第11話 不可視の勇気
やっと昼休みだ。午前の四時間分の授業が授業変更で全部数学になったときは頭がおかしくなったかと思ったぜ。
何とかこのデスマーチを乗り切った。さて、気力を回復するために飯を食うか。
ウェットティッシュで指先や手の平を念入りに拭いていると、こちらに近づく人を確認する。
「こんにちは、孔明くん。前、良いかな?」
小鳥遊さんだ。
「……いいぞ。ヨシナリはいつも食堂だからな。………それより、どうかしたのか?小鳥遊さん。……珍しいというか、何と言うか」
「ちょっと、アレ、作って見たから」
「アレ……?」
スマホよりも一回りくらい大きい弁当を取り出す。
保冷剤をよけて蓋を開けると、黄金色の天津飯が一面に敷き詰められているではないか。
「これ、自分で作ったん?」
「うん、この前言っていたヴィーガンエッグ?ってものを通販で取り寄せてもらってね」
卵は加熱したり、卵白を取り除くことでリスクは低減される。ただ、何処まで行っても少なからずリスクはあるため、経口免疫療法でもなければ卵アレルギー持ちに卵を食べることは勧められない。俺は医師じゃないからな。
だからこそ卵ではない卵を以前勧めたわけなんだが。
「すごい美味そうだね」
普通に美味そうだ。食欲が唆られるこの甘酢の輝き。今度天津飯食いに行こうかな。
……ん?これってただの自慢か何かか?女子力ありますよとか天津飯美味そうでしょとか?
「そこで何だけど……ちょっと食べてみない?」
「なっ!?」
こんなイベント、人生で一度もなかった。
他人の手作り料理は抵抗感というか忌避感を感じるが、見た目の美味さと香りと未知の食材への知的好奇心には勝てない。
「……………じゃあ、頂こうかな」
「……はい、あ~ん」
「はっ!?えっ!!何してんの」
「ふふっ冗談だって。はい、どうぞ」
心臓に悪いからやめろ。マジで。
恐る恐る一口分取り、口へ運ぶ。良くも悪くも、普通の天津飯だ。美味い。
「ウメェ〜。天津飯といったらこれって感じがする」
「そう?良かった。今まで天津飯自体食べたことないから」
「上手く作れているよ。これ」
「うん、美味しい。天津飯、あたしも好きかも」
「ははっ、それは良かった。……そういえば、パイナップルとかって好き?」
「好きだけど?」
「じゃあ、お返しに、このパイナップル一つあげるよ」
唐揚げでも渡そうかと思ったが、物によっては衣にマヨネーズが使われていることがあるため、やめておく。考えすぎだと思わないこともないが、俺はアレルギーを持っていないから食品に何が含まれていて、どうリスクがあるかとかあまり把握していないしな。
「いいのっ?ありがとう!」
「一つだけだからな」
「そんなこと分かってるよ」
「はは、ごめんごめん、昔、妹に全部食われたことがあってな。つい」
俺がトイレに行った瞬間に全部食った妹のことを俺は忘れることがないだろう。
「妹さんいるんだ〜。可愛いの?」
「俺に似ず、可愛い……と親から言われているな」
そりゃあ、男の俺よか可愛いだろうよ。
「何それ〜」
会話しながら飯を食い進める。元来、何も喋らず食べる性分だが、たまにはこういうのもありか。
「ごちそうさま」「ごちそうさまでした」
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