第32話
「以前と比べると、雲泥の差ですね」
そうこぼすのは、シルバーファングにまたがりながら森の中を駆けるウィチタだった。
シルバーファング達が言うことを聞くようになったことで、森の中での自由度は格段に上がった。
森の中で戦う以外に、逃げるという選択肢も取れるようになったからのが非常に大きい。
あまり戦いを長引かせてしまうと、血の匂いに引き寄せられた他の魔物達の相手までしなくちゃいけなくなっちゃうからね。
「アレスさんもずいぶん慣れてきましたし」
「うん、ジルがいい子で助かってるよ」
「わふっ!」
最初のうちはおっかなびっくりだったけれど、ジルの上にまたがって移動をするのにもずいぶんと慣れた。
ジルの方が僕が振り落とされていないように気を遣っているのがわかるので、ちょっと申し訳ない。
早いところ上達して、彼に負担をかけないようにしてあげたいところだ。
「……(にゅるん)」
「きゅきゅっ!」
ちなみにウールは僕の頭の上に乗っていて、マックスは地面を這うようにして進んでいる。
身体から出ている粘液を使っているからか、つるつると滑るように高速で移動ができるため、シルバーファングにも負けないほどの速度が出ていた。
「今日はこのあたりで夜営にしようか」
「「はいっ」」
集落を出て既に三日目にもなると、ある程度夜営をするのにも慣れてくる。
完全に日が落ちてしまうと夜目の利かない僕らでは魔物達のいいカモにされてしまうため、まだオレンジ色の夕日があるウチからしっかりと夜営のための場所を用意する必要がある。
といっても、さほど手間はかからない。
マックスに土魔法を使ってもらい壁を作ってもらい、三人で雑魚寝ができるスペースを用意すればそれで完成だ。
「お腹、空いた」
本格的な炊事をするだけの用意もないため、食事も保存食を使って簡単に済ませてしまうことがほとんどだ。
魔物避けに火を焚いて、持ってきている干し肉を軽く炙る。
「はふはふっ」
「熱いけど……美味しいね」
いくつかの香草を使って味付けをしているおかげで、スパイシーで舌がピリリとする。
噛み応えがありすぎるのが難点だけど、火で炙ったおかげで香ばしさも加わり、十分美味しく食べることができた。
こういうのもキャンプみたいで、案外悪くない。
「チチッ!」
軽食を終えて和んでいると、マリーが鳴きながら飛んでくる。
僕達の頭上にやってきたかと思うと、空を旋回し始める。
どうやら少し離れたところで魔物を仕留めてきたらしい。
「行ってくるね、ジルは警戒お願い」
「わふっ」
マックスとマリーと一緒に森の中を歩くと、川沿いのところにくるりと仰向けになって倒れている熊の姿があった。
マリーが一撃で仕留めたらしく、身体がこんがりと焼けている。
流れ出している血と肉の匂いで、ものすごい匂いがする。
匂いに釣られて、だとそう遠くないうちに魔物がやってくるだろう。
僕達が食べる分だけを、ナイフでパッパッと切り分けて戻る。
もちろん従魔の皆が食べる分もなので、量はかなり多めだ。
おかげで来る時よりも少し時間がかかってしまった。
「それは……」
「アンガーベアーの肉だね。マリーが仕留めてくれたやつ」
保存食だけではどうしても腹持ちが悪いので、マリーやジルに適宜魔物を狩ってもらうことで夜ご飯の足しにさせてもらっていた。
用意していた木串を使い、肉を焼いていく。
ふりかけるのは、あらかじめ持ってきていた塩と香草を混ぜた特製のハーブソルトだ。
使っている香辛料が少ないのでさっきの干し肉と比べるとパンチは劣るけれど、少し優しい味わいで素材の味を引き立てている。
うーん、こっちもなかなか捨てがたい。
「ゆっくり時間が取れるようになったら、皆でもキャンプでもしたいね」
「ですね、その時は私達がマーナルム秘伝のタレを用意します」
「そんなのあるの?」
「甘辛くて……美味しい」
「それは楽しみだね。さっさと向こうの様子を確認したら、また皆で遊ぼう」
「思っていたより早くつきそうで、少しホッとしています。やっぱり長いこと離れていると、心配ですから……」
移動の期間を短縮するため、移動できる時間は可能な限り駆けるようにしている。
朝と昼は保存食で済ませてしまい、夕飯は夜も動ける従魔の皆に狩りをしてもらい、獲ってきた食材を食べるようにしている……といった具合だ。
おかげで想定より早く、集落へたどり着くことができそうだ。
僕はウィチタ達とキャンプ気分を味わいつつ、森の中を順調に踏破し……そして一週間ほどで、『疾風のたてがみ』の集落へとたどり着くのだった――。
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