最終章 ラストダンジョンを壊す少年

第30話 ラストダンジョン・天空城

 ボクと緋依ヒヨリさんは、天空城へ乗り込んだ。

 ルゥさんの馬車に乗るのも、これで最後だろう。


 羽鳥社長が作ってくれた切れ目に、降り立つ。

 魔物が待ち伏せをしているかもと思ったが、誰もいない。魔石フォトンの効力が、もっとも小さい地点のためだろう。魔物たちでは修復したくても、できないのだ。 


「ありがとうございました」


 ルゥさんも地上の治療班として、仕事をしなければならない。

 

「ではナオトさん、ヒヨリさん、お気をつけて~」


 いつもゆったりした声なのに、そのトーンもやや重めだ。


「元気を出してください。ルゥさんまで不安がっていたら、みんな落ち込んじゃいますよ」


「で、ですよね~。ありがとうございます~」


 ルゥさんが、元の口調に戻る。


「決して、ムリはなさらないでくださいね~」


「心得ています。それより、ルゥさんも気をつけて。ここは、敵のテリトリーですから」


「はい~。ではでは~」

 

 ルゥさんの馬車が、天空城から降りていった。


「行くよ。菜音ナオトくん」


 緋依さんが、刀を抜く。


 ボクも、魔法剣を手に取った。

 ブロードソードをさらに大きくした、剣である。

 ボクは獣化しなくても、ダンヌさんの力を発揮できるようになった。

 重量のある剣だって、軽々と振れる。


「あそこが、入口だね」


 吊り橋を渡りきると、城門がひとりでにヒライた。


 城の中へ、足を踏み入れる。


 エントランスにも、誰もいなかった。

 大量の彫刻や標本が、並んでいるだけ。

 

「ダンヌさん。ボク、もっと怪物みたいな見た目になると思ってたよ」


「魔物から見たら、ナオトはダルデンヌに見えてるお」

 

 標的が放つ魔力で、魔物は相手のことを判断するらしい。

 強い魔物は、相手にしないという。


「誰も、襲ってこないお? ダルデンヌに恐れをなしているお」


 実際、魔物の一体がこちらに攻撃してこようとした。しかし、魔物はすぐに武器を落として逃げ出す。

 これが、ダルデンヌの本気なのか。

 

「なら、ボスの部屋まですぐかな?」


「わからないお。ゴーレムとかだったら恐怖心がないお。ダンタリオンは主に、ゴーレムを操るお」


 ダンタリオンは、魔物の精神を操って勇者と戦わせていたこともあるそうだ。


「けど、オイラもダンタリオンだお。相手の精神操作なら、こちらだってお手の物だお」


 それでも、ゴーレムのような魂のない相手には効果がないらしい。


「そのゴーレムが、おでましよ!」


 彫刻が、襲いかかってきた。


  *

 


 チョーコたちは、地上に溢れたモンスターたちの対処に追われていた。

 天空城が太陽を覆い尽くし、都市をダンジョン化したとはいえ、こちらも特大魔法を繰り出すわけにもいかない。

 キバガミの率いる部隊だけが、頼りだ。


『ごきげんよう。日本のみなさん。カトウ・ケイゴです』

 


 街じゅうにあるモニターというモニターに、カトウ・ケイゴの映像が映し出される。


『ワタシはこれまで、貧しい人々の支援をしてきました。多額の寄付も、惜しみなく行ってきました。しかしアナタ方から返ってきたのは、「もっとよこせ」といった、卑しい言葉でした。努力を怠ったことがみなさんの貧困を招いたと言葉を返せば、たちまち炎上してしまいました』


 たしかに、カトウ・ケイゴは支援活動に積極的だった。

 あれのときはまだ、人間だった頃の感情で動いていたのだろう。まだ、ダンタリオンとして覚醒していなかったときの。


『絶望したワタシは、世界を壊すことにしました。現実・リアルなど、破壊してしまえばいい。その一心で、ワタシは世界を作り変えることにしたのです』


 この発言は、カトウ・ケイゴの本音だろう。

 ダンタリオンとしての思考が、カトウ・ケイゴを蝕んでいたのかも知れないが。


 カトウ・アウゴへの教育も、その日を境に段々と厳しいものへと変化したのを、チョーコは思い出していた。


 あのとき、気づいてあげられたら。

 しかし、他人の家に干渉できるほどの許容度を、当時のチョーコは持っていなかった。


 自分も、カトウ・アウゴを追い詰めていたのだ。

 やっていることが、ダンタリオンと同じではないか。


 だから、ダンタリオンの野望は阻止する。


『あなたがたは、もう手遅れだ。世界の破壊からは、逃れられない』


 カトウ・ケイゴの演説は、そこでリピートを続けた。


「まだ、終わっていないでち。カトウ・ケイゴ」

 

 自分が、終わらせない。

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