夙に映して

いつもの

「おはようございます。お元気ですか。今日もよいお天気ですね」

　鏡の前で微笑んだ。上げた口元がシンメトリーにならなくて、指先でキュッと持ち上げる。

　毎朝のルーティン。人と話すのが苦手な私がこっそりしてるナイショの練習。おしゃべりが下手な私にできる、せめてもの足掻き。整ってはいない私の顔も、笑えば少しは良くなるはず。

「おはようございます。お元気ですか。今日もよいお天気ですね」

　粘る声が喉にまとわりつく。頬が歪むのを隠したくて、口元を上げる指先にぐっと力を入れ直す。首元の血がぐるぐる流れる。頭に行かずに引き返す。

「おはようございます。お元気ですか。今日もよいお天気ですね」

　指先がどんより重くなる。指のささる頬が痛い。ニッと歯を剥き出すと、色あせた歯ぐきが良く見えた。

「おはようございます」

　首がゴロンと転がり落ちる。私の首はたまに取れる。

「お元気ですか」

　痛みとともに視界が回る。取れた頭がベコンと凹んだ。窓から曇った空が見える。

「今日もよいお天気ですね」

　手首がポトンと落ちた気がした。