第1話 別世界の魔王ミロ

 「ミロ様、いい加減に起きてください!」

 「むにゃむにゃ……あと1年だけ寝かせて……」

 「そう言って、もう100年近く経っているんです。そんなに寝たいのなら早く人間を滅ぼしてしまいましょうよ、そうすれば好きなだけ眠ることができますから」

 「えーー、でも城から出るのは面倒くさいから、幹部であるマーレが部下を引き連れて人間を滅ぼしてきて」


 正直、魔王の仕事に飽き飽きしてきた。もう人間を滅ぼすのも面倒くさい。というか、なぜ人間を滅ぼそうとしているんだっけ……その理由さえも思い出すことができない。


 早く魔王城に勇者が攻め込んくれないかな。300年前の戦闘が未だに忘れられない。あの戦闘は非常に充実し楽しいものだった。


 しかし、それでも勇者は俺の足元にも及ばなかった。だが、それでも十分に楽しむことができた。普段は魔法を扱うことができない人間だが、勇者だけは人間という枠を超えた存在であるおかげか魔法を使えていた。


 勇者は魔王に匹敵する力を持った人間と4代目魔王から聞いていたが、あの言葉が大袈裟なのではないかと思うくらい勇者は弱かった。だから、俺は正直あの言葉が嘘ではないかと疑っている。初代、2代目、3代目の魔王は勇者に倒されている。


 4代目魔王は俺が後継者として相応しいか見極めるため命を賭けた大一番の勝負をしかけて、あっけなく俺に敗れて命を落とした。


 こうして、俺は思わぬ形であったが5代目魔王になったのだ。自分と肩を並べる勇者が現れることを俺は刻一刻と願っている。


 【対象者を確認】


 もう一度、俺は眠りに着こうとした時。どこからともなく声が聞こえてきた。


 「い、今のは何でしょうか!?」


 俺を起こしてきた幹部のアーレは非常に慌てふためいた様子になる。なぜそんなに慌てるのか俺には理解できなかった。どう考えても魔法に決まっている。どんなに距離が離れていても、魔法を使えば相手に話しかけることができる。


 【転移を開始します】


 転移魔法が使えるのか……こんな高等魔法が使えるのか。自分を囲うように魔法陣が地面に浮かぶ。その瞬間、俺はふと300年前に戦った勇者の面影が思い浮かんだ。


 そういえば、俺を倒しに来たあの勇者も転移魔法を使って城に侵入してきたな。気持ちが昂る。ようやく現れるのか、少しは骨のある勇者で頼むぞ。


 俺は約100年振りに体を起こし、凝り固まった筋肉をほぐすためにストレッチをする。さあ早く来るがいい。どれほど俺を追い込む実力を持っているか見せてみろ。


 魔法陣が光り出す。その光は収まるどころか、さらに輝きを増していき、あっという間に俺の体中を覆っていく。

 

 「こ、これは……」


 気付いた時は手遅れだった。そして、その光は唐突に消え去った。


 「だ、大丈夫でしたか魔王さ……って、どこに行かれてしまったのですか!?」


 先ほど起こした魔王の姿がないことに、アーレは余計に慌て困惑してしまう。その後、アーレは魔王城にいる部下や幹部総動員で徹底的に探すよう呼びかけた。


 だが、俺の姿が見つかることはなかった。




 

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