第2話


「よし、それじゃあまず最初に肩慣らしといくか!」


「は、はいっ!」


「頑張りますっ!」


 アレスを追放した『ラスティソード』は、意気揚々と依頼へ挑むことになった。


 リーダーであるバリスの『勇者』のジョブは極めて稀少であり、身体能力と魔法への適性を大幅に上げる非常に強力なものだった。


 そのためアレスの後釜を狙う者達は多く、申し込みは殺到。

 その中でバリスが選抜したのが、今回新たに加わった二人だ。


「じゃあミスティは斥候を頼む、ニーナはリアとヒメの護衛を」


「は、はいっ!」


「了解、です」


 斥候を担う『盗賊』のジョブを持つミスティ、そして後衛を護衛する役に『騎士』のニーナを入れて捜索を開始する。

 今回受けた依頼はレッドオーガ五体の討伐。

 Bランク冒険者としてはそれほど難しいものではない。


 けれど……討伐はまったくといっていいほど上手くいかなかった。


「これでまだ二体か……」


 街を出たのは昼頃、そして時刻は既に午後六時。

 にもかかわらず彼らは、肝心のレッドオーガを二体しか狩ることができていなかった。


 イライラとし始めるバリスが舌打ちをすると、レッドオーガの痕跡を探しているミスティがヒッと喉の奥を引きつらせる。


「おいミスティ、レッドオーガはまだ見つからないのか?」


「す、すみません、これでもかなり頑張ってはいるんですが……」


「頑張ったって意味ないの、結果を出しなさいよ結果を! 今までだったら日が暮れる前には余裕で十体は狩れてたと思うんだけど!?」


 ヒステリックを起こすリアが水魔法を使い、水の鞭でミスティの頬を叩く。


「あぐっ!」


「……チッ、あのアレスより使えないとか、どんだけよ、ホントに」


 アレスはサンダーバードのビリーとファイアスパロウのマリーを使って行っていた高空偵察は、敵の居場所を丸裸にすることができた。


 感覚同調と呼ばれる『テイマー』のスキルを使い位置取りを確認しながら向かえる彼のおかげで、バリス達は今までわざわざ時間をかけて捜索をすることもなく魔物討伐だけに集中することができたいたのだが……それができる彼は、もういない。


「あっ、あそこに三体発見しました!」


 日が暮れ始めてからも必死に捜索を続け、顔を赤く腫らしているミスティはなんとかレッドオーガを見つけることに成功する。


「よし、でかした! 行くぞっ!」


 戦う機会がなかなか訪れず焦れていたバリスが、レッドオーガ目掛けて飛び出していく。


 彼はレッドオーガと切り結び始めた。

 だが……


「――ちいっ、なんで倒せねぇ!?」


 バリスが剣を打ち合わせても、レッドオーガはなかなか倒れなかった。

 今までであればアレスの従魔達がレッドオーガの体勢を崩し、後ろから攻撃を行い、注意を逸らすことでバリスが渾身の一撃を当てることができた。


 けれど今の『ラスティソード』に前衛は一人。

 一応ミスティも戦ってくれているものの、焼け石に水。

 レッドオーガを倒すのに時間がかかるのは自明の理であった。


「「グガアアッッ!!」」


 バリスへ回復魔法をかけているヒメを確認したレッドオーガ達は、後方にいるヒメを狙うべく駆け出す。


「ニーナ、二体そっちに行った! 俺が倒すまで、時間を稼げ!」


「――無茶言わないでくださいよっ!」


 リアは水魔法でレッドオーガを攻撃するが、強靱な肉体を持つレッドオーガは止まらない。


 ニーナは必死になって時間を稼ぐが、二体のレッドオーガを捌ききることはできず、前後から攻撃を受けてしまう。

 鎧も盾もボコボコになってしまい、腕はあらぬ方向に曲がっていた。


「あぐっ!」


「待ってろ、今行くッ!」


 なんとかしてバリスがレッドオーガを倒し、ヒメ達の下へ向かう。


「あぐっ! 舐めんじゃ……ないわよっ!」


 リアはレッドオーガの剣を受けながら、水魔法を発動。

 口から血を吐き出して吹っ飛ばされながらも、レッドオーガを仕留めてみせる。


「ひ、ひいいいいいっっ!」


 もう一体のレッドオーガの拳が、逃げようとするヒメの腹部に突き立った。

 ヒメはボールのように吹っ飛んでいき、そのまま地面に叩きつけられる。


「ヒメ! ――うおおおおおおおおっっ!! ホーリースラッシュ!!」


 レッドオーガがヒメに気を取られていたおかげで、バリスは後ろから『勇者』のジョブで使える最大の一撃を放つことができた。


「グア……」


 倒れたレッドオーガにとどめを刺してから、バリスは急ぎヒメの下へ向かう。


「痛い、痛いです……」


 ヒメが自分の傷を癒やし、そのままリアとニーナ、ミスティの回復をする。


 なんとか五体のレッドオーガを討伐することはできた。

 しかしメンバーは大きな怪我を負い、戦果は以前よりはるかに少ない。


「畜生、なんでこんなことに……」


「――そんなこともわからないの!?」


 至る所が折れ曲がっている全身鎧をなんとかして着込んだニーナが立ち上がる。

 自分をキッと睨むリアとヒメのことを気にせず、バリスの方を見つめた。


「わからない……よければ教えてくれないか?」


「あなた達が今まで上手くいっていたのは、ジョブの力じゃない。あなた達が追放した『テイマー』が、有能だったからよ」


「あの雑魚が……有能? 何を馬鹿なことを……」


 信じられないといった顔をするバリスを見て、全身がひりひりと痛んでいるニーナは金切り声を上げて叫んだ。


「『盗賊』のミスティを超える索敵能力だけじゃない! 自分より強力な敵をしっかりと引きつけることのできる中衛としての能力は『騎士』の私より高い! それが有能じゃなくてなんだっていうのよ! あなた達は彼を――アレスさんを、追放するべきじゃなかった!」


「私も……その通りだと思います」


「ミスティまで!?」


 頬を腫らしたままのミスティも立ち上がると、ニーナの脇に立った。

 彼女は『ラスティソード』の三人を見て呆れたように、


「今日一日の探索でわかりました。私はあなた達にはついていけません……自分勝手で仲間が暴力を振るっても見て見ぬ振り……こんなのが『勇者』とか、ほんと笑えますね」


 へらっと笑うミスティを見て、バリスが殺気立つ。

 ミスティとニーナはそのまま何も言わず踵を返し、その場を去って行った。


 後には苛立つバリスと、怪我から完全に復帰できていないリアとヒメだけが取り残される。


「何が……何がいけないっていうんだよ! ……そうだ、あいつが、全部あいつが悪いんだ……へへっ、今頃は森で野垂れ死んでるに違いない、いい気味だぜ……」


 ブツブツと呟き出すバリスを、なんとかしてなだめるリアとヒメ。


 こうして『ラスティソード』の新メンバーは、加入してすぐに脱退することとなる。

 その理由はすぐに冒険者の間で広まり、『ラスティソード』は大きく信用を失うことになった。

 だがそれすらも、彼らの崩壊の序曲でしかなかったのだ……。













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