廃れた神社でありふれた日常を

たいおあげ

第1話 うるさい夫婦

 そこは、ある廃れた神社だった。いつもなら、人が寄り添うにないような場所である。

 だが、今日は違った。

 そこには、男女と狐耳を生やしたふさふさ尻尾の少女がいた。




「ふへへへへへ」


「なぁ。この変態をどかしてくれぬか?」


「ん?」


「ん? ではあらぬわ!! 全く! これじゃこれじゃ」


「何言ってんだ!! 貴様!! ここにいるのは、天使そのもの。いや、女神と言っても過言ではない。ほらみろ、あの可愛らしい笑顔を!! あの笑顔で軽く五回死ねる。目腐ってるんじゃないか?」


「目が腐っておるのはお主じゃ!! ほらみよ!! すごく気持ち悪く笑っておるではないか!!」


「ぐへへへへへ。モフモフ」


「はっ? こんな可愛い………ぐふっ。なんて可愛いんだ。致命傷を受けてしまった」


「もうやだ……この夫婦………」


「あああああああああああ。可愛いすぎる」


「おおお!! 我がマイエンジェル!!」


「もういやじゃぁぁぁぁぁ!!」




 そんなこんなで、お昼時になった。

 どうやら、夫婦が食事の用意をしてきたらしい。

 3人はおにぎりを手に取る。

 3人は横一列に並んでおにぎりを食べ始める。




「「「いただきます」」」


「どうどう?」


「美味しいと思うぞ」


「当たり前だ。カノンが作っk……「はいはい」」


「むふふふふー」


「ドヤ顔も可愛い!! ありがたや!!」




 おにぎりを無心で食べてる少女と、その少女に邪な視線を向ける女性と、その女性に対して陶酔した目を向ける男性がいる。一見、よく見るような光景かもしれない。まぁ、顔さえ見れなければの話だが。側から見ればカオスな状況だ。幸い、ここは人が全く寄りつかない場所なので一安心。




「いつも、ご飯を持ってきてくれてありがとうとだけは言っておく……」


「「……デレた……」」


「うっさい!! ふん」




 少女は、恥ずかしそうにそっぽを向いた。そんな彼女を2人はボケェ〜っと見つめている。女性の肩がプルプル震え出した。と思ったら、男性の方も顔を手で覆い悶えました。




「……もう我慢できない! アババババババ、チュチュチマチョウネー」


「なんて可愛いんだ……!!」


「お主らが、とりあえず貴院に今すぐ行け! お前はほんと目の貴院に行け!! それとお前は頭の貴院行け!!」


「はっ? 俺の目は正常すぎるが? こんな天使を見ることができるんだぞ?」


「ねー。私達、いつも正常なのに。ひどいよね」




 すると、誰か、男の子だろうか。彼が走ってきた。

 何か焦っているようだ。




「みつけた!! なってやってんの母さん、父さん!! 人様にめ……? 人? とにかく迷惑をかけるなって言ってるだろ!!」


「おおお! 我がマイサン」


「ああああ!! 息子が可愛いすぎる!!」


「一旦離れて。全く、もう少し年相応の対応をしてよ」




 やれやれと言った感じでため息をついた。

 そして少年は少女の方を向き、話を続けた。




「この度は両親がご迷惑をおかけしました」


「いえいえ、ご迷惑をかけられました。早く、引き取っていただけると助かります」


「ほんとうに申し訳ございません」


「いつもあんな感じなんですか?」


「いつもは、常識人なんですがたかが外れるとあんな感じに……」


「……はっは、は………」




 少女は、乾いた笑いをした。ほんの少しいただけでこれなのだ。小さい頃からこれだと考えると彼に同情したくなった。




「いつ頃から、両親がご迷惑をおかけになりました?」


「え、えーっと……。1ヶ月前ぐらいですかね」


「すいません。両親がこんなんだってわかっていたのに、疑問に思わずのうのうと過ごしていた自分が恥ずかしいです。なんで気づかなかったのか……」


「…………君、ほんとにあの2人の息子?」


「……ははっ………。いつもは、ほんといい両親なんですよ?」




 2人の間に沈黙が訪れた。2人は共に初対面だ。まだまだお互いの事がわかっていないのでお互いに遠慮しているのだろう。

 そうしている間に、頭を冷やしたのかあの夫婦2人が話しかけてきた。




「ごめんなさいね。つい興奮して、周りが見えなくなってたわ」


「タマさんごめんな。俺も妻が可愛いすぎて。つい」


「ついで、済むなら役人もいらぬわ。全く」


「えーっと、タマさんでよろしいですか? また後日、謝罪とお詫びをかねてまた来ますね?」


「……べ、別にいいですよ」


「いえ、いずれ来ます。それと、喋りにくかったら、両親に対して使ってる時の口調にしてくださって貰った方が。とにかく今日は、これで」




 少年は両親の手を引いて足早にさっていく。今も2人は何か言っているようだが、うまく聞こえない。




「……静かだなぁ」




 あの2人がいた時はとにかくうるさかったがいなかったらいなかったで何か感じるものがある。鬱陶しいと思うところもあるが、あの2人は何だかんだで優しい。きっと、1人でいる私を気遣ってよく訪れてくれたのはなんとなく察していた。次は、いつ来るのかと楽しみにしている自分がいる事も知っている。

 私は、長い間、1人でいたはずなのに、慣れていたはずなのにどうしてだろう……。今はとても寂しい。

 あぁ、きっと人のあたたかみを思い出してしまったのだろう。思い出させてくれてありがとう。そんな言葉が頭をよぎった。

 まぁ、あの夫婦には、絶対に言わないけど。


 そう思って、私は笑みを浮かべた。

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