別世界の魔王、異世界で勇者として召喚される。

大木功矢

プロローグ

 「陛下、もう私たちアリファーデスに未来はありません」

 「そんなこと分かっておる。しかし、現状我が国で魔王を倒せる者は存在おらん」

 

 国王の間に不穏な空気が流れる。国王の傍に立つ右大臣や左大臣、その他に集う上級貴族たちは顔を上げようとしない。ここで自分が発言したところで、この危機を脱出する策にはならないと分かっていたからである。


 「では、このまま民を見殺しにするというのですか!?」

 「仕方がないであろう!なら、この状況をどう打開するというのだ!」


 ここにいる全員の者が混乱している。国王も国を導く者として冷静であろうとしたが……ついに脳の回線が焼き切れてしまい怒りを抑えきれなくなってしまう。


 沈黙が少しの間訪れる。この状況を誰が切り開くのか、お互いが顔色を窺っている時だった。一人の少女が国王陛下の前まで歩いて行く。


 国王の娘であり、アリファーデスの次期女王であるタリヤ=アリファーデスである。5歳でありながら女王としてふさわしいほどの判断力とその判断への自信に満ち溢れている。だが、その自信は返って厄介になる場合もある。


 どんな誤った判断だとしても、タリヤは自身の考えを曲げようとはしない。自分の考えが正解である、と確信を持っているので教育係のメイドをよく困らせていた。


 「父上、いえ陛下。私に1つ提案があります」


 あくまで、こういった場合は親子の関係性ではなく一人の国民としてタリヤは接する。この様子から、いかに彼女が本気であることか父親の国王には伝わった。


 「申せ」

 「はい。禁書に記載されていた”勇者召喚”をしてみてはどうでしょうか?その人物に我が国アリファーデスが救えるかは分かりませんが、一か八か試してみる価値はあると思います」


 ある単語が聞こえた瞬間、国王の眉が少し動いた。そして、その周囲にいる貴族や両大臣も動揺を隠すことができなかった。


 「却下だ。あんな非人道的行為を国王である私が許可してはならん。仮に、それで国が救えたとしても……国民からの反感を買ってしまう」

 「では、このまま魔王に抵抗しないということですか?もしそのようでしたら、国民を見殺しにしたと同様です。国の未来を守るため、国民に安全に暮らしてもらうため、国を導く者として少しの犠牲は付き物だと国王として判断するべきです」


 タリヤは強気な姿勢でそう答えた。彼女も勇者召喚を行うことには反対だった。なぜなら、あの儀式は国が置かれる危機を救うために勇者を異世界から召喚し、その代わりの対価として幾らかの命を捧げなければならなかったからだ。


 自分一人の命で勇者を召喚できるのなら、とっくに国王はこの判断を下していただろう。だが、他人を巻き込んでしまう可能性がある。それだけが国王がこの儀式を承諾しない大きな理由であった。


 しかし、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。早急に判断を下さなければ、刻一刻と国の滅亡に向かっているのである。


 「陛下、私もタリヤ様の意見に賛同です」

 「私もです」

 「私も同じです」

 「今すぐにその儀式を行うべきです」


 陛下の側近の両大臣と貴族たちは次々にタリヤの意見に賛同の意思を示していく。あまり乗り気ではないが、手段を選んでいる場合ではないと。


 「陛下に仕える者たちはこのように言っています。ここは手段を選んでいる場合ではありません。ここにいる者の命を捧げ、この国を救ってくれる勇者を召喚しましょう」


 これが最後の一押しとなった瞬間だった。そして、国王として1番嬉しい瞬間でもあった。自分の命を捧げてまで、この国に尽くしてくれているそれ以上に嬉しいことはない。あまりの嬉しさに陛下の頬には一滴の涙が流れていた。


 「心から感謝を申す。では、これより勇者召喚の儀式に取り掛かる。全員早急に準備を始めよ!」

 「「ははっ!」」


それから、禁書に書かれてある通りの魔法陣を全員で協力しながら描いていく。


 「陛下、魔法陣が完成いたしました」

 「ご苦労様であった。勇者召喚を行う前に、最後の命令を下す。この時を持ってしてタリヤ=アリファーデスをアリファーデスの女王とする!専属従者である二人よ、タリヤを魔法陣から離れた場所に避難させよ」

 「「承りました」」

 「どういうことですか!?私も父上たちと一緒に―――って、二人とも離してください!」


 その命令を下した瞬間、タリヤの両脇にいた二人のメイドは彼女の両腕を離さないように力強く掴み国王の間から連れ出した。タリヤは陛下に大きな声で叫ぶが、その声に見向きもしなかった。そして両扉が閉まった音を確認し、陛下は勇者召喚の儀式に取り掛かった。


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