第3話 命名、桃太郎?
「オギャーオギャー」と赤ん坊らがまた泣き始めた。
お婆さんは赤ん坊らがお腹が空いたと思い、慌てて両方の乳房で授乳を始めた。
「おー、よー飲んどるのー、ババァのお乳は美味しかぁー」
勢い良く母乳を飲む赤ん坊らを見て、お婆さんの母性が呼び起こされ更に母乳は出続けてる。
「こりゃ、ビックリした! 若返ったばかりか、お乳も出るようになったかー。 ババァ、見てみろこの赤ん坊らの嬉しそうな顔を! ババァを本当のおっかあだと思っとるぞ!」
その言葉を聞いてお婆さんはちょっと不機嫌になった。
「なに言っとるんだジジィ、この子らはおらの本当の子じゃ! 誰がなんと言おうと、おらたちの本当の子じゃ! 違うんか? ジジィ!?」
その言葉を聞いて、お爺さんの胸はドキュンと槍で撃ち抜かれたような感じがし、改めてお婆さんを惚れ直した。
「そ、そうじゃな! この子らは誰がなんと言おうがわしらの本当の子じゃ! よー言った! さすがわしのかかぁじゃ!」
その言葉にお婆さんは胸はズキューンっと矢に射抜かれたように、お婆さんも改めてお爺さんを見つめ惚れ直した。
そしてお爺さんは手をポンと叩き、何かをひらめいた感じだった。
「このわしらの子に名前を付けんとな!」
お婆さんもその意見には賛成のようで乗り気で返答した。
「そうじゃなジジィ、特別いい名前をこの子らに付けてくれ!!」
お爺さんは腕を組み、部屋をグルグルと回りながら考えだした。
あまりにも考えるのが長かったため、お婆さんはお爺さんに催促した。
「ジジィ、まだ決まらのか?」
お爺さんは尚もグルグル回る速さがまして行き、ついには回り過ぎてフラフラになってバタンと倒れてしまった。
「ジジィには、まかせられん! おらが名前を決める!」
お婆さんがそう言ったとたん、お爺さんは勢い良く立ち上がり名前を命名した。
「桃から生まれたから、桃太郎じゃ!!」
お婆さんもその名前を気に入ったらしく、表情が笑顔で満ちた。
「ジジィ、いい名前じゃ、さすがジジィじゃ!! ところでこの女の子の方の名前は何じゃ?」
お爺さんはポカーンとしてお前は何を言ってるの?という感じでお婆さんの質問に答えた。
「二人とも、桃太郎に決まっとろう」
お婆さんは「ハァーッ?」という感じでお爺さんに問い詰めた。
「なに言ってるジジィ、二人いるのに二人とも桃太郎じゃ、おかしいべ!」
お爺さんは名探偵のごとく眉間に人差し指を当て、サッとその後に食い散らかした桃の残骸を指差した。
「最初は一人の人間ぞ! だから名前は桃太郎じゃ!!」
お爺さんはズバッと決めたかと思い誇らしげにお婆さんを見ると、そこにはガッカリしたお婆さんの姿があった。
「ジジィはやっぱりバカじゃのー。 最初は一人の人間かもしれんが、今は二人になっとるんだぞ! 二人とも桃太郎じゃ、呼ぶときにややこしくなるじゃろう」
お爺さんはそのことまでは考えていなかったようで、動揺し始めて訳のわからない事を口走った。
「そ、そんなこと、最初からわかっとるわい! ババァは最後まで聞かんのが悪いんじゃい! この子らは………桃太郎一号と桃太郎二号じゃ!!」
お爺さんのバカさ加減に呆れるお婆さんはお爺さんを問い詰める。
「どこの世界にそんなバカげたカラクリ人形みたいな名前をした子供がおるか! 体だけ若返って、ジジィはついに頭がアホウになったか!?」
お婆さんのキツイ一言にカチンと頭にきたお爺さんは、後には引く気にはならなくなった。
「誰がなんと言おうと、この子らは桃太郎一号と桃太郎二号じゃ!!」
お婆さんもヒートアップして更にお爺さんに問い詰める。
「それじゃ、この子らのどっちが一号じゃ!」
その問いにお爺さんは瞬時に一人の赤ん坊を指差した。
「こっちの男の子の方が一号じゃ! そして、こっちの女の子の方が二号じゃ!! これで文句はあるまい!」
お婆さんはカラクリ人形のような名前を付けられた赤ん坊らが不憫に思えてきて、さっきまでヒートアップしていた熱も徐々に下がってきた。
そしてこうなったお爺さんは頑固になり、この事を譲らないと思い提案を出した。
「ジジィ、それじゃあまりにもこの子らが不憫じゃ……。 こうはどうかのう、一号の名前を残し、イチゴウのウだけを取って、イチゴという名前は?」
冷静になり提案を出したおばあさんを見て、お爺さんも徐々に冷静になってきた。
「そ、そうじゃな。 イチゴか……。 良い名前じゃないか! さすがババァじゃ! それじゃ、こっちの女の子はニゴウのウを取って、ニゴじゃな!?」
お婆さんはもくろみ通りになり少し安心したが、女の子でニゴはちょっと変だと思いお婆さんは考え答えを導きだした。
「ジジィ、女の子でニゴはちょっと変じゃ。 ゴの部分の点々を取って、ニコはどうじゃ? 女の子のような、かわえ~名前と思わんか?」
その名前をお爺さんも気に入ったみたいでお婆さんの両手を強く握りしめた。
「ニコか、かわえ~名前じゃのー、わしは気に入ったぞ! よし、今日からこの子らはイチゴとニコじゃ!!」
お爺さんとお婆さんが命名の熱いバトルを繰り広げている間に、お婆さんの母乳をたくさん飲んだイチゴとニコは、お婆さんの胸の中で微笑みながら安心して眠ってしまっていた。
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