第21話 アウゴと、緋依
男女のエルフさんたちが、草や木々に魔力を送り込んでいる。
「このエルフさんたちは、地球の制限には干渉しないんですね? 地球では魔法が使えないって聞きましたけど、」
そういえば、ルゥさんの馬車も、空を飛んでいた。
「いえ。我々も、簡易的に周辺をダンジョン化させているんですぅ。そういう技術を、博士とともに開発しましたぁ」
地球を傷つけないレベルまで力を抑え込んで、魔法を使っているらしい。
「馬車は?」
「あれも、周辺をダンジョン化して取り囲んでいるんですぅ。でも、攻撃や防御などはできません。馬車に乗って外国に行こうとしたら、戦闘機に撃ち落とされますよぉ」
移動限定の、ダンジョン化らしい。
「この人たちは、ルゥさんのお城の関係者ですか?」
エルフさんたちが作業しているのを見ながら、ボクはルゥさんに話をふる。
「いいえ。父とは、仲違いをしているのでぇ。わたしが地球で知り合ったエルフさんのお友だちを集めて、協力していただいているのですよぉ」
それでも、彼らを通して父親に連絡はいっているという。少しずつ、信頼を取り戻しつつあるらしい。
「イナダ イクミのダンジョンもそうでしたが、かなり土地のダメージが酷いんですよねえ。それを治療するのが、我々エルフの役目でぇす」
「そうなんですね」
「カトウ アウゴは、次元をムリヤリ、異世界に合わせようとしているんですねぇ。なんというんでしょう、『オレ色に染まれ』的な? ダンジョンとは本来、そういうものではありませぇん。自然発生型なのでぇす」
作りたくなくても、できてしまう。異世界と地球がつながってしまうのが、ダンジョンの本質だというのだ。
ダンジョンを管理しているのが、エルフの一族なのだという。その代表が、ルゥさんのいる王族なのだ。
ルゥさんは地球側に肩入れしすぎて、異世界側と衝突した。
「地球がピンチだというのに、自分たちの領土問題ばかりに目が行っている父と、トラブルになりましたぁ」
「でも、ありがたいです。このままいけば、地球はダメになっていったでしょう」
「もう、手遅れかもしれませぇん」
青空を見ながら、ルゥさんはつぶやく。
「本当ですか?」
「龍脈、ってご存知ですかねえ? 地球の気……異世界で言う魔力の流れが、乱れすぎなんですよぉ
いつ天変地異が襲ってきても、おかしくない状況らしい。
作業を終えて、エルフさんたちが撤収していく。
「カトウ アウゴは、どうして、地球をこんな風にしたんですか?」
「わたしにも、アウゴの目的はわかりませぇん。博士ならなにか知っているかもしれませんがぁ。それより、ナオトさんのお友だちに聞いたらよいのでは?」
そっか、ダンヌさんなら、なにかを知っているかも。
アウゴの目的なんて聞いても仕方ないと思っていたから、スルーしていた。
「カトウ アウゴは、異世界からの転生者だお。だけど、望まない転生だったお」
あちらの世界で悪逆の限りを尽くしていたせいで、魔力を発揮できない地球に転生させられたらしい。
だとしたら、アウゴは自分の世界に帰りたいのだろうか。
「ダンジョンなら自由に魔法が使えるから、ダンジョンから出られないお」
「自分が住みやすいように土地を改造するより、自分が異世界に帰る手段を考えるほうが、効率的じゃないの?」
「人間に対して、それと同じことを言えるかお?」
おお、そっか。
たしかに人間だって、地球の環境を変えたんだよね。
発言が、ダブルスタンダードだったか。
「……ナオトさんって、ときどき言動が辛辣ですねぇ」
ルゥさんが、苦笑いを浮かべた。
「事実を述べたまでです」
ダンヌさんの影響かもしれない。
「オイラやアウゴがいた世界は、ルゥたちが住んでる場所とも違うお。アウゴはそこで討伐されて、追放されたお」
「いわゆる、勇者的な人に倒されたと」
「ざっくり言うと、そうだお」
アウゴは今でも、自分を殺した相手と追放した女神に対して、復讐を考えているという。
「カトウ アウゴと、緋依さんとの間に、どう関係があるの?」
「私が、その勇者の生まれ変わりだからよ」
声をかけられて、ボクは思わずビクッとなる。
意図的に声をかけようとしていなかったから、過剰反応してしまった。
「カトウ アウゴを倒したけど、勇者も死んだの。勇者の転生体が、私」
「いつごと気がついたの?」
「世界じゅうに、ダンジョンができてからよ」
最初は普通の人間だったが、世界のダンジョン化に伴い、前世の記憶と力が戻ってきたという。
緋依さんが、腰に手を当てた。ポケットに手を突っ込む。
「博士からよ」
振動しているスマホを、緋依さんがボクに差し出す。
「どうも。無事に終わりました」
チョーコ博士に、ダンジョン攻略の連絡を入れる。
『すごいでち。一日で済ませたどころか、二時間もかかっていないでち』
「
『でちでち。こっちも終わったでち。ダンジョンをまた一つ、潰せそうでち』
「なにが、あったんですか?」
『デヴァステーション・ファイブの一人が、出頭してきたでち』
(第二章 完)
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