希望の論

第1話希望の論

俺はあと何日生きられるのだろう

病室から見える景色に

自然はなく

ドラマでよくある『葉っぱが落ちれば、死ぬ』

などとそういったことで話題も作れない

彼女も同じような話題を振ろうとしていたようだ

「窓のさ、外に葉っぱがあってさ、散っちゃったら、その…死んじゃうてのがあるよね」

「うん…あるね。」

「でもさ、ここはさ、木がさ、ないから神上くんはあの…死んじゃうとかはないと思うんだ」

相変わらず喋ると馬鹿が露呈する

「死」という言葉に気をつけながら話しているようだ

いい子なんだ

よくこんな良い娘に出会えたな

こいつの顔が見られるのも

数日のうちだと思うと。

泣いてしまいそうだ

「後悔はないよ」

彼女が引き攣った顔を見せた

「十分頑張ったかな」

「そう…」

「最悪な人生だったかも。」

「うん…」

こいつは暗い話になるといつも上手く喋れなくなる

馬鹿な人で愛すべき人なんだ






俺は物心ついたころ

気づいたら

親はいなくて

祖父母もいなくて

血も繋がってない大人と

過ごしてた

不幸ではない

それが日常だったから

当たり前のことで

その時は

幸せでもあった

でもな

心が成長するにつれ

俺は他とちがうような育ちだと分かるようになる

親というものを分かっていない

もちろん顔もしらない、なぜ居なくなったのかも知らない

想像してみても

血のつながってない

あの大人に世話されてたあの瞬間を思い出す

中学

高校

頑張った

周りに合わせて

明るく振る舞った

その時から俺は不幸であった

先生や、周りの大人は俺は哀れみ

希望を見せようと

俺の顔を無理やり太陽に翳すように

それが辛かった

なぜわざわざ眩しく

目が眩むような光を見なければいけないのか

希望を見せるな

下手な希望を見せるな





舞と出会ったのは高校生の頃だったかな


「大丈夫…ですか?」

「うるせぇよ…殴るぞ。」

「ひゃあ!殴るのはやめて!」

「…なんだお前。。」

「え?私?みんなからはまいちゃんって呼ばれてるの、えーと」

「知らねぇよ…」

「怪我すごいですね」

「そりゃあ喧嘩したからな、男の勲章よ」

「何が勲章ですか!ださい!!」

「え」

「喧嘩なんてよくありません!」

んだこいつ

「何様だ、このあまぁ!」

「家は!どこぉ!」

「……ねぇよ」

「はぁ?嘘つかないの!親に突きつけられたくないからってぇ!」

「…ガチだよ、俺にはなんもねぇの」

「え…ああ…え?」

ザマァこの女

結局こいつも

俺に希望の…いや最悪の言葉を掛けるだけだろう

「じゃあ…私の家に…一旦来て」

「は、はぁ!?」

「来い!手当てしてやるぅ!!」




「いてっ!」

「ほらっ!染みるでしょ!おらおら!」

「何がしてえんだよ!」

「喧嘩したバツです!」

「お前マジで!調子のんじゃねぇ!」

「ひゃああ!」

……!!

すぐビビるくせに

なんで俺みたいなのを家に入れてんだ馬鹿か

「チッ…女をなぐる趣味はねぇ」

「手当てするならしろよ」

「え?うん…」



「…休んでていいよー」

「なんで優しくする…俺に」

「だって辛そうだったし?」


「そうか……

!?」

顔がところどころ腫れている

気づかなかった

体は傷だらけだ

下からの見上げた形で彼女を見なければわからなかった

「まさか…」

「君は何も心配なんてしなくていいんだから、大変な時は自分のことしか考えられないもんね」





「えええ!!」

「こいつか…舞を殴ってたの。」

「ええ…ええええ」

なんか言えや

…どんな関係なんだ

DVってやつか

舞が出掛けていて

留守番している時

突然鍵を開けて入ってきやがった


「…は?お前だれ?彼氏?は?マジで?あいつくそ」

「オメェこそ誰だよ!勝手に入ってきて」

「勝手とはなんだ?あ!?あいつは俺のだ、今日は用があってよぉ〜あいつの財布どこ?知ってる…」


殴っていた、いつの間にか

「て、テメェやりやがったな!このクソガキ!」




「こいつか…舞を殴ってたの。」

「えええ!」

「鍵開けて入ってきたぞ、こんな奴に合鍵渡してたのか?」

「え?鍵?ええ!?」

「は?まさか」

「最近別れた人…なんだけど…あれ?なんで私の家の鍵持ってるの…?」

「…警察!!!!」






「はい…これ」

「何これぇ…!」

「日頃の感謝…です」

「…!!!大好き!!」

「や、やめろ!」






「雪だるまつくろ!」

「やだよ、寒いし」

「ノリ悪るい…」

「…わーったよ!どんなの作るの」

「神上くんみたいなの作りたいな」

「わかりずれぇ」

「神上くんみたいなかわいいの!」

「なっ!?」





「花火綺麗だね」

「そう…だね」

「ね、ずっと一緒にいたいなぁ…なんてね」

「…同じ気持ちだよ。俺も舞を支えられる大人になりたい」








「舞。」

「…はい」

「君は生きれるんだ、俺のことをよく知っている唯一の人」

「死ぬみたいに言わないで…」

「死ぬでしょ。」

自分で言ってて悲しくなる

「俺は舞を愛してる」

「知ってるよ…」

「ずっと守っていたい」

「じゃあまだまだ生きてよ」

「それは、無理なんだって」

「馬鹿…ざけんな…」

「舞は俺に優しく希望を見せてくれた。

孤立してて毎日喧嘩しかできない、家もない俺に」

少し違うかも

「いや、舞は俺に希望見せるんじゃなくて、舞自身が希望として俺を照らしてくれてたのかもしれん」

「どっちでもいいよ…生きて欲しい。最後まで生きる希望を捨てないで欲しい」

…生きる希望ね

「大丈夫だよ!生きるよ、生きられるよ!明日を想像するの!私とあなたが笑ってる、そんなことを!」

「…希望を俺に見せないでくれ。」

「…!ごめん。。」




「…今まで希望の言葉は受け止めてなかった。今初めて受け取って、感じた。大事な人が言ってくれて初めて…」



「……





     生きたい





             」

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希望の論 @tensuke0628

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