姉猫異世界巡り~実験機乗りの最強姉弟冒険譚~

三毛猫みゃー

第1話 ここはどこ? 俺はだれ?

「けほっ」


 息を吸い込むと同時に咳き込んだ。うまく呼吸ができない。ここは……乗り慣れた機体の座席のようだった。冷えていた体が体温を取り戻すにつれ呼吸が楽になってくる。


 何があったのだろうか目を覚ます前の記憶が無い。しばらく呼吸を整えていると霞んでいた視界がはっきりしてくる。目の前のホロモニターには【コールドスリープを解除しました】と表示されている。


「コールドスリープ? なぜだ? いやそれより外はどうなっている」


 ホロモニターを操作して外部カメラを確認しようとしたが、なぜか全てのカメラがなにかに塞がれているようで真っ暗で外の様子が確認できない。暗視モードに切り替えるとちゃんと機能しているからカメラが壊れていないのはわかる。


「あー、外がどうなっているのか目視で確認するしか無いか……。いや、姉さんはどうした? 俺と同じようにコールドスリープから目覚めたのか?」


 この機体は複座式になっていて俺は前部座席に座る事が多いが、今回はどうやら後部座席に座っていたようだ。ホロモニターを操作して横にずらす。前を見るとどうやらコールドスリープが機能した時に隔壁が降りたようで、前部座席は確認できない。隔壁の解除操作をしてみるが、あちらからも解除操作しないといけないみたいで開かなかった。こうなっては一度外へ出てから搭乗口を開けないといけない。


 その前に通信を開いて前部座席に声を掛けてみるが反応は返ってこない。急いで搭乗口の開閉操作すると、ギギギギという音とブチブチと何かがちぎれる音が鳴り視界が開けた。それと同時に濃密なそして生暖かい、なんとも言えない空気が操縦席内に流れ込んできた。


「げほっ」


 濃厚な嗅いだことも吸ったこともない空気を吸い込んでしまい咳き込んでしまった。何度か軽く呼吸して肺を慣らすと、問題なく呼吸ができるようになる。そのまま座席から立ち上がり、勢いよく外に身を乗り出そうとした所で胸を思いっきりぶつけてしまい座席に戻された。


「痛ったー」


 めちゃくちゃ痛い、何にぶつかった? 痛みを訴える箇所を手で擦ると確かな弾力が返ってきた。ん? 弾力? 恐る恐る視線を下げるとそこにはふたつの双丘があった。えっと、もしかして俺は今姉さんの体に入っている?


 急いでホロモニターを呼び出し鏡面モードにする。鏡面モードになったモニターの中には確かに姉さんの姿が映っていた。後ろで束ねられた長い髪、綺麗に手入れされた細い指と爪、専用スーツに包まれていて普段よりも余計に強調されている双丘。


 そこでハッとなった、姉さんの体がここにあるって事は姉さんが俺の体に入っているということか? 今度は慎重に胸をぶつけないように急ぎつつ搭乗口から外へ出る。


「なんだ、これは」


 樹海というのだろうか、映像でしか見たことのない風景が目の前に広がっていた。どこだここは、いつの間にこんな所に来たんだ? 全く記憶にない。機体を確認するとどうやら山の斜面に倒れているようで、その全身を緑色の蔦が絡み全体を覆っている。先程のブチブチという音はこの蔦をちぎった音だったのだろう。


 それよりもまずは姉さんだ。このままでは俺の身体がある方の搭乗口を開けることは出来ないから一度座席に座り、機体を水平になるように寝かせる。機体を動かすことで全体を覆っていた蔦がちぎれて行く。再び外にでて搭乗口の開閉準備をする。


 まずは搭乗口を開閉する前に中の様子をチェックする。コールドスリープ状態ではなく、通常状態になっているのを確認。開閉レバーを操作して搭乗口を開ける。搭乗口がゆっくりと開いて行くのを待つ。開ききった所でそっと中を除くと、そこには人の形をしたなにかがあった。


「ね、姉さん!」


 急ぎ操縦席に入り込み、人の形をしたモノを確認する。確かにそこにあったのは俺の体だった。ただしその顔色は全く血の通っていない真っ青なものだった。パッと見ただけでも呼吸をしていないのがわかる。


「何だよこれは」


 改めて目の前で動かない俺だったものの体を見てみる、この状況から考えられるのはコールドスリープの失敗といった所だろうか。もう少し詳しく調べてみると、左の脇の方に専用スーツを貫いて体に穴が空いているのがわかった。致命傷ではないがこれが死因だったのだろう。よく見てみると足下には刺さった物を抜いたであろう赤く染まった鉄のパイプと、治療をしようとした名残か治療キットが散らばっているのに気がついた。


「一体何が……」


 未だになにがあったのか思い出せない、もしかすると姉さんの体に記憶の移乗をした時に抜け落ちた可能性もある。それよりどうして俺は姉さんの体になっているんだ? もし姉さんが死にそうなら俺なら体を差し出すくらいはするけどさ。


 そうか、俺が死にそうだったから姉さんが俺の意識を姉さんの体に映したって事か、双子なだけあって考えることは同じか。いやまて、それなら姉さんは今どこに? 流石に体を俺に渡してハイ終わりなんていう姉さんじゃない。


 どこかになにか手がかりがあるはずだ、そう思って一度自分が目覚めた後部座席へ戻ろうと立ち上がる。わざわざ外へ出る必要はない。閉まっている隔壁の解除操作をすると、ゆっくりと隔壁が開き始める。


 すると開いた隔壁の奥、後部座席の方から何かが転がり出てきた。その何かがコロコロと転がってきて俺の足下で止まると。その身を開き四足になると背中を反らして伸びをして見せる。


「ふあぁ~、ケイカも起きたのね」


 そこにいたのは紛れもなく真っ白な猫だった。


「もしかしてケイナ姉さんなのか?」


「そうだよ」


 金色の瞳をした白猫は尻尾を揺らしながらそう答えた。


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はじめましての皆様初めまして、他作品から見に来ていただきました皆様は今後ともよろしくお願いいたします。

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