあって生きてる。でもさ、危険だって多い」

「そ、それはそうだけど……」


「今は魔族と手を取りあって仲良くしているけど、魔族全員とわかりあえたって訳じゃないでしょ? それだけじゃない。会話や気持ちが通じない、キケンな精霊や生きものだって多い。あの世界より遥かに平和な日本で暮らしている夜瑠が、あっちでケガしたらどうするんだよ」

「だから、何回も言ってるでしょ! 夜瑠をひとりでグランディアに行かせるわけないじゃない! 私たちと一緒なら……あ、待って、しーっ!」


 夜瑠がドアのスキマから、こっち見てる!




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る