第8話

 床に文庫本が落ちていた。


 見たことがあるような、見たことがないような本だった。


「えっと『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん10 終わりの終わりは始まり』って本だ。これ確か高校生の時に読んだ」


 高校生の時に読んだライトノベル。その本がなぜ床に落ちているのかが私には分からない。でも文庫本を床に落ちまま放置しているのもあれなんで、本棚に片付ける。


 本棚にはいっぱいの本。見覚えのある本もあるけど、見たことのない本もある。そして先週見たときと若干並んでいる本の種類が変わっているのは、気のせいではないはず。でもまあいいや。


 とりあえず黒いワンピースにミントっぽいカーディガンを羽織り、部屋から出る。


「おはよ-。今日の夕ご飯は豚肉と大根の炒め物だよ。あとお吸い物とごはん」


 夕占ゆううらさんがキッチンで料理をしている。


「おはよう。おいしそうだね」


 話しながら、テレビの前にあるソファーへ座る。テレビでは夕方のニュース番組をしていた。ABCの『おかえり』だ。


「ラムネのアイスなんてあるんだ」


 テレビではラムネのアイスについて紹介していた。私が食べたことのなさそうなラムネのアイス。1度は食べてみたいなって思う。そんな機会、ないかもしれないけど。


「夕ご飯にするよ」


「はーい」


 夕占さんを手伝って準備をしてから、夕ご飯を食べる。


 豚肉と大根の炒め物は醤油の味がしっかりして、お吸い物も出汁が効いている。すなわちとってもおいしい。


「オリンピック盛り上がってるよね」


 オリンピックの話題で、ニュース番組が盛り上がっている。どうやら金メダルを取った人もいるらしく、世間ではオリンピックが話題になっているみたい。


「べにははオリンピックやパラリンピックが嫌いだから、興味なさそうだけど」


「そうなんだ。まあ私も興味ないよ」


 オリンピックで見たい試合はないし、そもそもパラリンピックは関係ない。そこでオリンピックやパラリンピックが開催されていても、関係ない。


「そうだオリンピックの開会式録画したから、後で見ようよ」


「いいよ」


 そういえば先週そんな話していた。確かオリンピックの開会式は深夜にあって、私は見ることができなかった。そこでわざわざ夕占さんは私のために、開会式を録画してくれたみたい。


「セーヌ川の入場行進で、色々イベントもあったから、見て楽しめると思うよ」


「それは楽しみ」


 夕占さんが楽しめることが、私の楽しいことではないかもしれない。でも夕占さんの楽しいことが、私は気になる。そこでオリンピックの開会式を見るのは楽しみだ。


 楽しめなくても、それはそれで時間が潰せるのなら、いいかもしれない。


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