第21話 鷲の魔獣長ホーク①


 魔獣達との闘いで疲れ気味のリアンだったが、彼は休む間もなく、転送魔法陣のある方へと向かっていた。


「ステラ様、これ以上魔獣が出てきたら、ノアとの遭遇に間に合わなくなります。あの転送魔法陣を壊す事はできないでしょうか?」


『あの魔法陣は出口だから、入り口側の魔法陣を叩けば使えなくなるわ。あの黒い部分が見えている間は向こうと繋がっているから、炎を撃ち込めば、入口側にもダメージを与えられるはずよ』


星の剣となったステラの声は、リアンの脳に直接伝わってくる。


「分かりました、やってみます」


 星の剣を構えたリアンは、転送魔法陣の内円の暗黒部分に向かって、渾身の火炎を撃ち込んだ。凄まじい螺旋の炎が魔法陣の暗黒部分に吸い込まれていく――。少し間をおいて、暗黒部分が真っ赤に染まったかと思うと、転送魔法陣は、ゆっくりとその姿を消していった。


『うまくいったようね。これで暫く魔獣は来ないわ。今の内にホークを倒して、ノアの所へ急ぎましょう』


 リアンが「はい!」と返事を返したその時だった。


「おい、そこの金ぴか野郎! 儂はアーロン様の四天王の一人、鷲の魔獣長ホークだ。よくも我が配下を殺してくれたな。命には命で償ってもらうぞ、覚悟せい!」


 重低音の声にリアンが振り向くと、何時の間にか、ホークがすぐ傍まで来ていた。


「私の名はリアン、受けて立ちましょう!」


 リアンが星の剣を握り直して、戦闘態勢に入った。


「手加減はせん。最初から魔獣化して、一気にひねり潰す!」


 ホークは言うなり、その場で足を踏ん張り魔獣化を始めた。魔獣化と言っても、彼の場合は巨大化するだけだった。体長は五メートル程に膨らみ、銀色の翼と身体を覆う羽根、そして鋭い目は鷲そのものだが、顔や体格は人間の形を崩していない。首を護る為か、黒色の首輪をはめていて、手には、六メートルはあろうかという大薙刀を下げていた。


 魔獣化が終わったホークは、まるで瞬間移動のようにリアンに近付き、大薙刀を大上段から振り下ろして来た。リアンの倍以上の巨体を思えば、その動きは、信じられないほどの速さである。

 その大薙刀を、懸命に星の剣で受け止めたリアンだったが、刃は、彼の頭擦れ擦れまで達していた。

 ホークは間髪を入れず、大薙刀を強引に抑え込んで、リアンの頭を割ろうと力を込めた。


「ふん!!」


「クウッ! な、何て力なんだ!」


 リアンは負けじと押し返すが、次の瞬間、押し合っていた剣がフッと軽くなったかと思うと、ホークの姿は忽然と眼前から消えた。つんのめったリアンが、背後に気配を感じた刹那、ホークの大薙刀が、彼の脳天に振り下ろされていた。


「ウウッ!」


 大薙刀の直撃を頭に受けたリアンは、一瞬目が眩み、そのまま叩き落されるように空中を落下していった。

 途中で態勢を立て直したリアンだったが、追いかけて来たホークの大薙刀に胴を払われ、再び脳天に一撃を食らった。

 アポロンの鎧のお陰で、刃が身体に到達する事は無かったものの、身体へのダメージは少なからずあった。

 次元を超えたホークの攻撃に、リアンは為す術がなかった。


『リアン、大丈夫なの?』


 余りの一方的な攻撃に、ステラからも気遣いの言葉が漏れる。


「上には上が居るんですね。今までで、一番最悪の状況です!」


 リアンが命を投げだして手に入れた、星の剣の黄金の炎も、ホークには何の役にもたたなかったのだ。

 最早、ホークの攻撃を避けようと足掻いても、結果は何もしないのと同じだと悟ったリアンは、一切の抵抗を止めて、アポロンの鎧に身を委ねた。


(くそっ! 魔獣の大将格とはいえ、想像を絶する強さだ。こうなったら、星の剣のパワーをもう一度上げるしかないが、星の剣は、これ以上進化できるのだろうか)


 リアンは、どんどん強くなっていく敵に、星の剣が何処まで対応できるのかと考えると、不安になったのである。


「ステラ様、貴女の力は無限なのですか?」


 リアンは、思い切ってステラに訊いてみた。


『リアン、残念だけど、次の段階が私の限界なの。最初の戦いで使ったフレアが、私の最大の武器なのよ』


「フレアでも倒せない敵が現れたら、どうすれば……」


『リアン、先の事を考えて不安になるのは分かるけど、今それを考えても仕方ないでしょ。先ずは目前の敵を倒すことに集中しないとね』


「そうでした。……それで、フレアモードへのトリガーとなる心とは何でしょうか?」


『私への絶対の信を持っている貴方なら分かるはずよ。貴方自身と私(星の剣)の存在を見つめ直せば、自ずと答えが見つかるわ』


 ステラは、それ以上詳しく話さなかった。

 

 ホークの非情な攻撃は、二人が、こうして話している間も続いていた。そのダメージは、じわじわとリアンの身体を蝕み始めていたが、彼は気力を振り絞り、最終段階へのトリガーとなる心とは何かと、全神経を集中した。


(前回のパワーアップは、星の剣への絶対的な信がトリガーとなったが、更にその上を行く思いとは何だ……。自分と星の剣の存在を見つめる?)


 彼は目を閉じ、更なる思考の深みへと入っていった。


 聞こえていた衝撃音や体感が徐々に消えて行き、何も聞こえず何も感じない境地へと沈んでいく。


 そして、最後に残った感覚。――それは、リアンの掌に伝わる星の剣の温みだったのである。


 如何なる縁か、自分を護り鼓舞してくれる星の剣(ステラ)。悪戯に朽ちる身を、この世界を救う救世主へと押し上げてくれている星の剣。ステラ無くして今の自分は無いし、未来も無い。それは、今の自分の全てではないか――。

 リアンがそこまで思い至ると、女神ステラへの感謝の念が、生命の奥底から湧きおこったのだ。


(なんと有難い事か!!)


 感謝は喜びとなってリアンを包んだ。その刹那、星の剣とアポロンの鎧が、黄金から白色へと輝き出したのである。それは、太陽のように直視できないほどの輝きだった。

 これこそ、星の剣の最終進化であるフレアモードで、半魔獣達を一瞬で殲滅したフレア攻撃が可能になるのだ。


『貴方の思いは確かに受け取ったわリアン。さあ反撃よ、フレア攻撃の凄まじさは知っているわね。これは、今迄とは違う次元のパワーだということを忘れないで。使い方を誤ると、味方迄も巻き込んでしまうから慎重にね』


 フレアモードとなったことで、リアンの身体にも変化が起きた。それは、今迄見えなかったホークの動きが、完全に目で捉えられるようになったのだ。


 次の瞬間、渾身の力で打ち込んで来るホークの大薙刀を、リアンの星の剣が見事に打ち返したのである。


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