第4話 破壊力の楽しさよりも、底知れぬ力の怖さを

 戦前の打倒沢村特訓に始まって戦後のダイナマイト打線へと、わが大阪タイガースは打力をウリのチームとして名を売ってまいりました。

 1947年の1リーグ日本一の後、慶応の強打者別当薫を獲得したのも、さらなる打線強化に加えて打線の目玉というべき戦力を補強したとみるのが妥当。


 しかしながら、1949年末の2リーグ制移行の際に毎日球団への大量移籍が発生し、ダイナマイト打線はその戦力を大いにそがれてしまいました。

 それでもまだ球団創設時から在籍しているミスタータイガースがおられたから、何とかなっておりました。他にも、三塁打と言えばこの人ともいうべき金田正泰や、完全試合を逃してしまったことが原因というわけでもないが投手から打者に転向した田宮謙治郎といった強打者がいましたから、まだまだ打線のチームと言えるだけのものがありました。

 しかし、それで好成績は維持できて入るものの結局は有償で傷、すなわち、優勝できずが長年続いておりました。今さっきの誤植がまったく洒落になっていない状態だったのであります。


 そこに現れた岸一郎の建白書。

 広い甲子園を活かした投手を軸とした守りのチーム。


 これは確かに、ダイナマイト打線の老朽化とともに、静かに、しかし確実に、このチームを変えていきました。それが最も具現化したのが、1962年と1964年のセリーグ制覇。そのときの監督は、元巨人監督でかつて好投手を揃えて、甲子園締め切りの打倒沢村特訓を積んだ阪神打線に勝ち続けた藤本定義。

 別に先輩の建白書を実現しようと思われていたとは思わないが、結果的にはその方向に進んでいたという次第。

 1964年のセリーグ制覇は、まさに、その建白書の思想が三原マジックの下おどるメガトン打線を封じ、マジック1まで進んだ大洋を抑えてギリギリでの優勝。


~ 阪神ファンではあるけど、個人的には三原大洋対鶴岡南海の日本シリーズを見て見たかったような気もする。

 もっとも、私、生れてなかったけど(苦笑)。


 大洋ホエールズは1960年に西鉄からやって来た三原脩監督の下、最下位から日本一に。翌年こそ最下位に沈んだが、1年おきに優勝を争うチームへと変貌を遂げていました。中日を干された森徹を獲得し、桑田武や近藤和彦らを合わせて組まれたメガトン打線に、阪神投手陣と鉄壁の内野陣がギリギリで勝ったのです。


 これまさに、岸一郎の功績と言わずして何と申そう。

 無論、そのときの監督は藤本定義であり、岸一郎は既に故郷の敦賀で隠遁生活をしていた。いうまでもなく、岸一郎は直接手を下したわけではない。

 しかしながら、その思想は確実に、老朽化した(藤村さんごめんなさい)ダイナマイト打線を解消し、投手を軸の守りのチームへと代えていたのですよ。ええ。 


 さて、時は2024年4月30日。

 阪神は遠征先の広島でカープ相手に7対1で快勝。

 その内容たるや、四死球(よんしきゅう、とわたしは読んでおる)10!

 対するカープ、初回先頭打者本塁打こそあったが、その後は村上投手に抑えられてしまいました。

 昨2023年のプレーオフ、世間ではクライマックスシリーズと申しますが、相手を寄せ付けぬすごみを見せた3試合を思い出させましたね。

 勝ったぞー!とファンなら喜びを爆発させてさあ一杯と行きたくなるようなところではあるものの、なんだか、応援しているチームであるにもかかわらず、底知れぬすごみと怖さのようなものをじわじわと感じさせる試合結果でした。


 昨日私は、野球中継を観ていないばかりか、リアルタイムでネット情報を確認していたわけでもありませんでした。ある若い人と一杯飲んでおりましたから。

 ですが、今朝起きて阪神の試合を確認して、びっくり!

 うれしさよりも、怖さのようなものを感じないわけにはいきませんでしたよ。


 図らずも、今年の阪神には岸一郎という人物が背後から秘かにどこか見えない背後からタクトを取り、生きる岡田彰布監督、早稲田の後輩になる彼をして、かくも凄みのある野球をさせるべく動いているように思えてならんのです。


へびのあし

 でも、個人的には、1985年のようなダイナマイト打線が見たいなぁ~。

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