第21話 劇場前の騒動

「な、何の事じゃ⁉ オイ!そこのおぬし、これは何の騒ぎじゃ?」


「何って、爺さん、かぐや姫の舞台ライブがもうすぐ始まるんだよ!」


「ラ、舞台ライブ? なんじゃそりゃ?」


「父上、舞台ライブとは演者が劇場で踊ったり歌ったりする大盛り上がりの祭りと本に書いてありました。」


「要は祭りか、祭りはええの〜」


「ね〜ね〜あそこが舞台ライブのある劇場なんじゃない? 何か桃色や黄緑、水色の法被ハッピを着てる男の人がたくさん集まってるよ」


「どれ、イチ、ニコ、モモ、いっちょ行ってみんべ」


 お爺さん達はワクワクしながら劇場に入ろうとして止められた。


「ダメだよお爺ちゃん、勝手に入っちゃ。 チケットは待ってないの?」


「なんじゃお前は⁉ チケット?そんなもんは持っておらんわ!」


「私はこの劇場で働いている者で、チケットとはこの劇場に入るための通行許可証みたいなもんですよ」


「そのチケットはどこで手に入るんじゃ!」


「あそこの売店で買えますよ」


「買うー!! 何じゃ、劇場に入るだけで金を取られるんか⁉ わしは金なんぞ持っておらんぞ!」


「それじゃお金を持ってきてから、また来てくださいね」


「だから金は持っておらんと言っとるわい! それでもわしは見たいんじゃい!」


 お爺さんの無茶な要求を聞いて三人の子供たちは顔を赤らめて恥ずかしがっていた。


「父ちゃん、もういいよ…帰ろう……」


「何を言うとるニコ、ここまで来たんじゃ、わしは何が何でも見る…」


 ―――その時、劇場の中から活気溢れる声援せいえんと美しい女性の声が聞こえた。


「みんな〜、今日は私の舞台ライブに来てくれてありがとう〜!」


 と言い終わると同時に太鼓や三味線、鈴など様々な楽器の演奏が始まった。


「わ〜、すご〜い。 劇場の外まで演奏が届いてるよ!」


「オレはこんな華やかな演奏を聞いた事がねぇ」


「そうですね兄さん、村の祭りとは比べ物にはなりません」


 さらに劇場内では活気が溢れ、美しくも迫力のある歌声が響きわたった。


 人智を超えた歌声に初めて聴いたお爺さん達は硬直しその場で立ち尽くした。


 そこへ用事を済ませたお婆さんがやってきた。


「何じゃお前ら、そんなカチカチに固まって」


「か、母ちゃん。ウチらこの歌を聴いたら何か感動しちゃって……」


「オレ、こんなの初めてだ。 体の奥からゾクゾクして興奮が止まらねぇ」


「ボ、ボクもなんだか変な感じで、胸のドキドキが止まりません」


「どうしたどうしたお前達、歌声をそんなに褒めるなんて何事じゃ?」


「ババァはわかっておらんのぉ〜。 これは芸術じゃ!歌という芸術が弾け飛んでおるんじゃ!!」


「……ジジィの言ってる意味はわからんが、子供らはこの歌声の虜になってしもうたんじゃな」


 お婆さんに冷たくあしらわれ、お爺さんは一人でショボーンとしている。


 そして三人の子供達はお婆さんに熱い視線を送る。


「お前達、そんなに舞台ライブが見たいんか?」


 三人は「うん!」と言い何度もうなずいた。


「しょうがないのー。 イチゴ、これで四人分のチケットを買ってきてくれ」


「えぇ〜。おっかぁは観ねぇのかー?」


「そうだよ。母ちゃんも一緒に観ようよ!」


「もぅ〜、お前達はしょうがないなの〜。 イチゴ、おらの分も混ぜて五枚買って来てくれ」


「了解!」


 そう言うとイチゴは猛ダッシュで売店へ行き戻ってきた。


 五人はチケットを握り劇場の中へ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る