第10話 もっと良い話
盛利のブログには、悲鳴にも似た弱音が書かれていた。
折角、藩の活性化のためと思い始めたことが、藩内で生活物資がなくなり、物価の高騰を招く羽目になってしまったのである。当然、藩内の人々の不満は盛利に向けられていた。
もちろん、江戸の人々と違い、農家や漁師である藩内の人々は、食料品に困ることはない。したがって、大きな騒動にはならないまでも、口づてに殿への不満が伝えられていた。
その盛利のブログを見た隠元は、ついに時期が来たことを察し、アドメニア合衆国のボッシュに電話を入れていた。
「ボッシュ、いよいよ、動こうと思うが、幕府のほうには手配はすんでいるのだろうか。」
「幕府のほうは、先月、大統領特使を派遣して、合衆国の意向を伝え了解を取り付けているよ。そちらが契約までの段取りをしてくれれば、後は、幕府のほうが動くことになっている。」
「わかった。1ヶ月もしないうちに、形を見せることが出来ると思うよ。じゃあ、そのときに連絡するから。」
電話を切った隠元は、盛利のブログにあるメッセージを入れていた。
そのメッセージを見た盛利は、今度こそは、藩の活性化が出来ると大喜びした。
隠元からのメッセージには、幕府の意向により五島藩内の土地を購入し、広大な敷地造成をしたいということであった。ただ、何のための敷地造成なのか、なぜ幕府が関係するのか、詳しいことは書かれていなかった。
隠元の提案では、三井楽という藩内では珍しく山の少ない地区の土地を買収したいとのことであった。しかも、その後の造成工事には、藩内の人々に働いてもらう考えだという。
三井楽という所は、古くは遣唐使船が風待ちをした所として知られているが、集落のほとんどが農村で、大豆と芋の栽培を行っていた。
その畑では、防風林として椿の木を使用しており、秋口には椿の実を採り、椿油を作っていた。
そのような土地をどのように使おうというのだろうか。
盛利は、家来たちを集めて意見を聞くことにした。
集まったのは、盛次、家老の七里善喜、木場半兵衛など、十数名の者たちであった。
物産品販売で痛い目に遭った盛利は、今回は慎重に事を進めようというのである。
家来たちは、幕府の事業であるとの盛利の説明に諸手を挙げて賛成した。ただ、三井楽掛(かけ:村の意)の坂本力之介だけは、土地の用途が示されていない事に疑義を示した。しかし、それによって会議の流れが変わることはなかった。
隠元が示した条件には、土地代をそれぞれ関係者に支払うこと以外にも、五島藩に対して仲介料を支払うという内容も含まれていた。
盛利には、これ以上の条件はないと思われた。なによりも、隠元の書き込みによると幕府の事業だというのであるから・・・。
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