勝ち確定のオチコボレ ~ケガしちゃ危ないからってパーティは追い出されてヒモになりました
石の上にも残念
第1話 追放
春の陽光が降り注ぐ麗らかな日。
外の朗らかさと対照的に、その部屋は重い空気に包まれていた。
ちょこんと正座した少年を囲む少女たち。
この少年、名前を【マルコ】という。その肩には真っ白でモコモコした手のひらサイズの小さな羊がちょこんと乗って、背中に生えた羽をパタパタ動かしている。
「今日という今日はハッキリさせる必要があるわ!」
緑の髪をショートボブにして、少しキツめの顔をした【リナ】が、正座しうなだれた少年にビシッと指を突きつけ叫ぶ。
たゆんと揺れた。
「アナタはウチに要らないのよ!」
輝くようなプラチナの髪を後ろで1つにくくった
少年の肩が更に落ちる。
ここは、冒険者と言われる、モンスターを退治したり、遺跡やダンジョンに潜ったりして宝物を探すことを生業とする職業の、Cランクパーティ【ネムラゴ】のパーティハウスだ。
少年を前に2人の少女が立ち、1人の少女は机に向かって何かを書いている。
リナの怒りを受けて、隣に立つ赤い髪を2つにくくり眠そうな顔をした【メル】が話す。
「確かにもう難しいと思う」
淡々としているだけに、言葉が重い。
「そりゃあ私だって言いたかないわよ!? ネムラゴはアナタとフェノンの2人が立ち上げたパーティで、後から入った私やメルが言うべきではないと思うわ!」
でも、と仕切り直す。
「Cランクのクエストをやるには実力が足らなさ過ぎるのよ!」
「こないだは
メルがうなずく。
「これがこの本の主人公みたいならともかくよ?」
リナが懐から1冊の本を取り出す。
『転生王子。イジワル宰相と甘々騎士団長の英才教育――ああ!僕の前世の常識が悦楽で壊されてしまう!――』
と書かれた本だった。服をはだけた3人のイケメンが絡まっている。表紙の真ん中にいる困り顔の少年はプラチナブロンドで、目の前の少年に似ている、ような気がする。
目の前の少年の方が5万倍ぐらいイケメンだけど。
「これは?」
思わず聞き返す少年。
「あっ!」
リナは慌てて本を懐に戻す。
「こっちよ!」
改めて差し出された本には
『パーティに荷物は要らないって追い出された。でも、俺がやってた雑用誰がやるんだ? ――元雑用係が始める明るい世界征服――』
と書いてある。
「こんな風に、実は有能で、直接的な戦闘力は低くくても、縁の下の力持ち的にきっちり働いてましたとかならいいわよ?」
「ビックリするぐらい何にもできない」
メルに大きく頷かれる。
「マッピングをすれば迷子になる!」
リナが切り出す。
「クエストの報告書は間違いが多すぎて、虚偽報告だって言われて、報奨減額された」
メルも続く。
「経理を任せたら、追徴課税取られたし!」
「料理は焦がす。私の方が上手」
ふふんとメルが胸をはる。腕の動きで胸をはったのだと分かる。
「荷物番やったらポーションは壊す」
挙句に、と声が大きくなる。
「買い出しを頼んだらカツアゲにあって、有り金全部巻き上げられたってなんなのよ!?」
「冒険者が、一般人にケンカで負けるな」
「ちょっと、フェノンもなんか言ってあげてよ!さすがにヒドイわよ!」
そこで、フェノンと呼ばれた少女は、手を止め、顔を向ける。
腰まで届く髪は夜闇を溶かしたように黒く、満月を纏うように艶やかに輝く。
対照的に真っ白な肌にはシミ一つなく、絹が嘆く程にキメ細かい。
「ふむ。まぁそういじめてやるな」
そう言って、手元の作業に戻る。
「イジメじゃないでしょ!?」
「正当な意見」
「出来た!」
持っていたペンを置き、手元の書類をトントンと揃え、封筒に入れると封をする。
それだけの動きが驚くほど洗練されていて、見ていると思わずため息が漏れるほどだ。
「フェノンありがとう。相変わらず早いわね」
リナがフェノンにお礼を言う。
「ふむ。得意だからな」
仕事を終えると、スラリと立ち上がる。
リナよりも頭1つ高い長身は、服の上からでも分かるほど引き締まり、少しのムダもない。
「マルコは、大事なメンバーだ。幼馴染だし」
「幼馴染である以外、大事な要素ないでしょ?」
「ふむ。確かに、マルコは鈍臭いからな、事務関係の仕事は向いてない。足も遅いし、体力もない上に臆病だから、荷物運びならロバ……は当たり前か、ネズミ……はちょっと言い過ぎかもしれないし……うーん、犬?猫?まぁなんかそんな感じのを飼った方が役に立つ。ケンカも弱いし、武器は使えないし、手先も不器用だ」
幼馴染からの容赦ない指摘に、マルコは溶け落ちそうなほど凹んでいる。
「マルコの失敗のおかげで死にかけたことも何度もあるし、マルコがいない方がクエストは順調にクリアできるのは間違いない。私たち3人の実力ならBランククエストでもできるが、マルコのおかげでDランククエストで苦戦することもあるからな」
そこまで言ってフェノンがピタリと止まる。
「………そこまで言われると可哀想になるわね」
「………ぐうの音も出ない事実なのが更に悲しい」
ヒソヒソと話す2人。
「んー? やはりマルコがいるメリットはないのか?」
悩み始めるフェノン。
『いや、待て、何かあるはずだ。思い出せ、私の頭脳!』と頭をトントン叩く。
『あっ!』と手をポンと打つ。
「でも、唯一で!たった一つしかない!!いい所があるじゃないか!」
『そうだったそうだった』とうなずく。
「たくさん食べるぞ?」
「違うわ!」
リナが突っ込む。
「違わないかもしれないけど、違うわよ!? マルコのいい所はカッコイイ所よ! 美形なのよ! イケメンなのよ! ものすごく! でも、何にもできないくせに、やたらカッコイイのも逆に何か腹が立つのよ! なんなのそのサラッサラの髪! 真顔はカッコよくて、笑うと可愛いし、マルコのために誂えたようなキレイなオッドアイ! 細長い指は繊細で柔らかくて、たまに触られるとゾクッとするのよ! ピシッと伸びた背筋は凛々しいし、一つ一つの所作が優雅で品があるから何しても絵になるのよ! それに、その声!なんなの少し高くて甘い声!名前呼ばれるだけで大変なのよ!」
マルコは街を歩けば、10人中10人が友達を呼び寄せて結果的に100人ぐらいが振り返るイケメンだった。
「それに、パーティ抜けたからって会えない訳じゃないのよ?」
「……まあ?」
「別にパーティじゃなくてて
「………それはそうだな」
「今までは私たちでカバーして来てるけど、もしカバーしきれなかったら、マルコなんて一瞬でぐちゃぐちゃになっちゃうわよ?」
「……危ない場面は何度もあったな」
「そんなことになったらそこ以外全くいいとこのないマルコの、唯一の取り柄である、見た目すら失うのよ?」
「それはダメだ!!」
拳を振り回すフェノン。
「マルコ! お前は今日で抜けてもらう! 怪我のない安全な仕事を探すんだ!」
こうしてマルコは【ネムラゴ】を追放された。
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