第一話 ゼウス~浮気男ではなかった……かもしれない~

 前話にて『黒雲寄せるクロノスの御子』と述べましたが、これはギリシャの最高神ゼウスのことを指します。なぜこのような呼び方をするのかというと、それは神々の司るものに合わせて、呼び方が変わるからなのです。

 例えば、『黒雲寄せるクロノスの御子』というのは、古代ギリシャ語では『ネフェレゲレタ』といい、『雷神』としてのゼウスを表しています。他にも


ソシポリス……都市の守護者

パンヘレニオス……全てのギリシャ人の神

アフェシオス……雨を降らせる君(天候を司るため)

ゼウス・エレウテリオス……解放者ゼウス(ポリスの独立自治を守るという意)


などなど、ここでは語りつくせないほどです。神々が司っているもの――権能と呼びます――に合わせて呼び方も変わり、またその権能ごとにポリスで崇められたりもしました。


 さぁ、呼び方の次に、ゼウス自身について語り始めましょう。



①ゼウスってどんな神?


 ギリシャ神話におけるゼウスは、彼の兄姉とその子供たち、オリュンポス神族の大黒柱であり、あらゆる英雄の父であり、全知全能の最高神です。その権能は上述したように、都市の守護、王権、正義、天空などなど幅広く存在します。

 ですが、生まれた時からこんなに最強だったわけではありません。彼が最高神となったのは、実父クロノスとのガチンコ親子喧嘩『ティタノマキア』で勝利を治めたからなのです。


 オリュンポス神族よりも前に、世界を治めていた神々を『ティターン神族』と言います。そのティターン神族の長がクロノスという農耕神であり、ゼウスらの実父でした。クロノスは、自らの王権を息子らに奪われることを恐れ、子供が生まれるとすぐに食べてしまうTop of the クソ親父だったわけですが、妻レアの機転でゼウスだけは逃げることができました。

 その後ゼウスは、デロス島に預けられ、己の兄姉たちを救うべく特訓し、ついにクロノスの腹から吐き出させることに成功! その後、救い出された兄たちと共に、ティターン神族を倒し、めでたく最高神の地位に就いたのです。


ゼウス「そそ、ワシ最強な最高神だから!」


 と余裕ぶっこいておりますが、ギリシャ悲劇の元凶は大体ゼウスです。理由は彼の絶倫不倫エピソード。美女と共寝したいがために、黄金の雨に姿を変えて美女に降り注いで共寝したり、動物に姿を変えて美女と共寝したり、挙句の果てには自分の娘や孫と(以下略)……と出てくる出てくる性癖歪みまくりなエピソードが!! 

 こうして浮気しまくり、子供を設けまくった結果、正妻ヘラの嫉妬によって数多くの人間が、その人生を狂わされたのです。特にヘラクレスがやばい。

 

『なんでこんな下半神が最高神なんだろう?』


と疑問に思うのは当然です。

 ですが、ここには大きな穴があります。不倫男が最高神ではなく、『最高神だから不倫男にされた』のです……



②絶倫不倫エピソードの真実


 前話にて述べたように、神話は古代人にとって血筋や国家の説明書でもあります。現代のようなDNA検査や、記録保管技術がなかった時代ですから、神話は古代人にとっての『真実』でした。というわけで……


モブA「俺、最高神の血引いてますぅ~~」

モブB「俺だって祖先にゼウス様がいますぅ~」

ポリスA「うちのポリスの王はな、ゼウスの血を引いていてな(以下略)」


 このように、各ポリスで『自称ゼウスの子孫』が大量に出現した結果、神話のバリエーションが増加し、その辻褄を合わせるために、彼の浮気エピソードが量産されたのです。事実、ゼウスが黄金の雨に姿を変え孕ませたダナエ、その間に生まれたペルセウスは、ミュケーナイ王家の祖とされています。

 これは、当時の人々にとっては当たり前であり、各ポリスで都合の良いように改ざんされたり、新しい神話が生まれていったのです。ちなみに、こうした王家や貴族たちは『ゼウスのえい』と呼ばれ、自らを『ゼウスより生まれたデイオゲネース』と称したそう。なんとも身勝手ですね。


 ですが、これはあくまで『ゼウスと人間』の話です。では、『ゼウスと女神』の婚姻(不倫)エピソードは、どのようにして生まれたのでしょうか?


 次回は、人間同士は勿論、神々の結婚を司る『牛の眼の君』について語っていきましょう。

 

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