3ー55 四属性対抗試合1 開幕
闘技場の一般入場口には長蛇の列ができていた。また当日券を求め、そちらにも列ができている。
「券がいるのか……」
セツが困る。そんなものがいるとは思わず、用意していなかった。
「なに言ってんすか! そんなもの必要ありませんよ。こっちこっち」
リュカに手招きされ、人集りの闘技場正面から横にそれ、関係者入り口からあっさり中に入っていく。
「いいの?」
券もなければ、闘技場に入るのに並んでもいない。ロワメールが気まずそうだった。
「当然でしょう。マスターと王子殿下から金取って、並ばせるわけないですよ」
リュカがおかしそうに笑う。
「オレが言うのもおこがましいですが、殿下はもうちょっと、ご自分の立場を把握すべきですよ」
うんうんと、カイがおおいに共感していた。
「殿下に並ばれたら、殿下より前の人、生きた心地がしませんて」
確かに、それはそうかもしれない。
「ま、偉ぶらない、そんな気さくな殿下がオレは好きですけどね」
「……ありがと」
ロワメールがはにかんだ。
ギルドに来た当初の冷たく硬い印象とは違って、その表情は柔らかい。
まだ、ギルドに対する不信感は拭えない。セツを魔法使い殺しと呼び、恐れる魔法使いへの怒りも残っている。
けれど、例えばジュールやジスラン、アナイスやリュカのように、その為人に触れた一人一人への憎しみは、もはやあるとは言えなかった。
観客席は闘技場の四方を階段状に囲み、本部席のすぐ横に貴賓席が設けられていた。闘技場内がよく見える一等席である。
ロワメールはセツ、カイ、リュカと並んで座り、闘技場を見回した。ミエルはロワメール同様、興味津々に肩の上から闘技場を見下ろしている。
闘技場は、まだ試合前だと言うのにすでに熱気に包まれていた。
「えー、皆様、お待たせいたしました! ただいまより、ギルド祭、四属性対抗試合を始めます!」
定刻になり、本部席に隣接した実況席から開会が宣言されると、会場から歓声が上がった。シノン近隣住民だけでなく、熱心なファンは島外からも対抗試合を観戦に来ている。
「実況はわたくし、サミュエルがお送りします」
魔道具で声を闘技場中に響かせながら、独特の抑揚をつけてサミュエルが続ける。
「えー、四属性対抗試合、火、水、風、土、各属性で予選を行い、勝ち抜いた一名のみが、この決勝ステージで戦うことができます! 出場者は四名! 総当たり、全六試合を行います! さあ、属性の威信を賭けた戦い、栄光は誰の手に!」
いやが上にも会場は盛り上がる。
「えー、まず最初に、試合のルールを説明いたします! ルールは簡単! 選手それぞれ魔道具により作られた防御膜を纏い、自分の防御膜を守りつつ、制限時間内により多く、相手の防御膜にダメージを与えた方が勝ちとなります!」
「ふむ、なるほどな。それなら安全に勝敗がつけられるわけか」
腕を組み、セツが試合の安全対策に感心した。魔法使い同士が本気で戦えば、怪我ではすまない。
「えー、なお試合順は、あらかじめ選手にくじを引いてもらい、公平に決めております。では早速、第一試合の出場選手をご紹介いたしましょーう!」
観客席の視線が、闘技場に集まった。
「今年もキヨウから参戦! 風使いジュヌヴィエーヴ・シス・ローズ! 去年は惜しくも予選決勝で敗退しましたが、今年はやってくれました! 見事本戦出場です!」
「おーほっほっほっほっほ!」
金髪の巻き髪をツインテールにした美女が、高らかに笑いながら登場する。
客席から歓声が上がった。
「皆様、ご機嫌よう! ジュヌヴィエーヴ、皆様の温かい声援に包まれ、戻ってまいりましたわあ!」
「待ってたぞ、ジュヌヴィエーヴ!」
「ジュヴィー! おかえりー!」
人気者らしい風使いは、満面の笑顔で手を振り返す。
「シス・ローズ……」
ロワメールには、聞き覚えのある家名だった。
「総務大臣補佐官ローズ男爵のご令嬢です」
「……ご令嬢、ね」
側近筆頭が宮廷人の顔と名前を覚えているのは当然として、その家族まで記憶しているのは、カイならばありうると納得すべきか、働き過ぎと注意すべきか、主としては悩むところである。
「ん? ってことは、近衛のカミーユの……」
「姉君ですね」
暇があれば近衛隊の訓練に混ざりにいくロワメールは、近衛騎士と仲が良い。カミーユは最年少の近衛騎士だった。
「髪色だけは似てる」
堂々としたあの女性と気弱な近衛騎士は、一見姉弟には見えない。ロワメールは興味深そうな眼差しを風使いに向けた。
「えー、続きまして、対戦者をご紹介! 今春魔法学校を卒業したばかりの新人! あの水司ジル・キャトル・レオールを姉に持ち、あの炎使いジスラン・キャトル・レオールを兄に持つ! レオール家末弟、ついに登場です! 水使いジュール・キャトル・レオール!」
鳴り物入りの新人魔法使いに、会場が沸く。
ロワメールは身を乗り出した。
「ジュールだ!」
本選出場を果たしたジュールを、ロワメールはハラハラ見守る。
――ロワサマ、見ていてください。
予選を勝ち抜き、本戦への切符を手に入れたジュールは、その足で報告に来てくれた。
新人のジュールが予選を制す。ジル、ジスラン以来、実に六年ぶりの快挙である。
予選の期間中はずっと緊張を隠せず、硬い表情のジュールだったが、闘技場に立つ今は観客席をキョロキョロと見回し落ち着かない。
しかし貴賓席にロワメールを見つけると、ジュールは晴れやかに笑ってみせたのである。
(君って奴は、ホントに……)
ロワメールは破顔した。
(どこまで肝が座ってるんだか)
水使い同士の戦いを勝ち抜き、手に入れた最強の座。そして属性の威信をかけて挑む、初出場のこの大舞台。その上、初戦を務める緊張……。
新人魔法使いには重すぎるプレッシャーを背負い、萎縮してもおかしくないのに、笑ってみせる度胸。
(ああ、やっぱり、君以外考えられないよ)
未だ告げられない言葉であったが、ロワメールはその思いをさらに強くしたのだった。
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❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
3ー56 四属性対抗試合2 第一試合 は、2/7(金)の18:30頃に投稿を予定しています。
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