10円のOCEAN

星咲 紗和(ほしざき さわ)

プロローグ

夜が深まるにつれ、海の波音はより一層、その声を高めていった。神社の境内は静かで、ただ月明かりが石段を照らしている。この場所は古来から、海神を祀る聖地であり、美鈴彩にとってはただの家以上のものだった。


彩は神社の階段を上がりながら、祖父から聞かされた言葉を反芻していた。「力は、常に代償を伴う。だが、それを恐れてはならない。」彼女の手には、その力の代償として支払われる10円玉が握られていた。彼女自身がその力の継承者であることを、心の底から受け入れた瞬間だった。


今宵、彩の運命が新たな局面を迎えようとしていた。神社の裏手で、ある不穏な動きがあったのだ。影が一つ、境内の境界を越え、神聖な空間に侵入してきた。その者の目的は明らかに、何かを探している様子だった。彩は息を潜め、祖父から教わった古の技を駆使して、静かにその影に近づいた。


「10円の力を、今ここに解き放つ時が来た。」彩は囁くように言い、額に浮かび上がる小さな賽銭箱に硬貨を投じた。たちまち、彼女の周囲に青い光が満ち、戦士「OSS10」としての装いに変わる。この夜、彼女がこの力を用いるのはこれが初めてだった。


静寂を破り、剣を抜く音が響く。美鈴彩、新たな戦いの幕開けである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る