第20話 トップV、炎上す

 上空のモニターが壊れたせいか、ステージがだんだんと消えていく。

 テロスにダメージを与えたことで、【劇場型犯罪プレステージ】の効果が切れたのだろう。


 ファムちゃんと戦っていた方のテロスが、ドロドロに溶け出した。

 どうやら、ゾンビだったらしい。


「テロスの使い魔と、戦っていたのね。私は」


 ファムちゃんが、元の緋依ヒヨリさんに戻る。【劇場型犯罪】が晴れたことで、元の姿に戻ったようだ。

 

「ナオトさんって、すごいですねぇ。モニターの向こうにいる敵に、ダイレクトアタックするなんてぇ」


「違います。コイツは最初から、『モニターに擬態』していたんですよ」


【劇場型犯罪】は、望めばどんな姿にもなれるスキルと聞いた。

 相手を欺くには、ちょうどいい。


 テロスは美少女VTuberであると見せかけ、ずっと安全圏でこちらに攻撃をしかけていたのだ。ゾンビに自分を演じさせ、ファムちゃんに真剣勝負だと思わせて。


「どうも、耳がキンキンすると思っていたんですよね。テロスからではなく、ステージからテロスの声が響いていたので、おかしいなと思っていたんです」


 ダンヌさんと融合した成果、ボクは耳が変な方向に発達したようだ。


 その場にいる人物の声が、間近にいても聞こえない。

 これは、別の場所からアバターを遠隔操作したのでは、と思ったのだ。


「で、オイラが居場所を特定して、攻撃したお」


 案の定、テロスはボクたちの様子を、ずっと真上で見ていたのである。


「ですがぁ、よくテロスの正体が男性だって、わかりましたねぇ」


「……? どうして、わからなかったんですか?」


 ボクが聞き返すと、ルゥさんはキョトンとした。


 わからないものなのか。ボクがバ美肉を見破れるのは、Vの配信ばかり見てるからかもしれないけど。


「さて、おしまいです。テロス」


「ワタシの、理想郷が……」


 キツネ耳のオッサンが、うなだれている。


「お前さえいなければ、すべてがうまくいっていたのに!」

 

 テロスが、ボクを睨む。

 

「どの道、すぐバレるウソでしょ。文字通り、『キツネにつままれる』というやつですよ」

 

 ボクは、テロスにスマホを見せる。


 テロスのチャンネルから、フォロワーがどんどん消えていった。

 辛辣なコメントとともに。

 今まで自身を美少女だと欺いてきた、報いだ。


「面白いですね。みるみるフォロワー数が減っていきますよ」


 最強・無敵を誇っていたVが、正体が判明しただけで転落していく。


「あなたの敗因は、すべてを他人に委ねたことです」


 ファムちゃんは、自分の至らないところは反省し、成長していった。


 しかしテロスは、すべて他人のせいにしている。


「どこまでも、ワタシをバカにしやがって! この姿のせいで、どれだけバカにされてきたか!」


「あなたはご自身の低評価を、ライカン化のせいだと思っているんですか?」


 違う。テロス本人の性格が、問題なのだ。

 彼は、自身を変えようとしなかった。責任はすべて外にある、ダンジョンに、ライカン化にあると断定している。自分を変えたくないから。


「そんな人間に、世間がついていくわけないでしょ」


「ワタシにこんな姿を、一般にさらせというのか!? 誰からも支持されないのに!」


「あなたの容姿に、問題があるんじゃありません。卑屈な態度が問題だ、と言っているんです」


 キバガミさんなんて、顔がオオカミなのに、ちゃんと信頼してくれる部下がいて、支えてくれる上司がいる。


 捉え方の問題に過ぎない。

 


「黙れよ……生意気なガキがぁ!」


 ボクが言うと、テロスが立ち上がった。

 鬼火を手に乗せて、拳を固める。

 テロスの手が、鬼火の炎で青く光った。


「最後の勝負だ、明日葉アシタバ 緋依ヒヨリ! 最後まで立っていた方が、本当のランキングトップだ!」


 脂汗をかきながら、テロスはゲラゲラと笑う。


 緋依さんの方は、冷静に刀を構える。心を落ち着かせて、眼の前にいるクズにさえ敬意を払っていた。


「本当に斬ることになるわよ。いいの? 人を斬った経験は、一度や二度ではないわ」


「望むところだ! お前の力を手に入れて、今度こそトップに返り咲いてやる! 闇の炎に包まれて、凍りつけ!」


 テロスが飛びかかり、緋依さんを殴ろうとする。


 身体を少し移動出せただけで、緋依さんはたやすくかわす。


 冷たい炎の力によって、緋依さんが立っていた場所に霜ができていた。


「よくかわした! だが次は――」


「次はないわ」


 緋依さんが、刀を収める。

 

「な……が……」


 振り返ったテロスの首が、落ちた。


 天空モニタがあった場所から、ダンジョンのコアがボトリと落下する。


「ルゥさん」


 緋依さんが、ルゥさんに声を掛けた。

 

「はぁい。浄化しますぅ」


 ルゥさんが、落ちたダンジョンコアに手をかざす。


 暖かい光が、ルゥさんの手から溢れ出した。


 優しい光が、コアに流れ込む。

 

 どす黒いコアが砕けて、ボクたちの体内に取り込まれていく。


 セピア色だった空が、青さを取り戻した。


 ダンジョンが消えて、元の世界に戻ったようだ。

 

「仕上げに、入りますよぉ」

 

 ルゥさんが、ホイッスルを鳴らす。

 

 ぞろぞろと、耳の長い人たちが、どこからともなく集まってきた。

 この方たち、全員エルフか。

 

「エルフさんたち、あとはお願いしますねぇ」


 何もない草原に、エルフさんたちが種を植えていく。

 属性魔法で水をまくと、あっというまに生い茂った森林に。


「これで、この地域がダンジョンになる心配はなくなりったわ」 

 

「そうですか。よかった」


 緋依さんに話しかけられて、ボクは日和ってしまう。


 この人、推しの中の人なんだよなぁ。

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