第2話 「どっちへ行きたいかわからなければ、どっちの道へ行ったって大した違いはない。-ルイス・キャロル-」
俺は、拠点を出てずっと東に進んだ。何となくの勘で東に進めば街に着くと考えたからである。
俺はまだ19歳だし、研究の合間に筋トレをしていたから1日2日まるまる歩いたところでくたばるような弱さでは無い。
「もう大分歩いたぞ...そろそろふかふかのベッドで眠りたい...」
1日2日まるまる歩いてもくたばるような弱さでは無いと言ったが、流石に2週間歩き続けるのは堪えることだ。食料と水を多めに持ってきておいてよかった。
そんなことを考えながら歩いていたら、かなり大きい街を見つけた
「や、やっと見つかった!」
疲れ切った声で俺はそう言い、もう夜だったため、急いで宿を探していた。
「宿ってどこにあるんだ?」
宿が何処にあるのか分からないため、俺は近くにいる人に話しかけた。
「あの、すいません。宿が何処にあるか教えて頂けませんか?」
「ああ、宿ならこの道を真っ直ぐ行ったところにこのエンドウタウン最高峰の宿、エンドウマメっていう所があ...」
話しかけた男が宿の場所を説明している最中に喋るのを止めた。何があったのか聞いてみようと思ったその時。
「あ、貴方は!天才物理学者、成瀬栄慈さんじゃないですか!」
おっと、まさかのバレてしまった。
地球から転移しただけで、転生したわけでは無いのだから、姿や声はそのままなのだ。バレても仕方ない。
「ああ、そうだ。けど、今の名前は成瀬栄慈じゃ無くて、ミューだ。こっちに来る時に、お前も名前を決めただろ?」
俺は、冷静に名前を言った。少し緊張していた。何故なら、約1ヶ月間人と喋っていないし、何なら地界に来てから人と喋るのは初めてだからである。
「そういえばそうだったな。新しい名前やこの地界にもすっかり慣れてしまって忘れていたよ。自己紹介が遅れた。僕の名前はヤクルト・ロクリア・リパーサルト・ジェネシスト・アンデル・セルクアッド・アストラル・ヴェルト・アサルト・ケイルク・ファンデスです。みんなからはヤクルトと呼ばれている。よろしく!」
「ピカソレベルで長くてなんか乳酸菌がいっぱい入ってそうな名前だな。ところで、決めたのは名前だけで、苗字は決めなかったんじゃ無いのか?」
ツッコミどころの多い名前だなと、頭の中で考え、俺はそれをそのまま言った。
「手続きで決めた名前はヤクルトだけだが、何となくで長くした」
「何となくで長くするなよ。でも、苗字は決める必要がなかったから今の俺は、ただのミューだな」
「成瀬...じゃなかった。ミューさんはなぜこの街に?」
「俺が地界に着いた時は森にいて、そこで魔物狩ったり、食料とか集めて、旅ができるくらいの分が集まったからずーっと東の方に進んできたらこの街に着いたってわけ」
「成程、だから宿を探していたんですね。それなら、ミューさんはお金も持ってないだろうし、今日は僕の家に泊めてってあげますよ」
お金の事、完全に忘れてた。これからどうしよう。魔物の素材売って、どのくらいの値になるだろうか。
「それなら、お言葉に甘えて今夜は泊めさせて貰おうかな」
「その代わり、娘に勉強を教えてやってもよろしいでしょうか?」
ヤクルトは、泊めてあげる代わりに娘に勉強を教えて欲しいと頼んできた。
勿論、タダで泊めてくれることは無いと思っていた。だが、勉強を教えるとなると難しい。
何故なら...
俺は、物理以外の教科があまり出来ないからだ。
◇◆◇
物理以外の勉強があまり出来ない理由は分かっている。
物理以外を生まれてから19年間ほぼして来なかったからである。
いつかは分からないが、俺が生まれる何年か前に、日本の学校のシステムが大きく変わった。全教科をするという教育から、自分の得意教科を伸ばすという教育に変わった結果、俺は物理しか勉強してこなかったからだ。
「勉強か、教えれる所なら教えるぞ」
俺は、変なことを言わずに冷静に対応した。
「まあ、勉強といっても、能力に関する勉強ですけどね」
「能力に関する勉強?」
ヤクルトに問いながら、俺は能力の勉強と聞き、心の中で少し安心した。
「そっか、ミューさんずっと狩りをしていたって事は知らないんですね。この地界では、地球でしていたような勉強も一部はしますが、それよりも能力に関する勉強を重点的にするみたいです」
「そうなんだな。でも、能力についての勉強って言ったって、俺も上手く使えているか分かんないぞ?」
「それでも、ミューさんは魔物を狩ったりしたりしていたのなら、僕よりは扱いに慣れていると思いますから」
「因みに、ヤクルトと娘さんの能力とアポカリプスサイドは何なんだ?」
俺以外の人間がどんな能力を選んだのかを知りたかったため、聞いてみることにした。
「僕の能力は『真偽判定』の『探偵サイド』で、娘の能力は『絶対美味』の『料理サイド』です」
やっぱり、能力とかアポカリプスサイドって色んなものがあるんだな。
「ヤクルトは、探偵でもしているのか?」
「ええ、そうなんです。今の所、相手が嘘をついているか本当の事を言っているか分かるんですが、応用した使い方が出来なくて、娘にも能力の基礎的な使い方しか教えれなくて、
応用的な使い方については教えることができないんですよ」
どうやら、能力についての勉強というのは、基礎的な使い方と応用的な使い方があって、その2つをできるようにするというとらしい。
「俺は、応用できるはできるが、応用の効きやすい能力を選んだから教えれるか分からないけど、できる限りのことはやってみる」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
俺は、ヤクルトに感謝をされたが、それはお互い様だと思いながら感謝を告げ、ヤクルトの家に向かっていた。
「ところでミューさんの能力とアポカリプスサイドは?」
ヤクルトの家に向かっている途中、ヤクルトが俺に問いかけてきた。恥ずかしいが、言うしか無い。覚悟を固めて俺は言った。
「俺の能力は『引力操作』の『天才サイド』だ」
考えるだけで恥ずかしかったのに、自分の口で『天才』と言うのは、やはり恥ずかしく感じた。
◇◆◇
話しが終わって少し歩くと、ヤクルトの家に着いた。
家に着いた時の時間は23時頃だった。
「今日は疲れているでしょうし、早めに休んでください」
「ありがとう。そうさせてもらう」
そう言って俺は、ヤクルトの家のソファで眠りについた。ふかふかのベッドが恋しく感じた。
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