山の上のプラネタリウム

山田波秋

第1話

ある山の上にショッピングモールがあった。特別な場所に建てたと言うよりは、昔からあったんだ。


行き来は大変だったけれどそこに行き着くまでの店に個性的な店が多かった。

珈琲屋もあったし、弁当屋もあった。もちろん飲み屋もあった。


そのショッピングモールにはプラネタリウムが付いていた。芸能事務所の『住みます芸人』が働いており仕事の糧にはなっていた訳だ。


しかし考えて欲しい。山の上にあるショッピングモールはまだ良い。しかしプラネタリウムなんかなくても上を見ればリアルな夜空が見える。


そこに住む住民にとっては冷やかしにしかならなかっただろう。

でも、街の歯車としてプラネタリウムを動かした。

そして、そこでプラネタリウムを一通り見たあと、少し山を降りて中腹にある珈琲屋とか居酒屋で飲んでた。


店の外には先ほど体験したプラネタリウムでは済まない本当の星空が広がってる。


しかし、それもまたオツなものだ。その山に住む住民はそうやって過ごしていた。


そのうちに『プラネタリウム』だけが注目されることになった。


別に山の上にプラネタリウムを置く必要はない。

住民は山の麓にプラネタリウムを置くことになった。合理化の結果であろう。


結果、山を登る人は本当に一握りになってしまった。


経営不振の結果、山の上のプラネタリウムは運転を中止するという。

それに伴い山の中腹の店にも人が入らなくなる。


山の上のプラネタリウム最終日。

近くの店の人たちも集まって最後の日を迎えた。


それらの店も軒並み閉店する事が目に見えている。


この山の上の引力が消えた。

残った人はそれぞれ思い出を語る。


もう、プラネタリウムは動いてないんだけどこの山の上から見える星達は自然で静かで…


空気が冷たくて美味しい。

コーヒーやお酒が美味しく感じる瞬間。ついでに言うと煙草も美味い。


それぞれの店の飲み物を集めて山から麓を見る。


「昔はそうじゃなかったよなぁ」

「商業ベースでやればいいってもんじゃない」


そんな意見も少しは出たがこの山の頂上からみたら微々たるものだ。麓のプラネタリウムで感動できるのならこれはもはや芸術じゃない。ただのアトラクション、だ。


あの山の上で見ることに意味があるのになぁ。

でも、山の引力な失われた結果…なにも残らなくなってしまった。


僕は最低限の装備にしてあの山に登ることにした。

途中で顔馴染みの人とも合流した。


当時あった店は全て無くなってしまった。なので昔店があった頃の場所の近くに座り、空を見ながらそれぞれ好きな飲み物を飲む。


少し前までは当たり前だったが今となっては入れる店もない。


山の斜面にシートを敷いて空を見る。

何回も見た星。


その時に感じた


「あのプラネタリウムはもうない」

「あの珈琲屋ももうない」

「あの居酒屋ももうない」


それを、

「虚しい」

「侘しい」

「寂しい」

と考えてるのはあくまでそれを経験した僕らだけなんだろうな。


ただただ、静かだ。

空気の流れが見えるくらいだ。


夜空はとても藍色をしている。


だけどそれがいい。

最後を迎えるのには相応しいんだろう。


おそらく、この山に登ってくる人もいなくなるだろう。

なぜなら麓で全部済んでしまうようになったから。


もう、山には誰も登ってこない。

珈琲屋も居酒屋も場所を麓に移した。


ただ、みんなで見た最後の夜はとてもプラネタリウムでは表現できないような綺麗な空だったんだ。

思い出したら泣いてしまいそうだから、そっと心の奥底に保存しよう。

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山の上のプラネタリウム 山田波秋 @namiaki

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