7.#創作スタンプラリー企画/「数える」「隠れる」「目をつむる」「外に出る」

※4つのチェック項目を満たした話を書く。

スタンプラリー企画なのでチェック項目はある程度順番通りに書くのが望ましい。


■チェック項目

・数える

・隠れる

・目をつむる

・外に出る


――――――——————————――――


 ヒツジが柵を飛び越えた。一匹、二匹、三匹、四匹、白くてふわふわしたやつがどんどん木の柵を飛び越えていく。

 一体どこから来るのか、どこへ行くのか。ただやつらがぴょんぴょん飛び越えていくのをぼくはひたすら数えている。



 二百匹目のヒツジがぴょーんと飛んだ。

 ……うう、限界だ。



 そうっと目を開けた。そこに広がっていたのは真っ暗な闇。目を凝らしていれば周りの物の形が少しずつわかるようになってくる。

 厚手のカーテンはお願いしてきっちり閉じてもらった。でもガラスのはまった戸棚の奥は暗く、今にも何かが飛び出てきそう。壁には額に入ったキレイな絵が飾られているけれど、この部屋の物はみんなぼくに



 ボーン。

 大きな音が鳴り響いた。ぼくは慌てて肌布団をひっ被った。さっきよりもくぐもった音がボーン、ボーンとお腹に響く。

 この音は多分、廊下にあった柱時計だ。だけど、一体いつまで続くんだろう。



 目のふちがじんわり熱くなって、ぱちぱちまばたきをした。鼻をすすって両耳をふさぐ。布団の中は少し暑苦しいけど、ちょっとでも手足がはみ出したらおしまいだ。

 ここがおうちだったらよかった。お姉ちゃんと一緒だったらよかった。眠れないときはお喋りできるし、心細いときはお姉ちゃんのベッドに潜りこむ。


「オバケなんているわけないじゃない」


 お姉ちゃんはいつも眠そうな声で言った。それでも追い出されたことは一度もなかった。お姉ちゃんのそばは安全で、あっという間に朝が来る。

 だけどここは子ども部屋ではなくて、おうちでもなくて。この部屋の主である友だちはさっさと寝てしまった。暗くて冷たい夜の中にぼくひとりきり。

 お泊まりってもっと楽しいものだと思っていたのに。





 ばさっと肌布団がぎとられた。


「ひっ……!」


 びっくりしてきゅっと目をつむった。丸く縮こまっていると「起きろよ」とささやかれた。おそるおそる目を開けばすぐ近くにの顔がある。その目がみるみる真ん丸になった。


「なんで泣いてんの? えっどこか痛い?」

「えっなっ泣いてないよ……!」


 服の袖でごしごし目をこする。「そう?」と少し不思議そうに首を傾げていたきみは、そのうちニヤッと笑って


「あのさあ、今から花見に行かね?」


 ごく軽い調子で聞いてきた。

 今度はぼくが首を傾げた。花が好きなのはぼくだけで、向こうはあまり興味がないと思ってたから。それにこんな真夜中に花見だって?

 きみはとっておきのナイショ話をするみたいに「満月の夜だけ咲くって花」と続けた。それなら納得だ。朝にはしぼんでしまうその花が咲いているところはまだ見たことがない。


「図鑑で見たのとおんなじつぼみを夕方見つけたんだ。あれ、今ごろ絶対咲いてると思うんだよな」

「でも、見にいって大丈夫かな……。見つかったら怒られるんじゃ」

「バレないように行けば平気だって。パッと行ってパッと帰ってこようぜ。なっ」

「でも……」

「なんだよ、見たくないのかよ。見たいだろうと思ったからオレは、」


 きみがむっと膨れる。ぼくもむっと見返した。そんなこと、わざわざ聞かなくたって知ってるくせに。



 結局、にらめっこに勝ったのはぼくだった。きみが急に吹き出して、おかしそうに笑うのを見ていたらぼくも口許くちもとがむずむずして、最後はふたりして笑っていた。あくまで小さな声でだけど。もし大きな声を出して誰か来たら困るもんね。

 きみがぼくの方に手を伸ばした。


「足音たてんなよ」

「そっちこそ」


 差し出された手を握り返す。そうしてぼくたちは冒険の旅に出発した。






――――――——————————――――


#創作スタンプラリー企画(1425字)

2020年7月19日


オレたちの冒険はこれからだ! って感じの結びになりました。



友情もの、または童話風のお話がお好きな方にはこちらをどうぞ

【きらぼしのこ】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880909515

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