第7話 ステータス・スキル振り

 夜はみんなで、テントの下で雑魚寝のようだ。

 特別扱いなんて、ない。


 ボクは眠れなくて、ステータス表を割り振ることにした。

 食後のコーヒーをいただきながら、ポイントをどこに振るか考え込む。

 

 ボクの隣では、緋依さんがステータス表を見直している。オレンジジュースを飲みながら、眼の前に浮かぶブラックモニターをポチポチしていた。


「焚き火だけだと、寒くない?」


「平気。ダンヌさんと融合しているからかな。体温調整ができるみたい」


 ボクも冒険者登録をしたので、能力値を可視化することが可能になっている。

 ナノマシンを体内に取り込むことで、ホントに能力値をデータ化できるそうだ。


「すごいな、人類って」


「とはいえ、おおまかなデータにしているだけだから、あまり期待しないでよ」


「わかった」


よし、ボクも緋依さんをマネをしてみよう。


「あれ、ダンヌさんのデータがないね」


 表をチェックしてみたが、ダンヌさんのデータが見当たらなかった。

 

「魔物としてのステータスは、振れないお。でも、人間の冒険者としてなら、ステータスを割り振れるお」


 ダンヌさんの場合、元々ステータスが割り振られている。


「そっか、奪われた力を取り戻すわけだから、ステータスが戻るだけなんだね」


「そういうことだお」


 じゃあ、ボクのデータだけ増やせばいいわけか。


 魔石を砕いて得たパワーは、自然とあらゆる能力がランダムに上昇するらしい。

 ステータスを見てみると、力と魔力が均等に上がっていた。


「任意の能力値を、取れるわけじゃないのか」


「取れるのは、レベルが上ったときだけだお」


 だから、魔石を提供する人が多いのか。


 冒険者の様子を見ていたが、魔石をギルドに換金してもらう人がほとんどだった。


「魔石は、いいお金になるお」


 スライムの魔石だけでも、一ヶ月はムダづかいしなければ普通に過ごせる。


 でもボクは、強くなりたいかな? 

 ダンヌさんのこともあるし。


「あの菜音ナオトくん?」


 ダンヌさんと相談していると、緋依さんが声をかけてきた。


「はい、なんです?」


「さっきから手の平に向かって話しているけど、それが【ダンヌさん】っていう魔王?」

 

 ボクには、ちっさいダンヌさんが手のひらに乗っているように映っている。


 しかし、周りにはダンヌさんが見えていない。


「そうそう。ダンヌさん。ボクの相棒なんだ」


「わかったわ。話を止めてごめんなさい」


 ボクは、「大丈夫だよ」と、緋依さんに答えた。 


 ああ。周りには、そう見られてるのか。気をつけよう。

 

「計画的に強くなれる方法とかは、ないかな?」


「物理タイプになりたいか魔法タイプになりたいかで、計画的に戦えばいいお」


 自分の得意とする戦法で戦えば、効率よく欲しい能力値をアップできるとか。


「ダンヌさんは、物理タイプ寄りのスキルだよね?」

 

「そうとも言い切れないけど、まあ近いお」


 ダンヌさんは魔法攻撃も所持しているが、白兵戦に強い前衛タイプだ。


「じゃあダンヌさん。【タンク】ってお願いできる?」


「ゲームとかの、壁役ってことかお?」


「そうそう」


 ダンヌさんはモフモフキャラのようだが、皮膚が鋼鉄のように硬い。モフモフがクッションになっているのかもしれないが。

 

「お安い御用だお」


「じゃあボクは、魔法をメインに戦おうかな」


 ボクは、レベルアップで得たポイントを、魔力に全振りする。

 魔物であるダンヌさんに壁を頼み、ボクは魔法で飛び道具役を担当することにした。


「緋依さんも前のめりなファイトスタイルだから、ちょうどいいかなって」


「私に、合わせないほうがいいわ。自分が得意なタイプを選んだほうが、後悔しないわよ」


 緋依さんが、そうアドバイスしてくれる。


「じゃ、なおさら魔法かな」


 ボクは、治癒魔法の【キュア・ウーンズ】、毒やマヒを治す【アンチドート】などを取っていった。

 

