第33話 ダンジョンのシロアリ

 ダンタリオンが、真の姿を取る。


 透明な羽の生えた、スペースシャトルくらいのシロアリだ。


「ダンタリオンの正体が、本当にシロアリだったなんて」

 

 実体がアリだから、世界にダンジョンを作るのは当然ってわけか。

 

「そのとおりだ。ちなみに、この世界を想像した女神の正体も、女王アリだ。オレサマたちは、ただ覇権を争っているだけなのさ。どちらがダンジョンを広く作れるのか」


「違うわ! 女神は、魔力の流れを正しい方向へ導くことが使命! ただ、世界の魔力を横取りしようとしかしないアナタとは違う!」


 緋依ヒヨリさんが、反論をする。


「うるっせえな!」


 ダンタリオンが、腕を振った。


 それだけで、噴火サイズの衝撃波が地面を駆け抜ける。


「ああああ!」


 緋依さんが、衝撃波で吹き飛ばされた。


「真偽の程は、関係ねえんだよ。オレサマと女神がどちらもアリってのは、事実だろうが!」


 ダンタリオンが、面倒くさそうに吐き捨てる。

 

「完全に避けたのに!」


「衝撃の範囲が大きすぎるんだお!」


 余裕のダンタリオンに対し、緋依さんはもう虫の息だ。


 ダンタリオンが、「もういっちょ」と、緋依さんを標的にする。

 

「緋依さん!」


菜音ナオトくん、来ちゃダメ!」

 

 緋依さんが、こちらに手を伸ばす。


 しかし、ボクは止まらない。


「ぐあああああ!」


 ボクは、衝撃波をまともに浴びた。



「ほお。驚いた。消し炭にするくらいのパワーで放ったのに、まだピンピンしてやがる」


 シロアリが、大げさに肩を竦める。 

 

「だが、どこまで耐えられるかな?」


 ダンタリアンが、衝撃波を立て続けに放つ。


「負けるか!」


 ボクは、ダンヌさんのパワーがこもった剣で、衝撃波を次々と斬っていく。


「はあ、はあ! はあああ!」


 三発止めるのが、限界だった。

 防御すらできず、ボクは衝撃波をまともに浴びる。

 

「ぐ、あ」


 勝てないのか? このバケモノに?


「勝つ方法は、一応あるお」


「そうなの? わかった。どうしても、負けられない。方法を、教えてくれる?」


「魔力を完全解放するんだお。オイラの魔力を覚醒させて、まともに戦えるようにするお。ただし……」


「どうしたの?」


「人間ではなくなるお」


 つまり、完全に人としてのアイデンティティを失い。獣王ダルデンヌとして生きることが必要になる。


「ヒヨリにも、覚醒はできるお。これまでの戦いで、一時的ではなく、全魔力を恒久的に開放できるはずだお」


 緋依さんは、ダンヌさんの言っていることが、理解できているみたいだ。


 つまり、緋依さんも、勇者ファム・アルファとして一生すごすしかなくなる。


「決めるのは、ナオトだお」


「うん。ダンヌさん、やろう」


 ボクは、ダルデンヌとして生きることを決めた。



「ナオト!? よく考えるんだお! ナオトには地球を守る理由なんて、そんなにないはずだお!」


「でも、ボクには家族がいるんだ。緋依さんだって、ボクの大切な仲間だ」


 ボクは、自分一人で生きてきたなんて思っていない。

 今まで世話になってくれた人を見捨てて、保身のために自らを解放しないなんて、できなかった。


「ボクの命をかけるなら、今だ」



 そうこうしている間に、ダンタリオンの攻撃が迫る。


 ボクは、ダルデンヌの力を一気に開放した。


「なにをやっても、おな、じぃ!?」


 片手で、ボクはダンタリオンの衝撃波を受け止める。


 その手は、もはや人間のそれではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る