5-1 

 あざやかな花火が、絶望のような暗い空を彩る。


 大きな段ボールをいくつか積んだ台車で運搬するときに『ドア開けまーす』とか大声でいっておいて、ドアをしめない奴はこのきれいな花火で燃えてしまった方が良い。そうしたらきっと、そういう奴の心もきれいになるだろう。


 ドア開けっぱなしだと冬はただ寒くて辛いんだよ。夏だって、冷房のききが悪いし。何よりも会社の外にあるガラス製のドアには『ドアが開けっぱなしだと地球温暖化を進めます』とか書いてあるんだけどな。恐らくドアを開けっぱなしにして他人に迷惑をかけた上で、地球温暖化を促進する。それをしたいんだろうな、ドアを開けっぱなしにしている奴は。


 まあ会社の社員通用口を開けっぱなしにする奴のことは今いいや。それよりも今は花火、花火。


 台風がいつくるか分からない。いや今日は晴れているし、どうせ台風がくるのは明後日以降だ。そんな状況でも、花火はいつも通りきれいだ。


 青、赤、黄。カラフルな火の光。この花火をどれだけの人が見ているかは分からない。だって隣の市、何よりも大阪でも花火が打ち上げられている。そんな状況で、何人とこのきれいな景色を共有しているかは分からない。


 それでもいい。例え世界で私しかこの花火を見ていなかったとしても、きれいさが変わるわけがない。


 花火は見る人を選ばない。人が花火を見せたい相手を選ぶだけ。そう思いながら、ただ花火を見続ける。


 この世の中が平等じゃないってことくらい分かっている。


 会社では自分専用のパソコンを2台使っている人がいるのに、自分専用のパソコンが無くなってしまう人がいる。


 1人で2台というブルジョワと自分専用のパソコンがない人。その区別はどうやってつけているんだ? 同じ会社で障害者雇用として働いているのに、どーしてそんな格差ができるんだ? 


 人が増えるからパソコンが足りなくて、仕方ない。そうじゃないんだよ。人を増やす前にパソコンを増やせよ。それか2台使っている人が1台譲ってやれよ。


 とにかく1人で2台のパソコンを使うことが許されている人と、自分専用のパソコンが無い人。そこに格差が出るのはおかしい。やっぱり優遇されているチームと、そうじゃないチームってあるのかな? 考えてみれば優遇されているチームに1人で2台のパソコンを使っている人が多いし、何よりも作業スペースが広い。そうじゃないチーム、実は私が所属しているチームなんだけど、こちらに自分専用のパソコンがない人がいるし、そのうえ作業スペースも広くない。


 実は社員通用口を開けっぱなしにしている奴も、優遇されているチームに所属している人だ。優遇されているチームの人は社員通用口を使うことが少ないし、社員通用口の近くに席も少ない。そこで社員通用口が開けっぱなしだとしても、別に困らないんだろうな。


 まあ優遇されているチームの話は今おいておいて、再び花火に集中する。光のたまが空を走り、突然はじける。その後できれいな光で、空を明るくする。


 時間は今8時10分くらい。ちょくちょく花火が終わる時間に近づきながら、どんどん火がきれいに光って消えていく。


 今は夏真っ盛りだから、暑いはず。でものどのかわきを感じない。きっとさっきウーロン茶を飲んだこと、夕ご飯を食べたこと。これで水分と塩分を補給しているから、大丈夫なはず。


 冷房が効いているってわけではないので、首や脇の下からじんわりと汗をかいてきた。汗といえば会社での隣の人かな?


 会社で私の隣に座っている人は、科学的な甘さや消臭剤っぽい香り、それに汗のしょっぱさがまじったようなもわっとした匂いがよくしている。もわっとだよ、もわっと。冷房が効いているはずの、会社の中でのもわっと。これはどうしてどうなっているのか、私には分からない。ただ他の人はそういう匂いがないから、きっと隣の席にいる人だけ匂いが強いのだろう。汗の臭いを抑える努力、それが隣の席の人は足りないのかな? そこら辺、私には分からない。


 あともうすぐ終わるからか、花火が何発も続く。いつもよりも花火の光で明るく、花火の音でにぎやかな空。この明るくてにぎやかな空を、今はじっくり観察したい。

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