「【ファイアボール】とかもあるけど、魔物に効くのかな?」


「発展型の、上位魔法を取れるようになるお。派生したいなら、初期魔法は取っておいたほうがいいお」


「そうなの?」


 ボクは自分のポイントを、【マナスティール】というスキルまで取っておこうかと考えている。

 スキルの説明を見る限り、「敵から魔力を吸い取れる能力」だと思う。

 

「このまま戦闘が続くなら、魔力を吸い取れるスキルは取っておきたいんだけど?」


「スキルは、【ツリー型】に発展するお。いきなり、高位の魔法は取れないお」

 

 初期魔法を取っておかないと、上位にある関連魔法が習得できない仕組みか。

 

「例えば、万能属性の【祝福】ってスキルがあるお?」


 異世界の神様に祈ることで、魔力を微量回復させるスキルだ。


「それを取って、レベルが上がると【コンセントレイト】:集中して攻撃力二・五倍上昇するスキルが取れるお。そこからようやく、【マナスティール】か取れるお」

 

 そういう仕組みなのか。


「初期魔法にスキルを取っておけば、相乗効果で上位魔法も強くなるお。だからポイントを振ってもムダにはならないお」


 ただ、属性はどちらかに寄せておいたほうがいいみたいだ。

 火炎属性で戦いたいなら、火炎特化に振っておくと強くなれる。


「だた、決めるのはナオトだお。好きにするお」


「ありがとう、ダンヌさん」


 さて、攻撃魔法はどれにするか。


 火、氷、風、雷、地の属性の他に、聖属性と闇の属性がある。

 さっき取った回復系魔法は、どれも聖属性だ。

 どの属性にも当てはまらない、「万能」という属性があるが、こちらはどちらかというとスキルの分類に入る。


「ナオトのレベルは、【一〇】だお」


 ダンヌさんから、解説を受けた。


 火属性が欲しいなら、【ファイアボール】を。

 氷属性なら、【アイスシールド】が手に入る。

 地属性なら取得できるのは、【ストーンバレット】だ。


「火属性は、近距離~中距離だけに強いお。氷属性は防御面が優れているけど、攻撃力はいずれ頭打ちするお」


 雷属性は威力が強く、精密射撃力も高いのが特徴だ。とはいえ直線的で、広範囲をカバーできない。


 地属性は直接攻撃に適さず、トラップなどのからめ手が主力だ。


「緋依さんは、風属性なんだよね?」


「ええ。素早く攻撃や移動ができて、広範囲をカバーできるわ。でも、攻撃防御共に威力は最低よ。ボスキラーになりたいなら、やめたほうがいいわね」


 ひとまずお試しで、火属性も氷属性も初期魔法を取ることにした。


 雷属性は、ダンヌさんが初期で使える。

 緋依さんのメイン攻撃が風属性だから、雷と風は取らないでいいかな。


 土や闇の属性魔法は、戦闘スタイルが何も思いつかない。


 ポイントは余らせておいて、有用な魔法があれば取ることにした。

 

「よし。終了。おやすみ」


 結構な時間になっちゃったな。早く休まないと。

 

「おやすみ、菜音なおとくん」


 緋依さんが、女性専用のテントへ入っていく。


 ボクもテントに入って、眠りについた。


 いつの間にか、深い眠りについてしまったみたい。

 

 焚き火から離れているのに、身体が暖かい。

 身体じゅうが、燃えるかのようだ。

 わずかな擦り傷や切り傷、内臓疾患などが、癒やされていくのを感じる。

 



 翌朝を迎えた。


 今までの出来事が、夢であってほしかったが。


 推しが提供している、テーマパーク限定ラーメンを食べて……。

 

 なんてことは、起きていない。


 すべて、現実だ。

 ダンヌさんも、未だにボクの中で生きている。


 ただ、脱出用のゲートは開いていた。


 避難民たちが、脱出している。


「では我々は、稲田イクミ討伐を開始する。我々が案内をしよう。ついてきたまえ」


 キバガミさんの案内で、車を用意してもらう。


 しかし、ゲートの方に魔物が集まってきてしまった。

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