同窓会
同窓会当日、私の心臓は壊れそうなほど速いスピードで動いていた。ラベンダーカラーのドレスを来て、菫の家に向かう。
「どれどれ、メイクしてあげるから顔貸して」
親友の菫は私が家に着くとすぐに顔にメイクを施してくれた。
「今日、片桐に会いたい?」
「わからない……」
ぎゅっと左腕のブレスレットを掴み、体の震えを落ち着かせる。
今更会って何を話せばいいのか全く分からなかった。会えたとしてもあっちはもう私のことを忘れているかもしれない。
たとえ忘れられていたとしても、何年も向き合えなかったこの気持ちに向き合うチャンスは今日しかない。
自分を鼓舞して気合を入れた。
「菫にこれだけ背中押されたんだもん。頑張るよ。ちゃんと今日でケジメつける」
「よろしい! ほら出来たよ。さすが私!」
鏡を見ると自分だと思えないくらいかわいく仕上がっていた。
「菫、ありがとう……」
お礼を言うと背中をバシバシと叩かれる。
「あんた美人なんだから自信持ちなよ。片桐さん来なくてもいい出会いあるかもよー?」
「そうだね……」
私たちはそんな会話をして同窓会の会場に向かった。
会場には思ったよりもたくさんの人が溢れている。担任の先生、部活の一緒だった子、クラスの一緒だった子。
見た目が大きく変わった人もいれば、全然変わらず懐かしさを感じる人もいる。
薬指に指輪をつけている人たちも沢山いた。それを見て、自分はもうそういう歳なのだと実感してしまう。
辺りを見渡しても、私の目的の人はいない。
やっぱり、もう会うことは出来ないのかもしれない……。
「あれ、結那だよね……?」
身長の高めで爽やかな男性が話しかけてきた。私は誰だかわからなくて困った顔をしてしまう。
「覚えてない? 齋藤駿介だよ」
彼は優しく微笑んで話しかけてくれた。
確か、三年生の頃にクラスが一緒だった男子だ。
「あはは、ごめんね。久しぶりすぎて思い出せなかった」
私は愛想笑いでうまく会話を繋げた。上手く笑えているだろうか。相手を不快にしていないだろうか。そんな不安が押寄せる。
「全然いいよ。俺みんなに変わったって言われるし。それより、結那は高校生の頃から美人だったけどより美人になったね」
「あ、ありがとう……」
きっと褒められているのだろうけど、全然嬉しくないし、心のどこかで違和感を感じてしまう。
テーブルにある惣菜を取ろうとすると手を重ねられて「俺が取るよ」と言われた。別に齋藤さんは悪くないけれどそれを嫌だと思ってしまう自分がいる。
「この後、二人で抜けない?」
そんなことを耳元で言われる。私は菫を探すが菫は遠くで女子達と話している。
なんて断るのが相手を傷つけないだろう。
もう誰かが自分の言葉で傷つく顔を見たくない……そんな思いのせいで私は回答にもたついてしまう。
「ねえ、どうなの?」
私は腕を引かれて抱き寄せられるような形になり、体が震えてしまう。
誰か助けて――――。
「そこの料理食べたいからどいてくれる?」
私は腕を引かれて齋藤さんから体を離される。私の腕を引いた相手を見て、心臓が取れそうになった。いや、もう取れていたと思う。
「おーごめんごめんって片桐!? 随分、雰囲気変わったじゃん」
私も驚きすぎて目を離せなかった。
暗めの色の髪色でミディアムレイヤーの髪型の綺麗な女性が目の前にいる。黒のドレスが良く似合い、横顔が綺麗すぎて言葉が出なかった。
「片桐もこの後、俺らと飲み行かない? 今、結那も来るって言ってるし」
私は行くなんて一言も言っていないのに勝手に話が進んでいて手に変な汗が滲む。
「松原さん震えてたように見えたけど。私たち行かないから他当たって?」
片桐は齋藤さんをぎりぎりと睨み、彼はそれにビビったのか離れてしまった。
片桐は齋藤さんが離れたあとも私の腕を掴んだままで、掴まれている部分がジンジンと熱くなる。
なにか話さないと……そう思うのに緊張で喉が潰されてしまったみたいに声が出ない。
久しぶり?
会えて嬉しい?
元気?
どうだった?
今何してるの?
聞きたいことが沢山ある。
「嫌なら嫌ってちゃんと言わないと、辛い思いするの自分だよ」
片桐はそういって私のことを見つめてくる。
その熱い眼差しに目を逸らしたくなるけど、逸らせなかった。
「片桐、綺麗過ぎてびっくりした」
つい、言おうと思っていたこととは全然違う言葉を発してしまい、顔が熱くなる。
「それはどうも。あっちの方でクラスの女子で固まってるみたいだから行こう」
片桐は掴んでいた私の手を離して女子の集まりの方へ向かう。私の手を離した片桐の手を掴んでしまった。
二人で話がしたい……。
その一言が出てこない。
「どうしたの?」
片桐が私の顔を覗いて来るので、びっくりして顔を背けてしまう。
「なんでもない……」
私はそのまま片桐の手を離してしまった。
女子の集まりの方へ行くと片桐は引っ張りだこだ。綺麗で優しくてクールに見えて愛想がいい。高校生の時もクラスの人気者だった。
私だって片桐と話したいのに……。
ついムキになってワインがグイグイと進んでしまう。
「結那ちゃんって結構お酒飲むの? 勢い、いいね!」
クラスの誰かも覚えていない女子からそんな声をかけられ、他のお酒も勧められる。私は断れずそれをどんどん飲んでしまった。
少し視界がクラクラする。
…………
これではだめだ。誰かに迷惑をかける前に私は会場を出て人の少ないところに座り込んだ。
変なところで嫉妬して、情けない。
これじゃあ高校生の頃と何も変わってない。
「お酒弱いのになんで無理するの?」
顔を上げると片桐が居た。
なんで……?
クラスの人たちと話してればいいのに。
「弱くない」
私は素直になれず強がってしまう。
「菫さんが弱いって言ってたよ。心配で様子見に来た」
なんで、私にも優しくするんだろう。
私はたくさんあなたを傷つけたのに。
「結那……」
十年振りにその名前を呼ばれ、顔を上げる。
少し照れくさそうにした片桐がそこにはいた。
「このままさ、抜けない?」
それは私が今日ずっと望んでいたことで、嬉しくてお酒のせいもあるのか心がふわふわと浮いている気分になった。
私はコクリと頷き、私たちは同窓会を抜けだした。
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